週のはじめに考える 「ナショナリズムを超えて」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 8月 11 日(日)付
竹島訪問1年―政治が世論をあおる罪
一国のリーダーの愚かな行動や発言が隣国との関係をめちゃくちゃにし、草の根交流や経済活動まで滞らせてしまう。
1年前、韓国の李明博(イミョンバク)・前大統領が強行した竹島訪問と、それに続く天皇への謝罪要求は、まさにそんな言動だった。
その後、日本では安倍首相が、韓国では朴槿恵(パククネ)大統領が誕生したが、関係改善の兆しは見えない。
首脳同士が会えず、閣僚間の接触もほとんどないような状態がこれほど長期に及ぶのは、1965年の国交正常化以降、極めて異例のことである。
政治がナショナリズムをあおれば、どんな結果を招くか。そのことを両首脳は肝に銘じるとともに、関係修復に向けた取り組みを急がねばならない。
ソウル中心部の明洞。繁華街を埋めていた日本人の姿は昨秋以降、めっきり減った。
実際、日本から韓国への観光客は昨年、過去最高を更新したものの竹島騒動後は前年比2割減の状態が続く。このところの円安や不安定な北朝鮮情勢も加わり、日本企業の対韓投資も減っている。
これが、浅はかな行動がもたらした代償である。韓国では、李氏の言動がいかに国益を害したかという指摘も聞かれる。
李氏は竹島訪問後、従軍慰安婦問題で日本政府が誠意をみせないから行った、と説明した。それが行動を正当化する理由には到底ならないが、日韓に歴史認識問題が重く横たわっていることは事実だ。
にもかかわらず、日本側では最近も橋下徹大阪市長の慰安婦発言や閣僚らの靖国参拝、首相の「侵略の定義」発言などが相次いだ。これらは韓国や中国との関係をさらに冷え込ませただけではない。
欧米からもその人権感覚や歴史認識を疑う声が出るなど、国際社会での日本のイメージをいたく傷つけた。
韓国の司法が、戦時中の元徴用工らの訴えを認め、日本企業に損害賠償を命じるなど新たな火種も持ち上がっている。
こんな時こそ、みずから挑発的な言動を控え、国民に冷静な対応を呼びかける。それが政治家の仕事だろう。
まずは8月15日の終戦記念日に、首相や主要閣僚は靖国参拝を控える。韓国の政治指導者らも、国民の対日感情を刺激するような言動を慎む。
ともにアジアのリーダーとして責任を負う隣国同士が、自分たちの問題さえ解決できない。こんな醜態をいつまで世界にさらすつもりなのか。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013081102000126.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える ナショナリズムを超えて
2013年8月11日
中国、韓国との良好な関係をどうやって回復するか。安倍晋三政権にとって頭の痛い問題です。国民感情を含めて、どこに打開策があるかを探ります。
トルコ在住の女性ジャーナリスト、フェライ・ティンクさん(同国の日刊紙「ヒュリエト」の元外信部門編集長)が、示唆に富んだ話をしてくれました。昨年、野田佳彦政権(当時)が尖閣諸島の国有化を閣議決定し、日中関係が険悪化した後のことです。
「日本のイミア・カルダック紛争」。トルコの新聞は、こう報道したそうです。
◆トルコ・ギリシャ紛争
一九九五年、エーゲ海にあるカルダック岩礁(トルコ名。ギリシャ語ではイミア岩礁)でトルコ船が座礁し、その救助活動で両国の救助隊が衝突。お互いに領有権を主張し、国民感情を巻き込んだ紛争に発展しました。
「ヒュリエト紙の記者が岩礁に上陸し、トルコの国旗を差し込みました。だが、そこはカルダックとは別の岩礁と後で分かって笑い話になったのです」
二〇〇六年、両国外相がボスポラス海峡を見ながら会談し、空海両軍間のホットラインを開通するほか、「エーゲ海での軍事演習の停止」「自然災害に備えての文民の共同演習」「沿岸治安部隊の相互訪問」など十九項目の信頼醸成措置で合意に達しました。領有権での不一致では話し合いを避け、約十年間かけて「信頼醸成」にこぎ着けたというのです。
「ナショナリズムよりヒューマニズムです。ギリシャの経済危機の時にはトルコ国内で『ギリシャを救おう』と、同国への観光旅行客が急増しました」。ティンクさんは笑顔でいいました。
尖閣や竹島問題で、日中、日韓の間に同様な信頼醸成が可能でしょうか。二つの側面から考える必要があるでしょう。政府間レベルと国民感情の双方で改善を図らなければなりません。
◆不可欠な指導者の信頼
最近、東京、大阪などで在日コリアンを排斥する「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」のデモが続いています。一方、韓国では日本とのサッカーゲームの際、「歴史を忘れた民族に未来はない」との横断幕が掲げられるなど、スポーツに政治が持ち込まれています。
一部の動きかもしれませんが、こうしたナショナリズムの高揚が首脳会談の再開など政府間の信頼醸成措置に悪影響を与えることが憂慮されます。ナショナリズムには「良いナショナリズム」と「悪いナショナリズム」があります。オリンピックのような国際試合で自国選手を懸命に応援し、国旗掲揚や「君が代」斉唱で身が引き締まるのは「良いナショナリズム」です。だが相手国への反感から過激デモや破壊活動に走るのは「悪いナショナリズム」です。二年前の東日本大震災ではヒューマニズムを見せた中国人が尖閣問題では反日デモという事態をどうとらえたらいいのでしょう。
「嫌中」「反日」といった国民感情を好転させるためには政治指導者同士がいつでもフランクに話し合い、友好は揺るがないことを示すことが不可欠です。悪い国民感情と指導者同士の信頼感不足。その両面こそが問題です。
領有権問題は中韓間にも存在します。東シナ海沖合に中国名は蘇岩礁、韓国名は離於島(または波浪島)と呼ばれる暗礁があり、領有権で対立しています。それが大きな紛争に発展しないのは、ほかの問題(自由貿易協定の締結など)で中韓が協調したほうが大局的に有利との判断が働いているからでしょう。
「世界のための日中関係」「世界のための日韓関係」。そういう大きな視点で関係国首脳が話し合える雰囲気が醸成されれば、島の領有権問題は相対的に小さくなっていくに違いありません。
ことし四月、日本と台湾の間では双方が領有権を主張する尖閣諸島周辺での漁業権をめぐり漁業協定が締結され、日本の排他的経済水域の一部で台湾の操業が認められました。台湾の馬英九総統は昨年、「東シナ海平和イニシアチブ」を発表し、領土問題を棚上げしての東シナ海における海洋資源の共同開発を提唱しました。白鳥令東海大名誉教授(政治学者で、マルタの名誉総領事)は、地中海の島国であるマルタが一九六〇年代に「海洋資源は世界の共通財産」との考え方を提起したことに関連して次のように主張します。
「海は陸と違って世界につながっており、海洋資源を共同開発、共同配分するのは当然だ」
◆局面打開に二つの視点
「ナショナリズムよりヒューマニズム」「海洋資源の共同開発、共同利益」。この二つが中韓両国との関係打開へのキーワードに思えますが、いかがでしょうか。