週のはじめに考える 「民衆戦史を語り継ぐ」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013081802000140.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 民衆戦史を語り継ぐ
2013年8月18日

 国家の歴史は書き継がれますが、民衆の歴史は大方が書かれない。「満蒙(まんもう)開拓」とは何だったのか。時を経ても伝えたい人がいる。今に通じる問いです。
 「歴史が風化しないうちに、満蒙開拓の足跡を掘り起こし、後世に伝えていきたいのです」
 この春、長野県下伊那郡阿智村にできた「満蒙開拓平和記念館」=写真。開館にこぎつけるまで先頭に立ってきた飯田日中友好協会の寺沢秀文さん(59)=下伊那郡松川町=が話してくれました。

◆苦難の歴史伝えねば
 寺沢さんたちが施設に込めた思いには、並々ならぬものがあります。それは、満州国に渡った満蒙開拓団の人びとの、苦難の歴史を真正面から取り上げ、広く伝えようとすることです。
 このような民間施設は、おそらく、ほかに例がありません。
 二十七万人ともされる開拓団のうち、長野県は全国最多の三万三千人を送り出しています。県の中でも、阿智村のある飯田・下伊那は最も多い八千三百人余が渡満しました。寺沢さんの両親も、その一員だったのです。
 一九三二年、中国東北部に建国された満州国は、日本(具体的には関東軍)に操られたかいらい国家でした。
 満蒙開拓が国策として始まったのは三六年。二十年で百万戸、五百万人を満州国に移民させるというとんでもない施策でした。
 町村の役人らが、移住希望者を農家からかき集めて回りました。当時、昭和恐慌で日本の農村は日々の生活にもあえいでいました。海外移住への期待が農民自身にあったのも事実です。

◆国策だった満蒙移民
 ただその後、補助金をちらつかせ、分村させてまで開拓民を募ったというにいたっては、中央と地方の、今も続く政治構造が重なって見える気がしてなりません。
 学校にも割り当てがきて、校長らが子や親を説得し、青少年義勇軍として送り出したといいます。
 四五年八月九日、日ソ中立条約を破棄したソ連軍が侵攻。頼みの関東軍はいち早く撤退し、開拓団は見捨てられたも同然でした。
 行く当てもない逃避行の中で、集団自決の惨劇をはじめ、感染症や飢えで命をなくす人びとが相次いだ。まさに棄民に等しかった、といえます。
 引き揚げもならず、ソ連軍の手でシベリアに抑留された人、中国に泣く泣く残した子どもや女性は残留孤児、残留婦人に…。
 日本に帰国できたのは全体の約四割、十一万人ほどでした。長野県の場合は半数の一万六千九百人余でした。
 阿智村の記念館の証言集に、こんな意味の文章がありました。
 「故郷に戻って『国策で開拓へ行ったんだ』と言っても“満州こじき”と、後ろ指をさす声が耳に入ってくる」と。生きながらえても帰国者への風当たりは強く、つらいものでした。
 なぜなのか。
 下伊那の満州移民の聞き書きに取り組んできた「満州移民を考える会」の斉藤俊江さん(75)=飯田市下久堅=は「九〇年代に入るころまで満州移民の話はご法度に近かった」と言います。
 つまり、移民を送り出した町村の役人や首長、教育関係者らが健在で、周りが開拓団のことを口にしづらかったのではないか。
 吉林省水曲柳(すいきょくりゅう)に移民した寺沢さんの父、幸男さんは「畑も家も取り上げられた中国の人たちの悲しみ、悔しさが身に染みてわかったよ」と、寺沢さんによく語り聞かせてくれたそうです。
 満蒙開拓民は被害者だったけれど、加害者でもあったのです。意識せずとも加害者になっている。それが侵略の実相なのです。

◆半世紀経て父の遺志
 三男だった幸男さんは、実家の山吹村(現下伊那郡高森町)には帰れなかった。
 「今度こそ本当の開拓だ」。そういって松川町に入植し、苦労を重ね、リンゴ農家一筋で生きた。幸男さんは故郷の近くに戻れたから、まだいい。
 引き揚げ者の多くは、国にあてがわれた耕作に適さない土地に散って行かざるを得なかった。
 ふつうの善良な人びとが国家の都合に利用され、あげくは見捨てられる-。国策という名の罪が今に通じなければよいのですが。

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