週のはじめに考える 「ロボットに泣き所あり」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013071402000128.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える ロボットに泣き所あり
2013年7月14日

 先月半ば、福島第一原発の構内を取材する機会がありました。強い放射線、過酷な収拾作業…。猛暑の中で願います。ロボットの強力な助けがほしい。
 作業拠点のJヴィレッジから国道6号を北へ約二十キロ。福島第一原発、通称フクイチへは、ほぼ真っすぐな道のりです。
 楢葉町から富岡町へ。富岡消防署の交差点あたりから、帰還困難区域です。一般車両は入れない。空間線量が高くなり、景色が荒れ始めます。
 3・11を境に人の暮らしの営みが消え、時間が止まったままのよう。フクイチの中では毎日約三千人の作業員が、防護服の胸と背中に保冷剤を張り付けて、猛暑の重労働に耐えています。
 それでも外の作業は、約一時間しか持ちません。いったん屋内へ引き揚げて、水分と塩分を補給しなければなりません。
 止まった時計を誰が再び動かしてくれるのか、それは人ではないような、人であってはいけないような気がします。
 実はフクイチの現場には、震災直後の一昨年四月以来これまでに、六種類のロボットたちが投入されて、カメラによる調査や線量の測定作業に従事した。放射線で人の近づけない建屋の中を代わりに“見る”のが主な任務です。

◆失われた10年、30年
 放射線は、ロボットにも影響します。半導体に作用して、誤作動を起こさせます。人間の細胞の遺伝子、DNAを傷つけるのと同じです。
 米軍は核ミサイルの誘導装置の半導体を、膨大な費用をかけて半年ごとに交換しているそうだ。核から中性子線が出るからです。
 それにしても、震災発生以来すでに二年四カ月。技術立国日本の粋を集めた人型ロボットが現れて、たちどころにがれきの後片付けなどできないものかと、歯がゆい思いをしている人も多いでしょう。なぜできないか。放射線以外にも分厚い壁があるようです。
 マサチューセッツ工科大教授のマービン・ミンスキーさんは「ロボット工学に関しては、三十年前にその進歩はほとんど止まっている」(NHK出版「知の逆転」)と指摘します。
 研究者が、人に似せること、それらしく見せることに走りすぎ、サッカーや将棋は得意でも、ドア一つ開けられないロボットばかり造っている、と。
 日本、特にフクシマには、より高い壁がありました。
 一九九九年に茨城県東海村で発生したJCO臨界事故は、核燃料の加工中に核分裂が止まらなくなり、国内で初めて事故被曝(ひばく)による犠牲者を出した大事故です。
 放射線に阻まれて、人が現場に近づけなくなってしまったこの事故を受け、当時の通商産業省は、遠隔操作ロボットの開発を各メーカーに発注しています。
 二年後、三菱重工や日立製作所などの四社が、ドアやバルブの開閉、配管の切断や除染などの機能を備えたロボット六台を提示しましたが、電力会社は配備せず、廃棄処分か、お蔵入り、博物館に引き取られたものもありました。原発事故は起きない、活躍の場面はないから必要ない、と。
 もし、そのロボットたちが実戦に配備され、進化を続けていれば…。“失われた十年”でした。
 3・11のあと、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」を立ち上げ、原発事故にも対応できるロボットの開発を呼びかけました。いまだ「原発にも…」なのです。
 例えば三菱重工は、八メートルの高所で作業ができる「スーパージラフ」通称キリンを十カ月で完成させました。原発メーカーでもある同社は、七〇年代から定期検査用のロボットを導入しています。ノウハウの蓄積がありました。
 「ニーズがあれば、技術も進化します」と、同社原子力機器設計部の藤田淳さんは言う。

◆消防車などと同様に
 ロボットの任務は“見る”から“作業”に移る。現場は炉心に近づきます。究極の目標は溶け落ちた核燃料の回収です。絶対に直接人にはやらせられない作業です。
 もういいかげん、現実に目を向けて、キリンの仲間をどんどん進化させ、止まった時間を再起動させねばなりません。
 人が近づけない事態に備え、非常用電源や消防車と同じように、すべての原子力施設にロボットを常備すべきと考えますが、どうでしょう。

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