iPS臨床研究 「過剰な思惑は禁物だ」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013070202000156.htmlより、
東京新聞【社説】iPS臨床へ 安全な再生医療目指せ
2013年7月2日

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用した臨床研究の計画を国が承認した。来年から目の網膜再生の治療法開発で、世界初の人への応用が始まる見通しだ。安全な医療技術を確実に育てたい。
 理化学研究所が実施する臨床研究は、加齢黄斑変性の治療法の確立だ。患者六人を選び、患者の皮膚細胞をiPS細胞にし、そこから移植用の細胞を作り網膜に移植する。その後、数年間にわたり有効性や安全性を調べる。
 厚生労働省の審査委員会が計画を承認した。約七十万人の患者が待つ治療法の実用化へ動きだす。
 再生医療の確立や普及には、有効性はもちろんだが安全性が求められる。
 iPS細胞はがん化したり、ウイルスに感染する可能性が指摘されている。副作用などのリスクをしっかり見極める必要がある。
 体のさまざまな部位の細胞に変化させることができる医療だけあって、治療法の開発への国民の期待は高い。各国も同様で再生医療の研究にしのぎを削っている。
 それに対抗するかのように安倍政権は、再生医療を成長戦略の柱に据えている。厚労省も今回、迅速に審査する体制をつくった。
 未知の研究分野だ。長期にわたり費用もかかる。政府を挙げて取り組む重要な課題だが、実用化を進める姿勢は前のめりに映る。「世界初」にこだわり安全性がおろそかになってはならない。
 情報の透明性にも懸念がある。審査委員会の審議は非公開だった。これでは集められた研究データや、研究計画を妥当と判断した経緯などが分かりにくい。
 「新しい医療」が国民に信頼されるには、研究や審査過程の情報が公開される必要がある。
 想定外の事故が発生した際、検証し乗り越えるためにも情報の透明性は欠かせない。理化学研究所と厚労省は、十分な情報公開にも努めてほしい。
 再生医療が安全に確実に実施されるよう細胞治療を規制する安全性確保法案がさきの国会に提案されていたが、継続審議になった。医療技術だけが先行すれば思わぬ問題が発生しかねない。政府は法整備を急ぐべきだ。
 安全性の問題でつまずき、研究自体がストップすることの方が、患者にとっては損失になる。iPS細胞の生みの親、山中伸弥京大教授も望んではいないだろう。大きな可能性のある医療だ。国民から見える研究を望みたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130702k0000m070120000c.htmlより、
社説:iPS臨床研究 期待し過ぎず着実に
毎日新聞 2013年07月02日 02時30分

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った世界初の臨床研究が国の審査委員会で承認された。対象となるのは、「加齢黄斑変性」と呼ばれる目の病気だ。
 網膜の中心部にある細胞が、加齢に伴って異常を起こし、視野がゆがんだり暗くなったりする。重い場合は失明することもある。臨床研究では、患者の皮膚細胞をiPS細胞に変え、ここから網膜の細胞シートを作り、移植する。
 iPS細胞は、山中伸弥・京都大教授らが開発した日本発の特別な細胞である。これまで、先端医療の臨床研究は、海外で行われた後に日本に導入することがほとんどだった。それを思うと、日本で最初にチャレンジすることには意味がある。
 ただし、これを「夢の医療の始まり」と手放しで歓迎するのは待ってほしい。誰も体内に入れたことのない細胞を初めて人間に移植するのだから、臨床研究の主な目的は安全性を確かめることだ。効果は未知数であり、視力が劇的に回復するわけではない。過剰な期待をせず、冷静に見守りたい。
 特に注意がいるのは、がん化だ。iPS細胞は、普通の細胞に遺伝子を入れて作る人工細胞だ。その性質を考えると、移植した細胞ががん化するリスクは払拭(ふっしょく)できない。網膜の場合、がんになりにくく、がんになってもレーザーで切除できるという。それが臨床研究第1号になった理由でもあるが、患者には、十分にリスクを説明した上で、研究参加の同意を得てもらいたい。
 脊髄(せきずい)損傷や心筋梗塞(こうそく)、糖尿病などへの応用には、さらなるハードルがあるだろう。まずは、先行する臨床研究のデータをよく吟味し、それを公開しながら一歩ずつ進めることが大事だ。
 今回の臨床研究の審査は、知的財産権を理由に非公開で行われたが、これでは、国民の信頼が得にくいだろう。公開できない部分をより分ける必要はあるとしても、それ以外は積極的に公開していくことが必要ではないか。
 iPS細胞は、再生医療に加えて創薬研究への応用も期待され、安倍政権はこれらを成長戦略に掲げている。国は再生医療研究に今後10年間で計1100億円を拠出する方針も示している。
 しかし、新しい医療は、遮二無二ビジネスとして進めればいいというものではない。iPS細胞には、安全性の確認以外に、「卵子や精子を作って授精させてもいいか」「動物の体内で移植用の臓器を作ってもいいか」といった、生殖医療や臓器移植にからむ倫理的課題も残されている。着実に一歩ずつ進めたい。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO56771090Z20C13A6EA1000/より、
日経新聞 社説 iPS臨床研究は患者の安全を最優先に
2013/6/29付

