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月別アーカイブ: 9月 2013

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013093002000117.htmlより、
東京新聞【社説】JR西無罪 遺族の無念を胸に刻め
2013年9月30日

 乗客ら百七人が死亡した尼崎脱線事故で、JR西日本の歴代三社長は無罪となった。強制起訴を選択した市民判断は、司法の壁を崩せなかったが、経営陣は遺族の無念の思いを胸に刻むべきだ。
 刑事裁判の限界なのだろう。神戸地裁は歴代三社長について、「事故は予見できなかった」と判断した。検察が起訴した元社長は既に無罪判決が確定しており、事故当時の経営幹部は誰ひとり、刑事責任を負うことはなかった。
 「刑事責任が問われないことをおかしいと思うのももっともだが、厳格に考えなくてはならない」と最後に裁判長は付言した。
 強制起訴に持ち込んだ検察審査会の判断にも、一定の理解を示したとも受け止められる。確かに現場は「魔のカーブ」だった。半径六百メートルあったカーブを半減させる工事をしたからだ。危険性が増すのは当然だが、当時の経営陣は自動列車停止装置(ATS)を設置しなかった。
 これも争点だったが、たまたま当時、法的義務がなかっただけだ。鉄道会社として、自主的に設置することもできたはずだ。「ATS整備を指示するべき注意義務はなかった」とする判決には、疑問が残る。国土交通省の事故調査委員会は「ATSがあれば事故は防げた」と指摘しているからだ。急カーブへの配慮をしなかったのは経営ミスといえよう。
 私鉄各社との激しい競争もあって、過密ダイヤを組んでいた。電車に遅れなどが出ると、懲罰的な「日勤教育」が科された。無意味な草むしり、就業規則の書き写し…。非人間的な懲罰である。
 事故を起こした運転士は、日勤教育の経験があり、当日も前の駅でオーバーランをした。遅れを取り戻そうとして、制限速度を大幅に超え、ブレーキ操作を誤ったのだ。少なくとも、事故調はそんな見方の報告をした。
 利益優先、安全軽視ともいえる経営陣にも反省すべき点は、多々あったはずだ。だが、裁判でJR西日本の“ドン”は、十秒間のおわびをしただけだ。企業体質についての質問には「変えなければいけないという気持ちはない」と突っぱねていた。
 遺族の無念さが、本当にわかるのか。「納得できない」「許せない」-。判決に遺族は天を仰いだ。JR北海道では二百七十カ所ものレール異常放置が判明したばかりだ。脱線事故なども相次いだ。鉄道の安全規律がたるんでいる。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 29 日(日)付
JR事故判決―経営陣に罪はないのか

 企業トップの罪を問う難しさが、またも示された。
 107人が死亡した05年のJR宝塚線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に対し、神戸地裁は無罪を言い渡した。
 利益を追求し安全をおろそかにした経営陣の姿勢が事故につながったのではないか。そうした遺族の思いを受け、検察審査会は強制起訴にもちこんだ。
 だが公判では、現場カーブに安全装置を付けなかったことだけが争点になった。裁判所は、元社長らは個人として事故を予見できなかった、と判断した。
 この3人とは別の元社長は検察に起訴されたが、昨年、無罪が確定した。過失犯では個人の責任しか追及できない現行刑法の限界といえる。
 遺族らは判決後、法人を処罰できるよう、法改正を訴えた。
 英国は07年、注意を怠って死亡事故を起こした法人に刑事責任を問い、上限なく罰金を科せる法律を制定した。
 80~90年代に船舶や鉄道で多くの人が亡くなる事故が続いた。だが、大きい企業ほど経営陣は有罪とならず、世論の批判が強まったためだった。
 日本でも、高度成長期に起きた公害や85年の日航ジャンボ機墜落事故で、法人処罰の導入を求める声が上がったが、刑法改正には結びつかなかった。
 鉄道や航空、船舶事故は、運輸安全委員会が調査し、原因を究明する。日本では捜査との線引きが厳格ではない。このうえ法人の刑事責任も問えることにすれば、関係者が事故調査に真相を語らなくなる、という慎重論も専門家の間で根強い。
 だが、JR西という巨大企業のトップが、市民代表の検察審査会の判断で裁判にかけられた意義を考えてみたい。
 現在の鉄道のように安全システムが高度化するほど関係者は多くなる。その裏返しで、事故が起きても頂点の経営責任があいまいになる事態が繰り返されてきた。福島第一原発事故を防げなかった東京電力や、トラブルが続くJR北海道もそうだ。
 宝塚線事故の遺族は、JR西を長く率いた井手正敬元社長に公判で質問を重ねた。井手氏は「担当者に任せていた」と繰り返し、遺族をあきれさせた。
 企業が対策を怠って事故を起こせば、トップの刑事責任も問えとの民意は今後強まろう。経営者は常日頃からしっかりと向き合うしかない。
 安全管理責任をより確かなものにするため、法人処罰の導入の是非も、国レベルで議論を深めていってもらいたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130929k0000m070088000c.htmlより、
社説:JR歴代社長無罪 なお重い経営者の責任
毎日新聞 2013年09月29日 02時30分

 乗客106人が死亡した2005年4月のJR福知山線脱線事故で、神戸地裁は、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の井手正敬(まさたか)元会長ら歴代3社長に無罪を言い渡した。
 判決は、3人に脱線の危険性を具体的に予見できたと認める証拠はなく、事故を防ぐための自動列車停止装置(ATS)の整備を指示する義務もなかったと結論付けた。既に確定した山崎正夫元社長の無罪判決と同様、過失の範囲を厳密にとらえる従来の判断を踏襲したものだ。
 裁判長は「会社の代表とはいえ、社長個人の刑事責任を追及するには厳格に検討しなければならない」と述べた。刑法では個人の責任しか問えない限界を示したと言えるが、だからといってJR西の安全対策に問題がなかったことにはならない。
 国の事故調査報告書は、経営幹部が組織を統括し、徹底して安全性を追求する必要があると指摘した。山崎元社長の判決も、安全対策が期待される水準になかったと批判している。多くの人命を預かる公共交通機関の経営トップの責任の重さを改めて胸に刻むべきである。
 事故は、列車が制限速度を超えてカーブに突っ込んで起きた。だが、急カーブに変更されたのは新線開業の経営方針に伴うもので、後に余裕に乏しいダイヤになった。懲罰的な日勤教育も運転士に重圧を与えたとされた。検察官役の指定弁護士も論告で「井手元会長らが利益優先の企業体質を確立した」と主張した。
 判決は、事故と企業体質との関係に言及しなかったが、未曽有の事故でJR西も責任を認めているのに誰一人処罰されないのは、一般市民にも納得がいかないはずだ。企業に刑事罰を科す制度の導入を含め、組織が絡む事故の責任追及や真相解明のあり方について議論を深めるべきではないか。
 公判では、井手元会長が事故について「重大な経営責任も痛感している」と公の場で初めて陳謝した。被害者参加制度で遺族らも直接質問し、意見を述べた。無罪とはいえ、強制起訴の意義は小さくはない。
 脱線事故は、効率化や高速化を進め、安全を二の次とする経営姿勢にも反省を迫った。だが、JR北海道のあまりの安全意識の低さといい、鉄道各社は事故の教訓を生かしているのだろうかと疑わざるを得ない。
 JR西は事故後、安全投資を増やし、事故の予兆を分析するリスクアセスメントも導入した。それらを着実に進め、安全対策を徹底しなければ信頼回復はおぼつかない。安全意識が根づく組織風土を築くことが経営者の責任であると肝に銘じなければならない。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130928/dst13092803110000-n1.htmより、
産経新聞【主張】JR西3社長無罪 企業の「安全責任」は別だ
2013.9.28 03:11

 乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の井手正敬(まさたか)元会長ら歴代3社長に、神戸地裁は無罪を言い渡した。
 事故現場のカーブに自動列車停止装置(ATS)を設置していなかった責任について、判決は「当時はATSを設置する法的義務はなかった。社内でも脱線の危険性は検討されておらず、ATSを整備すれば脱線は回避できたとの認識にはつながらない」と予見可能性を否定した。
 予想された判決である。むしろ、判決言い渡し後に宮崎英一裁判長が傍聴席の遺族らに述べた「誰一人として責任を問われないことに違和感があるかもしれない」が、「企業の責任ではなく、社長個人の刑事責任を追及する場合は厳格に考える必要がある」という言葉が、この裁判の本質を言い表している。
 嫌疑不十分で3社長を不起訴とした神戸地検は、検察審査会の「起訴相当」の議決にも再度、不起訴とし、「審査会は事実を誤認している可能性がある」と異例のクレームをつけた。
 それでも審査会の2度目の議決で強制起訴となったのは、純然たる法的判断より、遺族らの心情を酌んだ民意といえよう。
 本来ならJR西日本という企業の責任を問いたいのだが、刑法は処罰の対象を個人に限定している。現行法制度の限界を示すとともに、検察審査会のあり方にも一石を投じる裁判だった。
 ただ、3社長の無罪判決がJR西日本の社会的責任を免ずるものでないことは言うまでもない。「井手商店」と呼ばれるほど民営化以降の経営を実質的に担ってきた井手元会長が、事故後、遺族らの前に姿を見せず、ようやく法廷で謝罪したのは遅きに失する。
 また、遺族らが求めた「どうして事故が起きたのか」「なぜ防げなかったのか」の真相究明もなお不十分と言わざるを得ない。
 昭和62(1987)年に国鉄が分割民営化されJR各社が発足して26年になる。JR北海道では相次ぐ事故、トラブルに加えて、レールの異常を補修せず放置していたという信じられない不祥事が明るみに出た。
 営利優先で安全をないがしろにしてはいないか。鉄道事業者には原点に立ち返っての経営点検を求めたい。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60327280Y3A920C1EA1001/より、
日経新聞 社説 強制起訴は見直しが必要だ
2013/9/28付

 検察が独占してきた起訴権限に民意を反映させる。それが強制起訴制度の狙いである。検察が起訴しなかった人について、くじで選ばれた市民でつくる検察審査会が「起訴すべきだ」と2度議決すれば被告となり、裁判が開かれる。
 だが起訴されなかった理由にかかわらず、すべての事件・事故が強制起訴の対象になりうるいまの仕組みでは、問題が大きすぎないだろうか。そんな危惧をあらためて抱かせる判決があった。
 2005年にJR福知山線で起きた脱線事故をめぐり、神戸地裁が井手正敬元相談役らJR西日本の歴代社長3人に無罪を言い渡した。事故は予測できなかった、との判断である。3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴されていた。
 裁判長は「誰ひとり刑事責任を負わないのはおかしいとの考えがあるかもしれないが、個人の責任は厳格に考えなければいけない」と遺族に言い添えた。この言葉に制度の問題が凝縮されている。
 刑法は個人の刑事責任しか問えない。だが多くの部署、社員、システムがからんで起きる事故で、個々人の過失や責任の範囲を立証するのは難しい。市民感覚としては納得しにくいが、だからといって検察審による起訴だけ有罪の基準を下げるわけにはいかない。
 会社の体質を指弾し、再発防止につなげる。こうしたことを刑事裁判に大きく期待することもできない。行政や民事訴訟の仕組みの改革を含め、有効な対策を考えていくべきではないだろうか。
 過去の強制起訴の例をみても、同じように現在の刑事裁判のあり方となじまない例がある。検察の段階で不起訴になった後、長い間裁判を強いられる負担は大きく、このまま放置すべきでない。
 同じく司法改革の一環として新たに導入された裁判員裁判や法曹養成制度は、踏み込みが足りないもののすでに見直し作業が始まっている。強制起訴についても、審査する対象や議決に至った経緯の開示など、制度の全般にわたる見直しに取りかかるべきである。

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http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130930/biz13093003170002-n1.htmより、
産経新聞【主張】柏崎原発申請 再稼働へ迅速審査求める
2013.9.30 03:16

 東京電力が柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機の再稼働に向け、原子力規制委員会に安全審査を申請した。地元の泉田裕彦知事が条件付きながら、東電の申請を認めたことを受けた。
 柏崎刈羽原発は首都圏に電力を供給する重要な役割を担う。規制委は迅速に審査を進め、早期の再稼働につなげてほしい。
 再稼働にあたっては地元の了解も必要となる。安倍晋三政権も原発立地自治体の理解を得る努力をするとしてきた。政府は安全協定を根拠に東電と対立する泉田氏と調整し、原発の運転再開を主導する責務を忘れてはならない。
 東電は、7月初旬の新安全基準の施行と同時に安全審査を申請する方針だったが、泉田氏の同意が得られなかった。宙に浮いたままだった申請にこぎ着けることができたのは一歩前進といえよう。
 しかし、泉田氏は申請容認にあたり、原発事故時に放射性物質の放出を抑える「フィルター付き排気装置」を使用するさいには、事前に地元了解を取り付けることを条件にした。
 だが、この条件は問題だ。一刻を争う緊急時の安全対策で、運用に法的根拠のない地元独自の煩雑な手続きを課すことになるからである。早急に見直さなければならない。
 柏崎刈羽原発の審査は、敷地内を走る断層の評価も課題だ。規制委は予断を持つことなく、科学的な知見にもとづく客観的な審査に徹してほしい。他の電力会社の審査も進行中であり、必要なら人員などの体制を増強して遅滞なく作業を進めるべきだ。
 東電は昨年9月、原発停止に伴って発電コストが上昇したため、電気料金を大幅に引き上げた。
 一方、同社の再建に向けた経営計画では、今年度中に柏崎刈羽原発7基のうち4基の再稼働を予定している。これが大幅に遅れる事態になれば、追加値上げを迫られる可能性が強まる。
 来年4月には消費税率が8%に引き上げられる。これに電気料金の追加値上げが加われば、中小企業などへのダメージは大きい。景気への影響も避けられまい。
 福島原発の汚染水処理や被災者への事故賠償を円滑に進めるには、東電経営の持続性を確保しなければならない。そのためにも、政府が責任を持って再稼働に導く姿勢を示すべきだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 28 日(土)付
柏崎稼働申請―やるべきことが違う

