記者の目:原発新規制基準施行 中西拓司氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130710k0000m070116000c.htmlより、
記者の目:原発新規制基準施行=中西拓司・東京科学環境部
毎日新聞 2013年07月10日 00時21分

 原発の新規制基準が8日に施行され、再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査が始まった。「世界最高レベルの厳しさ」(田中俊一・原子力規制委員長)とされる基準には地震津波やテロなどの対策が盛り込まれ、ハード面の安全対策は一歩進んだと言える。だが、新基準とともに「安全の両輪」である原子力防災については肝心の住民避難などの中身が伴っていない。現行法上はハード対策としての規制基準と、ソフト対策としての原子力防災とは法律が異なる。しかも原子力防災は再稼働要件には含まれていない。避難計画が事故時に本当に機能するのかも徹底検証し、その「合格」を再稼働の前提条件として法的に課すべきだ。
 「5キロ圏内の住民避難は可能だろうが、実際に30キロ圏内の住民は避難できるのか」。先月16日に関西電力美浜原発がある福井県美浜町で開かれた原子力防災訓練で、山口治太郎町長が不安を漏らした。訓練の参加者は5キロ圏内のわずか約250人。30キロ圏内にはその800倍に上る20万人が住むが、対象外だった。

 ◇国民の4%が原発の「地元」
 東京電力福島第1原発事故によって、原発が立地する「地元」の概念は大きく変わった。原発から出た放射性物質は広範囲に拡散。年5ミリシーベルトの放射線量に達する地域は1800平方キロに及んだ。事故前は原発から半径8〜10キロ圏内が防災対象だったが、規制委は原子力災害対策指針をまとめ、事故の際に即座に避難する5キロ圏内の予防防護措置区域(PAZ)と、事故進展に応じて避難する30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ)−−の2段階に広域化した。
 これにより、防災対象の自治体は21道府県136市町村(従来は15道府県45市町村)に拡大。対象人口も約480万人(同約73万人)へ膨れ上がり、国民の4%が原発の「地元」に属する時代に入った。対象自治体は、住民避難などの方針をまとめた地域防災計画を策定しなければならないが、中身は伴っていない。
 中部電力浜岡原発がある静岡県は30キロ圏にかかる市町について約96万人の避難が必要と想定するが、避難先確保の見通しは立っていない。茨城県の日本原子力発電東海第2原発は30キロ圏内に約100万人が暮らす。県は、県内のバス7080台を動員しても、輸送できるのは24万人にとどまるため「一斉避難は不可能」と結論付けた。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130710k0000m070116000c2.htmlより、
 原子力災害対策指針は、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤について、5キロ圏内の住民に事前配布するよう定めた。年齢が低いほど被ばくによる影響を受けやすいので、乳幼児の服用が重要になる。ところが、乳幼児用に製品化されたヨウ素剤は今のところないため、指針は「乳幼児は優先的に避難する」と指示する。しかし、混乱のさなかに子どもたちをどう優先避難させるかの具体策は記されていない。放射線防護対策は30キロ圏内だけにとどまらない。放射性物質を含む雲(プルーム)が来る恐れがある30〜50キロ圏内の防護対策も未決定だ。50キロ圏内には札幌市や福岡市など都市圏が含まれ、対象は1000万人規模になる。

 ◇福島事故教訓に防災対策検証を
 「巨大化した地元」(電力会社幹部)に、防災体制が追いつかない実態があるにもかかわらず、規制委は安全審査を担当する職員の増強を目指すなど「審査をいかに早く終わらせるか」に力点を置いている。昨秋の規制委発足直後、田中委員長は「防災計画ができないと再稼働は非常に難しい」との見解を示していた。しかし、再稼働が現実味を帯び始めると、「防災計画と原子炉運転はダイレクトにつながるものではない」(今年3月)とトーンダウンした。「避難基準を満たすことができない原発は、稼働を続けることが許されない」。米スリーマイルアイランド原発事故(1979年)について、米原子力規制委員会がまとめた「ロゴビン・リポート」と言われる報告書にこんな一節がある。住民避難で混乱があった経緯を踏まえ、避難計画の重要性が米国事故でも反省点として指摘されているが、規制委と自治体は防災計画が本当に使えるものなのか、検証に検証を重ねるべきだ。
 福島事故では防災対策の不備の結果、お年寄りや体の不自由な人たちが避難中のバス車内や避難先で次々に命を落とした。避難の長期化で自殺した人もいる。「原発事故で亡くなった人はいない」との政治家の発言が物議を醸したが、再稼働へ前のめりとなるあまり、たった2年前の出来事を忘れている。再稼働よりも、福島事故の教訓を生かした避難計画の充実が先なのではないか。

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