 世界の先陣を切って取り組むことは大事だが、何よりも患者の安全を最優先に臨床研究を進めてほしい。理化学研究所などのチームがiPS細胞を使った世界初の臨床研究を計画し、厚生労働省の審査委員会が承認した。
 治療の対象となるのは物がゆがんで見え、失明の恐れがある「加齢黄斑変性」という目の難病だ。国内の患者数は70万人にのぼり、いまは根本的な治療法がない。
 理研などの計画では、患者の腕の皮膚から細胞を採り、人のあらゆる組織になるiPS細胞を作る。それをシート状の網膜細胞に育て、傷んだ網膜と入れ替える。今夏にも患者6人を選び、順調なら来年夏にも移植するという。
 iPS細胞は山中伸弥京都大教授が6年前、世界で初めて人の細胞から作り、昨年のノーベル生理学・医学賞を受けた。再生医療の切り札として世界の医療機関が臨床応用を計画し、競争は激しい。
 日本発の成果を一日でも早く臨床につなげ、難病に悩む患者を救うとともに、新たな医療産業を育てることは重要だ。厚労省が申請を通常より短期間で重点的に審査した姿勢は評価してよい。
 一方で、臨床研究は成果を焦らず、安全性に十分配慮する必要がある。iPS細胞を人に移植すると、がんになる恐れが指摘されている。目の細胞はがんになりにくく、もしなっても診断や治療は容易とされる。だが移植した細胞が組織になじんできちんと働くかなど、なお未知の点も残る。
 過去の心臓移植のように最初の治療でつまずき、治療法やその手続きに国民が不信を抱けば、再生医療の研究全体が長期間停滞しかねない。研究チームは安全性に少しでも懸念があれば、治療を中止するぐらいの勇気もほしい。
 iPS細胞は神経や心臓などの再生でも期待が膨らむ一方、実用化まではまだ年月がかかる。今回の治療でも研究チームは「安全確認が第一で、視力の劇的な回復は期待していない」という。過大な期待を寄せるのではなく、長い目で研究の進展を見守りたい。
 将来の再生医療の普及をにらみ、いまから考えておくべきこともある。多くの患者が最新の医療を受けられることは大切だが、高額な医療費が公的な健康保険を圧迫しかねない。再生医療を公的保険の適用対象としてどこまで認めるかや、民間保険の拡充なども課題になる。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 6月 28 日(金)付
iPS臨床―過剰な思惑は禁物だ

