週のはじめに考える 「改憲」より「日本再建」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013061602000128.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 「改憲」より「日本再建」
2013年6月16日

 参院選が近づいてきました。「憲法」「成長戦略」が主な争点ですが、多党化のせいか、争点も拡散しがちです。いま何を論ずべき時でしょうか。
 「憲法は国家が身につける衣服に例えられる」といったのはマックス・ウェーバーの弟子で、比較憲法学の大家カール・レーベンシュタイン博士(ミュンヘン大)でした。同博士は一九六二年来日しましたが、当時、日本国内では内閣の憲法調査会(高柳賢三会長)を舞台に改憲、護憲論議が活発化していました。それに対して、こんな感想を漏らしています。

◆空気のように無関心で
 「国民が憲法に関心を持つのが良いとは限らない。むしろ空気のように無関心でいられるほうが良い憲法だ。日本のように経済的にうまくいっている国、国際社会で急速な進歩を遂げている国では国民は憲法にあまり関心をもたず、憲法から遠ざかる」
 昨年末の衆院選で自民党が政権の座に返り咲いて以来、「国家の衣服」を変えようとの動きが強まっています。それも、どんな服に着替えるかより「まず衣替えありき」で、改憲の発議要件(憲法第九六条)である衆参両院での「三分の二」を「過半数」に緩めようというのです。
 この点に関して世論の反応はどうでしょう。本紙の全国世論調査(今月初め)でも改憲、護憲論は拮抗(きっこう)していますが、発議要件については「緩和反対」が54・5%(賛成38・1%)と、安倍自民党や維新の会、みんなの党の主張に批判的です。
 先に公開されたスピルバーグ監督の映画「リンカーン」では、奴隷制廃止へと米国憲法修正第一三条を下院で可決するため三分の二獲得に奮闘するリンカーン大統領の姿が印象的でした。三分の二のハードルを過半数に下げれば楽だったでしょうが、そこには手をつけなかった点に米国における民主主義の健全性を見る思いです。

◆「子ども」がいなくなる
 レーベンシュタイン氏の「空気のように無関心でいられるほうが良い憲法」論も、同様に憲法のありようを示唆しています。いま緊急の課題として国民的に議論すべきテーマは憲法九六条ではなく日本国の“岩盤”ともいうべき「人口」問題ではないでしょうか。
 「日本の子ども人口時計」をご存じでしょうか。十四歳以下の児童数の推移をリアルタイムで分かるよう東北大の吉田浩教授(加齢経済学)らが制作したもので、過去のデータから推測すると、およそ百秒に一人、年間二十八万人の子どもが減り続けています。
 「ああ少子化対策か」と単線的に受け止めてはいけません。次の四つの観点から「国家的危機」と認識すべきです。「国を崩壊に導く時限爆弾」(社会学者の水無田気流氏)という声もあります。
 第一は「人口パワー」の減退。人口の多い順に中国、インド、米国、インドネシア、ブラジルなどで日本は十位。卑近な例で恐縮ですが、かつて日本の人口が七位だったころ日刊紙の発行部数は日本、米国の順でしたが、現在は中国、インド、そして日米です。
 第二は「世代均衡」の崩壊。「騎馬戦型」といわれた世代ピラミッドが「肩車型」になるにつれ、若者や中年層の税や社会保障負担が急増します。しかも彼らが老齢化した時に相応の給付が受けられるか不安です。
 第三は「政治がゆがむ」。最近「シルバー民主主義」という表現が使われるように有権者が高齢化して、しかも若年層に比べ投票率も高い。政治全般が高齢者重視に傾きがちです。
 第四は「生産労働人口」の減。非正規雇用の増加に伴い正規雇用者の労働環境改善も頭打ちという「雇用の劣化」が目立ちます。
 安倍内閣は七日の少子化社会対策会議で「四十万人分の保育の受け皿を増やす」など(1)子育て支援(2)働き方の改革(3)結婚・妊娠・出産支援-といった緊急策を決めました。だが、こうした限定的な少子化対策では効果が薄いのです。
 「少子化対策は子育て支援にとどまるものではなく、若い世代の経済的自立や結婚から子どもを育て上げるまでの幅広いライフステージを対象に実施されなければ効果はない」。松田茂樹中京大教授(社会学)は近著「少子化論」で、こう主張します。まさに「日本再建」策の根幹です。人口増は一朝一夕にして成るものではないだけに総合策が急がれます。

◆「強引な改憲なら国分裂」
 「改憲勢力が三分の二を占めたというだけで改憲できるものではない。憲法に多少の不備や欠陥があっても、それで国が滅んだ例はないが、改正を強行することで国内を分裂に導いた例はある」。半世紀前、内閣憲法調査会で副会長を務めた矢部貞治氏(拓大総長)の言葉が思い出されます。

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