 いったい、自分が置かれている立場をわかっているのか。それが、多くの国民の受け止め方だろう。
 東京電力が、柏崎刈羽原発の6、7号機(新潟県)について原子力規制委員会に新規制基準への適合審査を申請した。広瀬直己社長は6、7号機以外の原発も順次、再稼働への準備を進める考えを示した。
 論外だ。
 東電は原発事故の当事者である。福島第一原発では、事故の収束どころか汚染水漏れなど新たな難題がのしかかる。いまは福島にすべてを集中すべきときだ。他の原発に人手を回す余裕などあるはずもない。
 にもかかわらず、東電が再稼働にこだわるのは、このままだと再建計画が破綻(はたん)するからだ。
 原発が動かず、火力発電の燃料費負担がかさんで3期連続の赤字になれば、「銀行からの融資が受けられなくなる恐れがある」という。
 仮に時間がかかっても、再建計画に盛られた柏崎刈羽の再稼働に向けた手続きを踏んでいれば、資金手当ては何とかなる。そんな思惑ではないか。
 しかし、事故に伴う損害賠償や除染、廃炉などすべての費用を東電に負担させることを前提とした再建計画がもたないことは、すでに明らかだ。
 であれば、見直すべきは再建計画である。再稼働を急ぐことではない。
 問題は、安倍政権の姿勢だ。
 国は東電の大株主でもある。汚染水問題では、政府が前面に出る態勢へと改めたものの、東電の経営問題をめぐる議論はほとんど進んでいない。
 再建計画の見直しは、東電では背負いきれない費用を、国費の投入や料金値上げでまかなうことにつながる。不満の声もあがるだろう。
 目先には、消費税の増税も待ち構える。アベノミクスにみそをつけることにもなりかねない不人気な政策に手をつけるのは、後回しにしたい。そんな思惑が首相周辺にあることは想像に難くない。
 だが、それでは汚染水問題でのリーダーシップ宣言も瞬く間に色あせるというものだ。
 短期的な経済合理性や過去のしがらみから、必要な情報の共有や対策を怠り、原発を推進すること自体が目的化したことが福島事故を招いた。
 今また、実体のともなわない再建計画にこだわっていれば、事態は悪化するだけだ。
 原発をとりまく、そんな体質を改める。それこそ、事故の重い教訓であるはずだ。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60327250Y3A920C1EA1001/より、
日経新聞 社説 柏崎刈羽再稼働へ地元との信頼確立を
2013/9/28付

 東京電力は新潟県の柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の再稼働に向けた安全審査を原子力規制委員会に申請した。難色を示していた泉田裕彦知事が条件付きで申請を容認した。東電は規制委の審査をへて来春にも再稼働をめざす。
 東電の厳しい経営状況を考えれば、今回の申請自体は理解できる。同社は実質的に国有化された後も経常赤字が続いている。経営計画に盛った柏崎刈羽の再稼働が実現しないと、金融機関からの資金調達に支障をきたしかねない。電気料金の再値上げも避けられず、消費者への影響も大きい。
 だが地元自治体の理解を得るのに時間がかかり、規制委への申請手続きが遅れたことを、東電は教訓とすべきだ。東電は同原発の改修工事を地元への説明が不十分なまま着手した。これが地元の不信を募らせ、事態をこじらせた。
 同原発の再稼働には、地元の理解と協力が大前提になる。東電は安全対策を粘り強く説明するとともに、事故が起きたときの自治体との連携体制や住民を安全に避難させる計画づくりなどで全面的に協力し、信頼確立を急ぐべきだ。
 泉田知事が東電に求めた申請の条件には、疑問が残る点がある。重大事故が起きたとき、放射性物質を外部に放出するフィルター付き排気(ベント)の実施に、県の事前了解が必要としたことだ。
 重大事故への対応は一刻を争うだけに、それで迅速かつ適切な初動ができるのか。電力会社と自治体が結ぶ安全協定には、何を対象とするかや法的な拘束力をめぐり議論がある。国も関与して安全協定のルールづくりが必要だ。
 規制委も同原発の審査を厳格に進めるべきだ。周辺は中越沖地震など地震が多い場所だ。直下に活断層はないか、近くの断層が動いても耐震性は十分かなど、科学的な根拠を踏まえて慎重に審査し、包み隠さず公表してほしい。
 国による東電支援のあり方も見直しが避けられない。今回の申請でも東電の当面の資金繰りはなお綱渡り状態が続く。福島原発で深刻な汚染水漏れがおき、廃炉の費用は巨額にのぼる。周辺での除染の費用も東電の負担になる。
 廃炉や除染をめぐり、国と東電の役割を改めて明確にすべきだ。原子力損害賠償支援機構を通じたいまの東電支援は限界にきている。柏崎刈羽原発の安全審査に併せて、国はこの問題に真剣に向き合うときだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130928k0000m070134000c.htmlより、
社説:東電再稼働申請 福島事故の収束が先だ
毎日新聞 2013年09月28日 02時30分

 東京電力が柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)6、7号機の再稼働に向けた安全審査を申請した。同県の泉田裕彦知事が、条件付きで申請することを承認したためだ。
 しかし、東電は福島第1原発事故の当事者である。再稼働の前提として、汚染水処理など事故の収束に真摯(しんし)に取り組み、企業としての信頼を取り戻す必要がある。
 泉田知事が審査申請を認める条件にしたのは、地元自治体の了解なしにフィルター付きベント(原子炉の破損を防ぐため、放射性物質をできるだけ除去して排気する装置)を使わないことや、県との協議で改善する必要が出てくれば申請内容を修正するということだ。
 東電に対する根強い不信感の表れといえる。東電は7月、審査申請することを地元の頭越しに決めた。そんな地元軽視の姿勢が、不信感を強めた。それから3カ月近くかけて申請容認にこぎつけたが、安全審査を通っても再稼働には県の同意が欠かせない。事故時に住民被ばくを避けるための防災計画などを巡り、地元自治体と協議を重ねて信頼回復に努めなければならない。
 一方で、泉田知事の対応も納得できない。審査申請を厳しく批判してきた知事が、条件付きとはいえ容認に転じた理由がよく分からない。県民の安全にかかわることだけに、分かりやすく説明してほしい。
 そもそも東電が原発を再稼働するには大きなハードルがあるはずだ。原発の安全神話は崩れた。稼働を認めるためには、事故が起きても適切な対応で住民の安全を守ってくれるという信頼感がなければなるまい。
 ところが、福島の事故で東電の対応は後手に回り、大量の放射性物質をまき散らした。その後も不手際は続き、原子炉建屋の敷地内に流れ込んだ地下水が、汚染されて海に出た。高濃度の汚染水貯蔵タンクからも漏水した。地下水の敷地への流入はやまず、日々大量の汚染水が発生している。
 東電は再稼働の前提として、事故収束に全力を傾けるべきだ。失墜した信頼を回復できなければ再稼働への理解は得られまい。
 東電が今、前のめりになるのは、事業継続に不可欠な銀行融資を得るため経営計画の見直しを迫られているからだ。3期連続の赤字を避けるには、原発の再稼働か電気料金の再値上げが避けられないという。
 今回の審査申請で、ひとまずはしのげる可能性が高まった。しかし、東電の経営は綱渡りが続く。安全性と経済性をはかりにかける事態は避けるべきだ。事実上国有化した政府は、東電の将来像について真剣に検討する必要がある。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092702000155.htmlより、
東京新聞【社説】再稼働申請 電力会社に申し上げる
2013年9月27日

