パキスタン 悪化する治安 杉尾直哉氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130607k0000m070111000c.htmlより、
記者の目:パキスタン悪化する治安 杉尾直哉
毎日新聞 2013年06月07日 00時39分

 パキスタンの治安悪化が深刻だ。隣国アフガニスタンで2001年に始まった米国主導の「対テロ戦争」の影響で、激しいテロ攻撃が起きている。自爆攻撃はアフガン国境付近だけでなく、南部の最大都市カラチにも広がっている。過去30年間で、この地域の秩序が崩れていった歴史を考えれば、当面の平和回復は困難だ。それでも、テロを絶つ方策を考えたい。
 この地域での米国のテロ対策の特徴は、アフガン国境地帯で米中央情報局(CIA)が繰り返している、無人攻撃機による空爆だ。米本土がテロ攻撃を受ける前に、潜伏地でテロリストを暗殺するのが目的だが、「やられる前にやる」という空爆の考え方に大きな問題があると思う。
 米国のシンクタンク「新アメリカ財団」の推計によると、パキスタンでは米国による無人機空爆が04年以降、356回実施され、最大2706人の武装勢力が殺害された。民間人も最大307人が犠牲となり、国民の反米感情をあおっている。住民は空爆によって「報復テロが増大している」「若者たちを武装集団に導く口実を作っている」と語る。

無人機空爆被害
反米感情あおり
 09年に北西部の自宅を空爆され、10代の息子と30代の弟を亡くした40代の男性を取材したことがある。「やつらは勇気がないから遠隔操作の無人機を使っている。米兵と一対一で対決できるものなら、この手で殺害し、息子たちの復讐(ふくしゅう)を果たしたい」と語る彼の話を聞き戦慄(せんりつ)を覚えた。
 「主権・人権侵害」の批判が強い無人機空爆について、オバマ米大統領は5月23日、「今後は一般人を巻き添えにしないことが確実な場合に限る」と表明した。だが、攻撃自体は「効果的」と正当化した。そうした考えは、米国建国以来の国民の自衛思想と深く結びついていると思う。米国には「自宅を一歩出れば無法地帯」という考えが根強くある。銃乱射事件が起きるたびに、銃所持の権利を主張する全米ライフル協会は「学校を武装せよ」と訴える。その主張の根底にある自衛思想が、外交政策にも反映されているのではないか。オバマ氏自身は国内の銃規制に熱心だが、国外の問題に対処するとき「米国さえ安全なら」という考えにとらわれているように思う。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130607k0000m070111000c2.htmlより、
 パキスタンで取材していると、米国の独善的な外交政策こそ地域の平和をかき乱す最大要因だと思えてくる。1979年のソ連のアフガン侵攻のときから同じだ。米国は、ソ連兵と戦わせるために「イスラム聖戦士」を中東などから集め、義勇兵としてパキスタンに集めた。ソ連と戦って死ぬのは、武器を渡され訓練を積んだアラブ人や地元の若者だった。一昨年5月、潜伏先のパキスタンで米軍に暗殺されたウサマ・ビンラディン容疑者も、この義勇兵出身だった。
 「自分たちさえ無傷ならいい」という外交政策は禍根を残す。米国は今こそ、極秘にされている無人機の使用実態を公表し、謝罪すべき点があれば率直に謝罪すべきだ。

地域の特殊性を
考えるべき時 
 さらに、米国は、この地域の特殊性を考えるべきだ。パキスタンなどイスラム教世界の死生観は我々とは著しく異なる。例えば、「預言者ムハンマドを冒とくした者は死刑にすべきだ」というのは常識なのだ。一昨年、パキスタンでは、「冒とく罪」廃止を訴えた政治家が護衛に射殺され、犯人は「英雄」とたたえられた。彼らを「前近代的」とか「非民主的」と切り捨てるのは簡単だ。だが、それだけでは、我々はイスラムの人々との接点を見いだせないばかりか、反感を買うだけだろう。
 教育問題にも触れたい。パキスタン南部カラチのスラムで、教育支援を過去20年間続けてきた「イダラ・アルカイル福祉協会」のムハンマド・マザヒル会長(59)は「無知と貧困が、子供たちを麻薬組織や暴力団、武装集団に引き入れる。教育こそ国づくりの基本」と語る。今、パキスタン国内には教育を受けられない子供が1500万人もいるという。ビンラディン容疑者のように、裕福な家庭に育ち教育を受けたテロ容疑者はいる。一方、教育を受けられず、何も知らない子供たちが自爆テロに駆り出される現実がある。教育を通じ、どんな場合でも「自分と他人の命を大切にする」という、人間として当たり前のことを忘れない子を育てねばならない。
 「殺される前に殺す」のではなく、「殺されないように共に生きる」。そのために今は、皆が知恵を絞るべきときだ。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中