記者の目:被災地のわだかまり 高尾具成氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130716k0000m070099000c.htmlより、
記者の目:被災地のわだかまり=高尾具成(三陸支援支局)
毎日新聞 2013年07月16日 03時21分

◇感謝の一言待っている
 東日本大震災被災地の一つ岩手県釜石市に赴任して15カ月余りがたった。最近、気掛かりなのは、住民の胸の中にたまり続ける、小さなわだかまりの存在だ。災害公営住宅(復興住宅)の抽選が始まり、津波を直接受けた被災者間に生活再建の速度の差が表れ始めた。また被災を免れた周辺地域の住民も復旧復興に向けた協力の過程でストレスをため込んでいる。新しいまちづくりに向けて一体感が望まれる今、こうした、わだかまりや心の溝を一つずつ解消していく必要性を感じる。

 ◇復興住宅当選も「素直に喜べぬ」
 「これから復興住宅を日々見ながら、仮設住宅で暮らす人も多くなる。置き去り感や妬みが膨らみ、心が折れないかが心配なんだよね」。同市桜木町の仮設住宅自治会長の大和田泰佑さん(70)の言葉だ。4月、釜石市で初めてとなる復興住宅入居に向けた抽選会があった。倍率は最高で6倍を超す。同市片岸町で自宅を流され、仮設住宅で暮らす女性(67)は、介護が必要な母(91)を思って応募したが落選し、「母を落ち着かせてあげたかった」と肩を落とした。一方で当選した女性(78)は「うれしさは半分。多くの人が当選に漏れており、素直には喜べない複雑な気持ちです」と話した。5月、復興住宅へ引っ越す被災者の多くが、隠れるように静かに仮設住宅を後にした。
 こんな話も聞いた。津波を免れた高台の民家には、震災直後に避難者が多数身を寄せた。家人は食事を用意し、ありったけの衣類を提供したが金銭的な支援はどこからもなかった。あの日、避難者が着ていた汚れた服は洗濯し、下着までアイロンを掛けて、いつでも返せるようにしている。「幾人かからは礼を受けたが、戻ってきた服もほとんどない」と残念がる。地域の和が乱れると匿名を希望した。
 隣接する大槌町の70代の自営業の男性は長女を失ったが、その子供である孫を対象に支払われた災害弔慰金は、親権を持ち孫と同居する娘の元夫に渡った。自宅は津波を免れたが顧客の大半を失った。金銭的支援は皆無だ。貯蓄などを取り崩し、食いつないできたが、過労のために正月を病院で迎えた。入院先を訪ねると「働かねばやっていけねえこった。まだ大丈夫だがら」と気丈に振るまう姿が痛々しかった。

 ◇心のあつれき気配りで克服を
http://mainichi.jp/opinion/news/20130716k0000m070099000c2.htmlより、
 津波で、直接の被害を受けた住民を最も身近に支えてきたのは、津波で失われた家々や街々の周辺に残った住民に他ならない。そして、支援者となった住民たちも被害はゼロではなく、傍らにあった地域社会を失った「間接的な被災者」だ。しかし、「支援が欲しいのが本音だが、『被災者だ』とも言いにくい」という複雑な感情を抱え、街を支え続けている。「支援者と避難者の心のあつれきを克服するためにも、避難所を補完した支援者への気配りも必要なのでは。今のままではボヤキだけが残ってしまう」。釜石市松原町で自主防災会事務局長をする柴田渥さん(66)は今月あった市の震災検証会合でそう提言した。
 仮設住宅用地として土地を提供した地権者も頭を悩ませている。津波浸水地以外に平地が少ない岩手県沿岸部は公有地が不足し、建設された1万3984戸のうちの7105戸は民有地に建った。各自治体は震災直後の混乱の中で、地権者と貸借契約を交わした。賃料はまちまちで、無償提供のケースもあり、後に不公平感が生じた。
 大槌町では仮設住宅の48団地中44団地が民有地にある。住宅需要が高まり、土地のリースや売買が活発化する中で自治体に安く貸すより、不動産業者と契約したいと考える地権者も少なくない。町は賃料を上げてはいるが、それでもまだ民間とは開きがある。「もうけを考えれば後悔もあるが仮設住宅には知り合いも多い。契約延長の拒否は心情的に難しい」と地権者の60代男性は吐露した。
 津波の到達ラインを境に直接被害と間接被害がくっきりと分かれた沿岸部は背後に迫る山々と海岸線に挟まれた浦々を中心生活圏とし、元来、地理的な広がりが乏しい中で住民が支え合ってきた。住民間の心の溝が深まれば過疎化は一層進行し、慰霊の気持ちや教訓の伝承、復興に向けての一体感も損なわれかねない。「絆」「助け合い」などで世界に称賛された「美徳」を復興過程の中で喪失させるべきではないと思う。
 柴田さんが言っていた。「『あの時はありがとう』って一言を待っている人も多いのよね」。そんな小さなあいさつから、わだかまりが解消されていくようにと願う。

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