 原発再稼働に前のめりな政権を追い風に、東京電力柏崎刈羽原発や中部電力浜岡原発が早期再開を急ぐ。住民や消費者の声をよく聞かずして再稼働などできないと、電力会社に申し上げたい。
 必要な対策はひと通り整った。だから、再稼働を申請すると、中部電力幹部は言った。ひと通りで済ませていい問題か。
 とりわけ浜岡は、特別な場所にある特別な原発だ。
 東海地震の想定震源域の真ん中にあり、それらが連動して起こる南海トラフ巨大地震の規模は計り知れない。住民の地震に対する恐れは強い。いくら地盤を強化しても、風速九〇メートルの竜巻に耐えるという冷却ポンプカバーを取り付けても、その不安は除けない。
 再稼働を論ずる前に必要なのは、住民との対話、住民の声をよく聞くことだ。
 中電は、静岡県や御前崎など四市と安全協定を結んでおり、再稼働を申請する場合、自治体側へ「事前通報」の義務がある。しかし、それは同意を求めるわけではなく、すでに決まったことの確認にすぎないというのが、中電側の解釈らしい。傲慢(ごうまん)ではないか。
 中電だけのことではない。すでに原発の再稼働申請をした北海道、関西、四国、九州の四電力が、原発三十キロ圏の周辺市町村が求めた、立地自治体並みの安全協定締結を拒否している。
 福島第一原発事故の被害が思わぬ遠くにまで及び、多くの人々がふるさとを奪われたままであるにも、かかわらず。
 柏崎刈羽原発の再稼働に理解を求める東電の広瀬直己社長に、新潟県の泉田裕彦知事は「急ぎますか」と問いかけた。なぜ急ぐのか。銀行からの借り換えや新たな借り入れに、再稼働による収益改善が不可欠だからという。
 福島の汚染水問題一つとっても、東電に原発を任せられないというのは明らかなのに、である。
 再稼働に巨額の対策費を投じた中電などにも、同様の事情がある。中電の場合、今年の猛暑の電力需要を余裕をもって乗り切った。関電に融通したほどだ。再稼働を急ぐのは、これ以上赤字を出したくないからだ。
 企業が利益を追うのは当然だ。しかし、安全と収益をてんびんにかけられては、かなわない。
 何よりも、住民の立場に立って安全を優先させる。この大前提を欠く限り、拙速な再稼働は許されない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130927k0000m070120000c.htmlより、
社説:浜岡原発 再稼働申請は考え直せ
毎日新聞 2013年09月27日 02時31分

 中部電力が、静岡県御前崎市にある浜岡原発を再稼働するため、今年度中に安全審査を申請するという。
 浜岡は東京電力福島第1原発の事故後に、菅直人首相(当時)の要請で全面停止した原発だ。再稼働には大きな危険が伴う。検討すべきはむしろ廃炉である。中電は審査申請を考え直すべきだ。
 中電は、運転停止中の浜岡原発3〜5号機のうち、4号機について安全審査を申請し、再稼働を先行させる考えだ。追加の安全対策が必要になるため、実現するにしても2015年10月以降になる。
 それでも申請を急ぐのは、原発に代わる火力発電の燃料費負担がかさみ、経営を圧迫しているからだ。14年3月期では3年連続の最終赤字を見込む。そのため来年4月をめどに電気料金を値上げする方針だが、業績改善には原発の再稼働が欠かせないと判断したようだ。
 しかし、浜岡原発にはその立地条件故に他の原発とは異なる危険性がある。2年前、全面停止を要請した際に菅氏は「浜岡原発で重大な事故が発生した場合に日本社会全体に及ぶ甚大な影響を考慮した」と説明した。その通りだろう。
 懸念される南海トラフ巨大地震の震源域の真上に建ち、地震に伴う大津波に襲われる可能性もある。周辺には重要な工業地帯も控える。さらに、近くを東西を結ぶ大動脈である東名高速道路や東海道新幹線が通る。ここで大きな事故が起きれば、周辺だけでも甚大な被害が予想される。日本列島が分断され、国民全体の生活や産業が大きな打撃を被るおそれもある。
 そうした立地条件に内在する危険は、安全対策を積み重ねたところで克服し難い。10キロ圏内にある牧之原市の議会は「安全が担保されない限り永久停止すべきだ」と決議している。再稼働に県や周辺自治体の理解を得るのは難しいだろう。
 業績の改善は民間企業の経営者が追求すべき課題だ。しかし、浜岡の再稼働が本当に業績を支えることになるのか、再考を求めたい。
 原子力損害賠償法は、事故による損害の賠償責任を電力会社に負わせている。その責任は一企業では背負い切れないほど重く、最大手の東京電力でさえ事実上の国有化を受け入れざるを得なかったほどだ。経営者の合理的判断としても浜岡の再稼働はあり得ないのではないか。
 中電が前のめりになる背景には、安倍晋三政権が原発の将来像を示さないまま、再稼働容認の姿勢を強めていることがあるだろう。政府は、脱原発依存の道筋を示すとともに危険な原発の廃炉を促す政策にこそ力を入れる必要がある。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092902000122.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 不安を乗り越えるには
2013年9月29日

 3・11から二年半。誰もが原発災害の再発を恐れています。なのに、なぜ…。私たちの不安と不信は、私たち自身の力で乗り越えるしかありません。
 東京・原宿。表参道の交差点に近いオフィスで、安全・安心研究センター長、東京女子大名誉教授の広瀬弘忠さんに、原発のリスクに関する最新の調査結果を聞きました。
 専門は災害・リスク心理学。二十年前から、原発や核廃棄物、地震や地球温暖化などに対する意識調査を同じ手法で続けています。
 最近の二回、今年三月と八月の調査は特に、福島第一原発事故が一向に収まらない中で、原発推進に積極的な安倍政権がなぜ七月の参院選に大勝したか、その背景を探る意味合いもありました。
 大都市、中小都市、農村、漁村など全国二百地点を抽出し、十五歳から七十九歳までの男女約千二百人に質問用紙を直接配って調査した。
 米仏と共同で調査を始めた当初、日本では、原発や核廃棄物が社会に対するリスクではあるけれど、個人、すなわち自分自身にとってのリスクという感覚が鈍いのが気がかりでした。
 しかし3・11以降、「原発は一つ間違えば、社会的にも個人にとっても、非常に危険なものになるという危機感が定着した」と広瀬さんは考えます。
 八月の調査結果は次の通り。三月とほとんど一致します。