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)による治療を人で試す臨床研究が、世界に先駆けて日本で承認された。
 これまでの医療で十分な治療法がなかった難病の患者らは、再生医療による新たな治療法の開発に期待を寄せている。
 気になるのは、国の成長戦略の柱の一つにしたい安倍政権の思惑が過熱気味なことだ。この技術はまだ、有効性どころか、安全性さえ未確認である。
 成果を急がせたり、逆に小さな挫折で冷淡になったりということは百害あって一利なしだ。ひいきの引きたおしで「大型新人」をつぶしてはならない。
 iPS細胞は、京都大学の山中伸弥教授が開発し、ノーベル賞受賞につながった。皮膚や血液などの細胞に特定の遺伝子を導入して作ることができ、臓器や神経などさまざまな細胞に変化させることができる。
 厚生労働省の審査委員会が認めた臨床研究は、目の難病、加齢黄斑変性が対象だ。理化学研究所が、患者の皮膚の組織からiPS細胞を作り、網膜にある細胞のシートに変えて、手術で患者に移植する。
 主な目的は、移植した細胞ががんになるといった安全上の問題がないか調べることだ。動物実験を重ねても、最後は人で試さないと危険も効果もわからない。その最初の試行である。
 患者にきちんと説明を尽くした上で進め、結果をできるだけ公開することが望まれる。
 一方、安倍政権は今月閣議決定したイノベーション戦略の中で、「身体・臓器機能の代替・補完」を柱の一つに掲げた。
 再生医療を使った薬などの承認を増やす▽臨床研究や治験に進める病気の対象を広げる▽再生医療用機器の実用化などを20年ごろまでに達成するという。
 確かに、先行する米国に続いて、日本が再生医療ビジネスをリードする好機ではある。だが成長戦略の柱とするには、今の到達点に比べて前のめりすぎる印象がぬぐえない。過剰な期待に研究者からは「反動が怖い」といった声も聞かれる。
 再生医療関連だからといって薬の承認が甘くなっては困る。iPS細胞を使った創薬が加速しても、貧弱な治験・審査体制では対応できない。研究が進めば、「iPS細胞から受精卵を作り、育ててもいいか」など、倫理上の問題の検討も必要となる。iPS研究周辺には放置されてきた課題が多いのだ。
 経済の思惑に引きずられず、安全性と効果を確かめながら、地道に環境を整えていくことが政府の役割である。

http://sankei.jp.msn.com/science/news/130628/scn13062803070000-n1.htmより、
産経新聞【主張】iPS細胞 日本発の最新医療を育め
2013.6.28 03:07

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使う再生医療が、実用化に向けて動き出した。
 理化学研究所などが申請していた臨床研究の計画が、厚生労働省の審査委員会で了承された。「加齢黄斑(おうはん)変性」という目の難病を対象に、来年夏にも世界初となるiPS細胞による治療が始まる見通しだ。
 人類にとって「新しい医療」の第一歩である。
 iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授は「難病に苦しむ多くの患者を救いたい」という思いで臨床医から研究者に転じた。多くの患者が、実用化を待ち望んでいる。その思いを私たちも共有し、日本生まれの医療技術を大きく健全に育てたい。
 どんな細胞にもなるiPS細胞は、医療の概念を大転換させる可能性がある。病気や事故で機能を失った臓器や組織を「修理・補強」するのではなく、新しい細胞で「生まれ変わらせる」ことができるからだ。
 ただ、iPS細胞の持つ増殖能力は「がん化」の危険と背中合わせでもある。安全性の確立が臨床段階での最大の課題だ。
 網膜に障害が生じる加齢黄斑変性が最初の臨床応用の対象になったのは、網膜細胞はがんになりにくく、がん化した場合でも正常な組織との区別が容易で、レーザー治療で対処できるからだ。治療によって症状の劇的改善までは期待できないため、リスクを回避しやすいケースで安全性を確認することが臨床研究の主眼となる。
 厚労省の審査委は、iPS細胞の安全性や移植した場合のリスクについて患者に十分説明することなどを実施の条件とした。再生医療を着実に前進させるためには妥当な判断といえる。
 iPS細胞による再生医療研究では熾烈(しれつ)な国際競争が展開されている。政府は再生医療を成長分野の一つとして、今後10年間で1100億円を投じる方針を打ち出し、平成42年には1兆円規模の市場創出という目標も掲げる。
 一方、臓器移植や生殖医療に応用される場合、iPS細胞は重い倫理的問題をはらむ。他の臓器や組織への応用では、より高い安全性の確立が求められる。
 日本経済の再生につなげることは大切だが、実利面の期待ばかりが先行し、倫理や安全面の課題が疎(おろそ)かになってはならない。

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