消費者事故調 「安全追求の芽を育もう」

http://mainichi.jp/opinion/news/20130721k0000m070120000c.htmlより、
社説:消費者事故調 危険の芽を摘む役割を
毎日新聞 2013年(最終更新 07月21日 02時30分)

 身近で便利な移動手段として広く社会に普及しているエスカレーターに、安全上の落とし穴はないのか。
 昨年10月に発足した消費者安全調査委員会(消費者事故調)が、初めて個別の事故の評価書をまとめた。再発防止の観点に立ったもので、その基本姿勢をまず評価したい。
 調査したのは、2009年に東京都港区の商業ビルで起きた転落事故だ。男性が、後ろ向きで尻の辺りを下りエスカレーターの手すりに接触させ、体勢を崩して吹き抜けの空間から約9メートル下に転落し、死亡した。
 国土交通省審議会の調査部会は「エスカレーターの構造や運行管理に問題はない」と結論づけた。事故調はそれを覆し、検討不足の点を挙げて独自の再調査を決めた。
 他省庁の専門機関が出した結論にノーを突きつけるのは異例だ。だが、事故の責任追及でなく、原因分析を尽くそうとする方向性は正しい。再調査の結論が出たならば、速やかに公表し、再発防止策について説明責任を果たしてもらいたい。
 この事故が、通常のエスカレーター利用によるものでないのは確かだ。国交省が構造や運行管理の点から「問題なし」としたのも、通常利用を前提としているためだ。
 ただし、エスカレーターは、子どもからお年寄りまで誰もが乗る。うっかり身を乗り出したり、突然ふらついたりといった事態も想定される。実際に国交省には02年から10年までの間、8件のエスカレーター転落事故が報告され、うち6件が大けが以上の重大事故だった。
 この事故で、手すりに接触した男性の体は持ち上がったように見えたといい、遺族はなぜそうなったのか解明を求めている。事故調は、持ち上がりの原因、さらに誘導柵など接触自体を防ぐ対策や階下への転落防止策が十分だったのかについて、専門家による再調査を進める予定だ。
 事故調は、広範な消費者事故を調査対象とする。機械化が進み、機械への依存度が高まっている現代社会。安全対策の隙間(すきま)で思わぬ事故が起き得る。一義的に利用者の注意が求められるとしても、同種事故が相次げば普遍的な対策の検討も必要だ。利用者の目線で、事故につながるあらゆる危険の芽を摘み、情報を社会全体で共有していくという調査姿勢を事故調は貫いてもらいたい。
 昨年10月の事故調発足後、これまで約80件の調査申し立てがあった。だが、具体的な調査対象として選定したのは、ガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故、エレベーターの挟まれ事故など5件にとどまる。年間100件という当初の調査目標とはほど遠い。人員も含めた態勢の充実に政府は取り組むべきだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 6月 30 日(日)付
消費者事故調―安全追求の芽を育もう

 「誰が悪かったか」でなく、「どうすれば防げたか」を解き明かす。消費者安全調査委員会(消費者事故調)の初仕事は、その意義を十分物語った。
 調査の対象は、東京でおきたエスカレーターからの転落死亡事故だ。下りエスカレーターを背にしていた男性の体がベルトに接触し、体を持ち上げられて階下に落ちた。エスカレーターは吹き抜けに面しており、両脇が素通しになっていた。
 国土交通省の調査や民事裁判の一審判決では、「ふつうの使い方をしていれば起きなかった事故で、製品そのものに問題はなかった」と判断された。
 事故調が今回まとめた中間報告はこれとまったく違う視点を示した。乗り口の手前にベルトへの接触を防ぐ設備があれば、そして両脇に転落防止柵があれば、事故の発生や大きな被害は防げたかもしれない、と。
 これは製品じたいに問題があるかどうか、つまりメーカーの責任の有無にかかわらず、再発を防ぐのに役立つ視点だ。
 ユーザーには幼児らもいる。ふつうの使い方だけ想定して、ものを作り、動かしていては事故は完全には防げない。安全な社会を築く上で、こうした注意喚起のはたす役割は大きい。
 発足から8カ月たち、事故調の課題も見えてきた。
 事故調はこれからこの事故の最終報告に向け、再現実験をするなどの本格調査に入る。
 報告書は裁判の証拠に使われることがありうる。裁判が同時進行するなか、いかにメーカーや管理者の協力を得るか。裁判と並行している案件はほかにもあり、同じ問題をはらむ。
 責任追及と再発防止はどちらが優先か、あるいはどうすれば両立できるかは、議論の割れている難題だ。走りながらよりよい着地点を探るしかない。
 また、事故調は年間100件の調査を目標に始動したが、着手できたのはまだ5件だ。
 調査を求めた人たちの中には「経過説明がなく、今どうなっているのかわからない」「話を聞いてもらえず、紙1枚で断られた」と不満をもつ人もいる。
 風評被害を避けるため、言えないことも多いのだろう。しかし「被害者の納得」を看板に掲げる組織なのだから、もう少していねいに説明すべきだ。
 遅さや説明不足は、人手の少なさも一因だ。航空や鉄道、船の事故を調べる運輸安全委と比べると半分以下。適正な規模を見きわめるのも課題だろう。
 被害者のためにも社会のためにも、新たに生まれた安全追求の発想を大きく育てたい。

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