◆終息などとんでもない
 東日本大震災で最も深刻な被害を与えたものは何か、という質問に、59・9%が原発災害、と回答し、津波や地震を大きく上回っています。
 福島第一原発の現状では、全く終息していない、と答えた人が51・3%で前回とぴったり同じ。ほとんど終息していない、を合わせると、95%に上る。
 政府が言うコントロールもブロックも、全然信用されていないのが分かります。
 各地の原発再稼働で福島第一原発と同じ程度事故が起きる可能性について、起こる、という答えは25・5%と前回よりも3ポイントほど増えています。たぶん起こる、という回答は55・7%で、合わせて八割以上に上っています。
 その理由として、地震、津波、テロなどが挙がっています。
 国の原子力事故対策は、全くできていない、も33・4%と、前回の27・1%より増えている。あまりできていない、と答えた人を合わせると、九割を上回ります。
 原発の未来について、直ちにやめるべき、が31・4%と前回より微増、再稼働を認めながら段階的に縮小すべき、が51・9%という結果です。
 大規模な原発災害が発生した場合には、自分自身も深刻な健康被害を受けると答えた人は、七割以上に達しています。
 これらの数字はどう見ても、原発に対する人々の依然として強い不信と不安、そして忌避感を示しています。なのにどうして、選挙では原発に積極的な政権が選ばれたのか。
 調査結果を続けましょう。
 参院選の結果が日本の原発政策に影響を及ぼす、と答えた人は48・5%と半数を割っています。投票をするときに何を最も参考にしたか、では、政党のイメージが25・0%、原発政策は5・1%にすぎません。
 はっきりした理由はないけれど、何となく、が11・4%に上っています。
 このずれは、何なのか。
 読み取れるのは、選挙や政治に対する期待の薄さです。
 原発災害は恐ろしい。かといって、選挙や政治は当てにできないし、期待しない。そんなあきらめの深さです。

◆安心安全は自らの手で
 私たちは安全よりも原発を、安心よりも経済を、積極的に選んだわけではないようです。
 心にたまった不安を自らぬぐい、持続可能な社会へ向かうため、選挙と政治、そして民主主義の価値や力を、見直してみる必要もありそうです。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130929ddm003070182000c.htmlより、
時代の風:悪化する米露関係=米ユーラシア・グループ社長、イアン・ブレマー
毎日新聞 2013年09月29日 東京朝刊

 ◇国際秩序の空白を象徴
 シリアを巡る複雑な外交駆け引きは徐々に具体化しつつあるが、米露関係が依然として問題を抱えていることはもはや明白である。両国ともしばしば関係改善を口にするが、利害が相反して不調和が続き、国際的なリーダーシップが欠如してしまっている。
 オバマ米大統領は当選した2008年、米露関係の「リセット」を提案した。ロシアが懸念する米国のミサイル防衛計画などの数年来の懸案事項を乗り越える試みだった。だが、ロシアのプーチン氏は12年に大統領に返り咲いた際、反米を主張することを選んだ。
 オバマ氏は12年12月、重大な人権侵害に関与したロシア政府当局者に対する制裁を定めた通称「マグニツキー法」に署名。これにプーチン氏は、米国人がロシア人の子供を養子とすることを禁ずる法律で応えた。
 また今年8月、スパイ行為で米国を脱出したスノーデン容疑者の一時亡命を認め、米国を驚かせた。一方、米国はシリア内戦でロシアと関係の深いアサド政権を追及。プーチン氏は米国が示したアサド政権による化学兵器使用の証拠を虚偽と非難し、軍事攻撃を避けるため仲介を申し出た。
 今のところ影響は限定的だ。プーチン氏はアサド政権に化学兵器を廃棄させるという外交的決着をつけ、オバマ氏のメンツを保つ手助けをした。オバマ氏は議会との対立を避けられ、ロシアはシリアへの軍事攻撃を回避できた。国益が一致する場合は協力するのだ。
 米露関係悪化の潜在的要因は二つある。1点目は、プーチン氏が長期政権により、大都市部において支持を失っていることだ。ロシアのエネルギー輸出依存型の経済は、金融危機以降の世界的な景気後退の直撃を受けた。プーチン氏は大統領再選に向け、市民の関心を国内問題からそらす必要があった。反米的な言動はこの目的に合致した。
 2点目は、米国のエネルギー革命だ。米国はシェールガスの掘削により20年までに世界最大の産油国となり、35年までにエネルギーの自給自足を達成する。この大鉱脈は外交政策上の利点ももたらす。新エネルギーの輸出を通じ、日本など同盟国との関係改善や、エネルギーを輸出するライバル国の市場競争力を弱体化させることが可能となるからだ。例えば、欧州のロシアに対するエネルギー依存度を軽減させられる。また、間接的な影響として、米国の供給増加が原油価格を押し下げ、ロシアなど産油国を悩ませるだろう。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130929ddm003070182000c2.htmlより、
 プーチン氏にとってこれは深刻な脅威だ。ロシアは歳入の半分以上をエネルギー輸出に依存する。金融危機後ロシアは財政支出が急拡大し、これを賄うため原油価格は高い方が良い。今後、米欧でエネルギー需要が低下すればロシアの財政をむしばみ、プーチン政権の能力を試すだろう。
 米露関係の「リセット」は現実のものではなかった。オバマ氏は外交政策を重視していない。圧倒的多数の米国民は、他の問題に関わるよりも国内経済の再建を望んでいることを知っているのだ。私は米当局者から何度も聞かされた。オバマ氏がリセットを提案したのは、ブッシュ政権から受け継いだ軍備管理といった米露間の問題が、本当に実施したい政策の妨げとならないようにするためだ、と。プーチン氏もこれを歓迎した。反米はロシア国外で何の利益もないからだ。
 一方、日本にとり米露関係の悪化は新たな機会につながる。ロシアは友好国を、日本はエネルギーを必要としていたためだ。日本も米国の新エネルギー輸出の恩恵を受けられるが、時期や量は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉にかかっている。ロシアは欧州の顧客が選択肢を増やしたことで、日本とエネルギー貿易を促進する理由ができた。日露貿易の促進は、政治的関係の前進につながる。北方領土問題も進展が望めるだろう。
 米露関係の悪化は国際秩序の空白、つまりコストやリスクを引き受ける意思や能力を持つ国が存在しない世界「Gゼロ」の象徴だ。シリア問題でロシアは中国と、外交的圧力や国連安保理の拒否権を通じて米国の計画を妨げる能力があることを示した。同時に、それ以上は何もできないことも証明したのだ。だからシリアのような問題は悪化こそすれ、良くなることはないのだ。【訳・金子淳】=毎週日曜日に掲載

http://mainichi.jp/opinion/news/20130930k0000m070127000c.htmlより、
社説:汚染水問題質疑 首相こそ国会で説明を
毎日新聞 2013年09月30日 02時30分

 遅きに失した始動だ。福島第1原発の汚染水事故に伴う衆院経済産業委員会の国会閉会中の審査が行われ、政府や東京電力などによる対策への具体的検証が始まった。
 さきの参院選以来論戦を放置してきた国会だが、この期に及んでも臨時国会の召集時期で駆け引きを演じているのだからあきれる。安倍晋三首相が国会で説明する場を一日も早く設けなければならない。
 27日の質疑には東電の広瀬直己社長が出席、首相補佐官として汚染水対策を担当していた馬淵澄夫議員(民主)らが質問に立った。
 馬淵氏は、粘土遮水壁の配置計画を2011年6月に発表予定だったが、東電から「市場から債務超過と評価されかねない」との懸念を示され、見送った経緯を説明。広瀬社長も東電が遮水壁の基本仕様をまとめていたことを公式に認めた。
 馬淵氏は同氏が補佐官を外れたあとに遮水壁の建設が棚上げになった経緯を含め、党として検証作業を進めていることを説明した。単純に政府を追及するだけでなく、民主党前政権の責任も問われる課題だ。
 閉会中審査は30日も行う。だが、汚染水問題の深刻さが表面化して以降、首相が国会で国民に説明する場面はいまだに設けられていない。
 東京五輪招致演説で首相が「状況はコントロールされている」と発言したことをめぐり、東電幹部は「コントロールできていないと考える」と述べた。広瀬氏は国会で首相と同じ考えだと強調したが、現状認識や長期的取り組みの態勢をどう構築するか、首相は説明する責任がある。
 首相の「汚染水の影響は原発の港湾内の0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」という発言も波紋を広げている。政府は海洋モニタリングで放射性セシウム上昇がみられないなどと説明しているが「影響は完全にブロック」とは、そもそも何を意味するのか。
 野党側は参院で92人の議員の署名を集め、国会の早期召集を要求した。憲法は4分の1以上の求めがあれば召集するよう定めるが時期の規定はなく、与党に召集を来月15日から前倒しする気配はない。
 汚染水浄化装置「ALPS(アルプス)」が不具合で運転停止したように、既存の汚染水対策がうまくいく保証はない。これまで想定していない新たな事故が起こる可能性もある。政府の汚染水処理対策委員会はそうした潜在的な事故リスクを洗い出した上で追加の対策案を新たにまとめた。当然とも言えるが、それぞれの対策の実現性すらわからないのが実情だ。
 政府が対策の前面に立つ以上、首相が明確な対処方針を語るべきだ。国会こそ、その場にふさわしい。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014887441000.htmlより、
汚染水処理設備トラブル 処理を停止
9月28日 19時23分

東京電力福島第一原子力発電所で27日試運転を再開したばかりの汚染水の新たな処理設備で、配管を流れる廃液の量が減るトラブルが発生し、東京電力は汚染水の処理を停止して原因を調べています。
27日午後10時半すぎ、福島第一原発にある「ALPS」と呼ばれる汚染水の新たな処理設備で、汚染水から取り除いたウランなどの放射性物質を含む廃液を保管容器に送る配管で、流れる廃液の量が減るトラブルが発生しました。
このため、東京電力は設備の一部で汚染水を循環させる対応を取り、汚染水の処理を停止しました。
今のところ処理の再開のめどは立っていません。
「ALPS」は汚染水からほとんどの放射性物質を取り除く「汚染水処理の柱」とされる新たな設備で、27日午前0時すぎに1か月半ぶりに試運転を再開しました。
東京電力は処理設備をさらに増強して、汚染水の浄化作業を来年度中に完了させる目標を立てていますが、その柱となる設備が試運転再開から僅か22時間余りで処理を停止し、課題を残しました。
東京電力は、配管やタンクに異物が詰まるなどして廃液が流れにくくなった可能性があるとみて配管につながるタンクにカメラを入れるなどして原因を調べることにしています。

http://mainichi.jp/select/news/20130928k0000e040219000c.htmlより、
東京電力:汚染水浄化装置「アルプス」に不具合、運転停止
毎日新聞 2013年(最終更新 09月28日 13時23分)

 東京電力は28日、福島第1原発の放射性汚染水を浄化する多核種除去装置「ALPS(アルプス)」に不具合が見つかり、汚染水の処理を停止したと発表した。同装置は27日未明、約2カ月ぶりに試験運転を再開したばかり。
 東電によると、27日午後10時37分、最初の処理工程で生じる沈殿物を含んだ汚染水を排出する過程で不具合が見つかった。運転再開から停止までに約100トンの汚染水を処理したという。不具合の原因は調査中で、復旧の見通しは不明。
 アルプスはトリチウム(三重水素)以外の62種類の放射性物質を除去する能力があり、汚染水対策の「切り札」と位置付けられている。今年3月に試験運転を開始したが、タンクの腐食による水漏れが発覚し、8月に運転を停止した。2014年1月の本格稼働を目指し、今月27日に3系統中の1系統で試験運転を再開していた。【八田浩輔】

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2013092800150より、
汚染水処理、1日で停止=福島第1、放射能低減装置-東電

 東京電力は28日、福島第1原発で発生した汚染水から大幅に放射性物質を取り除く「多核種除去装置」(アルプス)で不具合があり、処理ができなくなったと発表した。汚染水対策の「切り札」として27日から試運転を開始したが、1日足らずでトラブルが起きた。原因は調査中で、処理再開のめどは立っていないという。
 東電によると、27日午後10時ごろ、アルファ線を出す放射性物質を取り除くための液体を排出する場所で、流量が十分出ていないことが判明。約30分後、液体を移送するポンプを停止した。アルプスは動き続けているが、汚染水の処理はできない状態になった。(2013/09/28-12:37)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092802000114.htmlより、
東京新聞【社説】汚染水と国会 実態解明へ責任果たせ
2013年9月28日

 福島第一原発の汚染水をめぐり、衆院経済産業委員会が閉会中審査を行った。遅きに失した感はあるが、実態を明らかにし、実効性ある対策を政府や東京電力に講じさせるのは、国会の責任だ。
 いかにも動きが鈍いのではないか。国会は七月二十一日の参院選後、八月二日から六日間、正副議長や各委員長らを選ぶ臨時国会を開いただけだ。本格論戦は十月中旬に召集予定の臨時国会まで待たねばならない。
 この間、高濃度汚染水の海への漏出が発覚し、地上タンクの汚染水漏れも相次いだ。原子力規制委員会は、国際的尺度による事故評価を上から五番目のレベル3(重大な異常事象)に引き上げた。
 その一方、安倍晋三首相は国際オリンピック委員会総会で「(汚染水の)状況はコントロールされている」「影響は港湾内〇・三平方キロの範囲内で完全にブロックされている」などと発言した。
 実態はどうなのか、首相発言は二〇二〇年夏季五輪を東京に招くための方便ではなかったのか。
 こうした疑問を国民に代わって政府や東電にただし、論戦を通じてよりよい対策に練り上げることこそ、国権の最高機関であり、国政調査権を持つ国会の責任だ。
 国会の委員会は閉会中でも会議を開き、審査することができる。
 衆院経産委がようやく重い腰を上げたとはいえ、東電が汚染水漏出を認めたのが七月二十二日、首相の発言は今月七日だ。危機感が足りないとの批判は免れまい。
 野党は次の臨時国会を前倒しで召集するよう要求したが、与党は応じなかった。野党の追及を回避したり、汚染水問題が五輪招致に与える影響を避けたりする思惑があったのなら見過ごせない。
 衆参「ねじれ」状態が解消したからこそ、与党側は、野党側の意見に耳を傾け、より丁寧な国会運営を心掛けるべきである。
 きのう参考人として出席した広瀬直己東電社長は、港湾内への汚染水流出が続いているとの見方を示した。閉会中審査は三十日も開かれ、茂木敏充経済産業相、原子力規制委の田中俊一委員長から聴取する。まずは汚染水の実態解明に全力を挙げてほしい。
 きのうは委員側から、東電は破綻処理した上で、出直すべきだとの提案も出た。傾聴に値する。
 汚染水処理や廃炉工程を着実に進め、賠償や除染を加速させるには、事故処理の枠組みを根本から見直す必要があるのではないか。時機を逸するべきではない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130928ddm003040097000c.htmlより、
クローズアップ2013:福島第1原発・汚染水問題 汚染水、手に余す東電
毎日新聞 2013年09月28日 東京朝刊

 深刻化している東京電力福島第1原発事故の汚染水問題。後手に回ってきた対応を改善しようと、多核種除去装置「ALPS(アルプス)」が27日に試験運転を再開した。政府も今後起こりうるトラブルとその対策案を初めて公表し、問題解決への第一歩を踏み出した。しかし、実現性が乏しい案も目立つ。国会で開かれた汚染水問題の閉会中審査でも「東電1社の能力を超えている」などの意見が続出。出席した東電の広瀬直己社長は謝罪と釈明に追われた。

 ◇「切り札」アルプスに不安
 国際社会に不安をもたらした原発事故から2年半。「これまでは問題が起きてから対策を考えてきた。これからは準備していく」。リスクの公表に当たり、経済産業省資源エネルギー庁の上田洋二・汚染水対策官は強調した。
 政府の汚染水処理対策委員会は、表面化していない「潜在リスク」を洗い出した。汚染水は、地下水が壊れた原子炉建屋に1日400トン流入し、溶けた核燃料に触れて増える。対策委は、最大の潜在リスクとして、建屋からの高濃度の汚染水漏れを指摘した。
 その主因が、水を処理しながら炉心を冷却する現在の「循環注水冷却システム」の仕組みだ。配管は延長4キロにも及び、漏水リスクが高い。予防策として、対策委は建屋と汚染水浄化装置を直接つなぎ、水を処理しながら炉心を冷却する「小さな循環ループ」の敷設を挙げた。壊れた建屋の止水工事も示した。
 さらに、港湾内の大量の海水から放射性物質を取り除いたり、アルプスで除去できない放射性トリチウムを含んだ水を、地下空間に保管したりする技術開発も盛り込まれた。
 だが、これら大半の対策案は今後、国内外の知見を集めて検討する段階で、実現できるかどうかは不透明だ。例えば、「小さな循環ループ」では建屋内の工事が不可欠だが、高い放射線量のために人が入って作業するのは困難だ。止水するにしても破損の場所も正確に把握できていない。上田氏も「実行を決めたものではない」と認める。
 「明確なゴールを設定すべきだ」。27日に非公開で開かれた対策委で、有識者の一人が切り出した。達成度が不確実にもかかわらず、こうした案が提示された背景には、今夏に発覚した汚染水の海洋流出問題で、国際的に日本の技術者に懐疑的な目が向けられ、これを払拭(ふっしょく)したい焦りがある。出席者の一人は「問題を解決できなければ技術者として恥だ」と打ち明ける。
 一方、敷地内の貯蔵タンクの汚染水漏れリスクを下げるため、試運転を再開したアルプスは汚染水対策の切り札と位置づけられている。国は高性能アルプスに約150億円を投入し、東電は2014年9月までに導入する計画だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130928ddm003040097000c2.htmlより、
 しかし、今回試運転を再開したアルプスは、東芝が11年5月に技術提案してから工事開始までに約10カ月、設置工事に半年、水や汚染水などを使った試運転までに1年超を費やした。高性能アルプスも期待通りの工程で稼働するかは不透明だ。
 地下水が原発の建屋に流入して汚染する前にくみ上げて海に流す「地下水バイパス」も計画しているが、井戸から最大で1リットル当たり910ベクレルのトリチウムが検出され、地元の理解が得られるかは微妙だ。【鳥井真平、奥山智己】

 ◇社長「現状モグラたたき」
 「事故から2年半が過ぎ、今なお大変なご迷惑、ご心配をおかけしている」。27日に開かれた閉会中審査の衆院経済産業委員会で、東京電力の広瀬直己社長は冒頭、謝罪の言葉を述べた。議員から、汚染水対策の進捗(しんちょく)状況などを問われると、「手が回っていないところがある」「モグラたたきの状況が続いている」と、対応の難しさを訴え、国が積極的な関与を始めたことを「ありがたい」と話した。
 馬淵澄夫氏(民主)らが、福島第1原発事故の3カ月後の11年6月に地下水の遮水壁設置を決定しながら見送った経緯を問うと、広瀬社長は「優先順位をつける中で、海側に遮水壁を作ろうという議論になり、(民主党政権と東電による)統合対策室で決定した」と、複数の課題に取り組む中、対策が後手に回ったことを認めた。
 複数の議員から、東電のコストカットが問題拡大の背景にあるのではと問われると、「(対策費用を)ケチってやるべきことをやらなかったということは決してない」と否定。汚染水対策を含む廃炉費用として用意した約9600億円に加え、今後10年間で新たに1兆円の資金枠を設定して対応することを説明した。しかし、「(計約2兆円で)全部足りると申し上げてはいない」とも語り、汚染水対策の展望がはっきり見通せないことを際立たせた。
 現在の処理計画は(1)アルプスの本格稼働(12月以降)(2)同規模の処理装置の稼働(来年秋以降)(3)政府が国費を投入して新設する高性能の処理装置を稼働(同)−−などの条件を達成する必要がある。それ以前に、汚染される前の地下水を海に流すことについて地元漁協の理解を得ることも必要だ。
 東電は14年度中に汚染水浄化の完了を目指すが、広瀬社長は「とにかく汚染水をどんどん処理しなければならない」などあいまいな答弁に終始。議員から「求められるのは結果だ」(鈴木淳司氏=自民)と迫られる場面もあった。【清水憲司、中西拓司】

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2013092701031より、
汚染水「海への影響は管理」=11年に遮水壁検討-衆院委審査で東電社長

 衆院経済産業委員会は27日午後、東京電力福島第1原発の放射能汚染水漏れ問題に関する閉会中審査を行った。参考人として出席した東電の広瀬直己社長は問題の現状について「海への影響という意味ではコントロールできている」と述べ、先に「状況は管理下にある」と発言した安倍晋三首相と認識を共有しているとの立場を示した。今井雅人氏(日本維新の会)の質問への答弁。
 広瀬社長は同時に「そうは言ってもトラブルは発生している」とも語り、汚染水漏れが発覚した貯水タンクの交換などに全力を挙げる意向を強調した。野党の出席者からは「事故はコントロールどころか、放射能汚染の拡大という危機的な状況にある」(共産党の塩川鉄也氏)などと厳しい声が相次いだ。(2013/09/27-20:20)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130927/k10014868441000.htmlより、
東電 汚染水対応の遅れを認める
9月27日 18時22分

衆議院経済産業委員会は東京電力福島第一原子力発電所の汚染水問題を巡って閉会中審査を行い、参考人として出席した東京電力の廣瀬社長は、おととし6月に汚染水の流出を防ぐための遮水壁の設置を決定したものの、ほかの対策を優先した結果、対応が遅れたことを認めました。
衆議院経済産業委員会は東京電力福島第一原子力発電所の汚染水問題を受けて27日、東京電力の廣瀬社長を参考人として呼び、閉会中審査を行いました。
この中で廣瀬社長は冒頭、「昨今の汚染水問題で新たな心配、不便をおかけしており、本当に申し訳ない」と陳謝しました。
このあとの質疑で廣瀬社長は「東京電力も汚染水が海に漏れ出す可能性があることを認識し、地下水の遮水壁を設置することをおととし6月に決定していた」と指摘され、事実関係を認めました。
そのうえで廣瀬社長はおととし6月以降も汚染水対策が進まなかった理由について「2年前には放射線量が高いエリアがたくさんあり、がれきの量も多かった。優先順位をつけるなかで、まずは海側の遮水壁を作っていこうと政府と東京電力の統合対策室で決定された」と説明しました。
また廣瀬社長は、安倍総理大臣が、先のIOC=国際オリンピック委員会の総会で「状況はコントロールされている」と述べたことについて「湾の外に影響が及ぶことはないという主張だと聞いており、私も同じ考えだ。海への影響という意味ではコントロールはできている」と述べました。
一方、委員会に先立って開かれた理事会で来週30日に茂木経済産業大臣や原子力規制委員会の田中委員長らを呼んで閉会中審査を行うことで与野党が合意しました。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131003/mds13100303300001-n1.htmより、
産経新聞【主張】シリア査察 内戦終結こそが最重要だ
2013.10.3 03:30

 シリアの化学兵器全廃に向け、化学兵器禁止機関(OPCW)による査察活動が始まった。
 廃棄を義務付けた国連安保理決議は、2年半に及ぶシリア内戦への初の拘束力を持つ内容で、全会一致で採択された。常任理事国(米英仏露中)が足並みをそろえ、国際社会が結束した意味合いは大きい。化学兵器の使用、拡散を封じると同時に、これを内戦終結への第一歩とすべきだ。
 シリアの化学兵器の国際管理下での全廃は、アサド政権の後ろ盾であるロシアが米国の軍事介入を嫌って提案した。
 決議によると、シリアは来年半ばまでに化学兵器を全廃し、不履行の場合、国連憲章7章に基づく措置(経済、武力制裁)を講じるとされている。その場合には新たな決議を必要とすることで、米国などとロシアが折り合った。
 仮に不履行が濃厚になった場合、ロシアは制裁、武力行使回避のため、新決議作りに難色を示したり、拒否権をちらつかせたりすることがあってはならない。化学兵器全廃の提案者として責任を貫いてもらいたい。廃棄を進めるため、オバマ米大統領も軍事圧力を緩めるべきではない。
 OPCWは査察団の先遣隊20人をシリア入りさせた。内戦下での査察活動は大きな危険を伴う。シリア政府は「決議順守」を繰り返し強調している。査察団の身の安全を保証するのはもとより、化学兵器の偽りのない詳細なリストを提出し、生産設備、保管場所を明らかにするなど、廃棄に全面協力しなければならない。
 シリアでは通常兵器による戦闘が続いている。化学兵器が使われなくても、内戦の惨状は変わらない。死者は増加の一途で11万人を超えたとの指摘もある。内戦を終わらせることが安保理の責務だ。国際社会は内戦収拾に可能な限り協力しあうことが必要だ。
 政府側、反政府側、関係各国による国際会議の開催が急がれる。サウジアラビアやカタール、トルコは、支援している反政府側を交渉のテーブルに着かせるよう影響力を行使してもらいたい。
 安倍晋三首相は国連総会演説で、シリアの化学兵器全廃への支持と協力を約束した。日本はすでにシリア難民への支援を行っており、廃棄の技術提供で貢献する余地もある。和平に向けた政治的役割を模索すべきだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130929k0000m070089000c.htmlより、
社説:化学兵器決議 シリア和平への弾みに
毎日新聞 2013年09月29日 02時33分

 国連安保理がシリアに化学兵器の全廃を義務付ける決議を全会一致で採択した。2年半に及ぶ内戦下、初めて安保理常任理事国(米英仏露中)が足並みをそろえた形である。だが戦闘はなお続き、数百万人が国内外で避難生活を送る。決議を弾みに、国際社会は和平会議の早期開催と内戦収拾に努めるべきである。
 シリア混迷の一因は、新孤立主義といわれるほど米オバマ政権が紛争への関与を避け、「世界の警察官」の座からはっきりと降りる意思を示したことだ。他方、米国の影響力も関心も薄れた中東では、独裁体制への抗議活動(アラブの春)が次第に過激化しながら広がり、シリアに至って大詰めを迎えた感がある。
 ロシアや中国にとって米国の影響力低下は悪いことではないが、イスラム主義の高揚や宗派対立は歓迎できない。多数のイスラム教徒が住む両国にも「春」が飛び火する可能性があるからだ。両国がシリア関連の安保理決議案に3回も拒否権を使った裏には、シリア情勢の波及を避けたい気持ちもあっただろう。
 シリアは、アサド大統領自身が言うようにイスラム教の宗派や民族が入り組む「断層の国」だ。アラウィ派(イスラム教シーア派の一派)を基盤とするアサド政権が倒れれば、多数派であるスンニ派主導の政権が誕生する可能性が高い。だが、すんなり新政権ができればいいが、ソ連軍撤退後のアフガニスタンがそうだったように、今度は別の構図で内戦が始まる恐れがある。
 これは米国も避けたいシナリオであり、米露それぞれの思惑で手を打ったのが「シリアの化学兵器の廃棄」だったのだろう。決議によると、シリアが義務を怠れば、国連憲章第7章による措置(武力行使など)を検討できるが、実際には来年前半の廃棄期限まで米国は見守るしかなさそうだ。しかも武力行使には新決議を必要とする。事実上、米国もアサド政権の存続を認めたと見える点で、ロシアは大きな得点を稼いだ。
 だが、大国の駆け引きはともかく、シリアの一般庶民にとって、悲惨な現実は何一つ変わっていないことを再認識すべきである。シリアが化学兵器禁止条約に加入し、1000トン以上とされる同国の化学兵器が全廃されるのは意義深い。廃棄の技術を持つ日本が協力する余地もあろう。
 ただ、最も重要なのは戦闘停止だ。決議には、アサド政権と反体制派の代表が参加する和平会議の早期開催や移行政府の樹立も盛り込まれた。これを歓迎し、潘基文(バン・キムン)国連事務総長が言った通り和平会議が11月に開かれるよう期待したい。開催が遅れれば、それだけ内戦の死者と難民が増えていくことを忘れてはなるまい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130929ddm003030162000c.htmlより、
クローズアップ2013:安保理、シリア化学兵器対応 決議先行、具体策欠く
毎日新聞 2013年09月29日 東京朝刊

 国連安全保障理事会は27日、シリアのアサド政権に化学兵器全廃を義務付ける決議案を採択し、週明けに査察が始まる。だが具体的手法の詰めはこれからで、要員や財源の確保、内戦下の不安定な治安など課題は多い。一方、同決議を「巨大な勝利」と自賛したオバマ大統領だが、シリアでの化学兵器使用への対応で迷走して威信は失墜。廃棄が停滞すれば再び批判の矢面に立ちかねない。

 ◇要員、資金、治安も不安
 「廃棄計画立案には全容把握が必要」(化学兵器禁止条約加盟国の外交官)。シリアは21日、化学兵器の査察や廃棄を担当する化学兵器禁止機関(OPCW)に関連情報を提出したが、詳細な廃棄計画には不十分。27日招集のOPCW執行理事会決議は1週間以内の追加申告を求めた。
 外交筋によると、化学兵器物質が弾頭に入れられ実戦配備されると、作業は格段に難航する。専門家が保存場所を査察し全容を把握しない限り、処理計画は立てにくい。執行理事会は計画を先送りし11月15日までに決めるとした。10月1日までに始まる査察の内容を見て詳細を詰める。
 人材不足も問題だ。OPCWには230人(2012年)の査察・検証官が在籍。廃棄作業中なのは米露日中とリビアだけで要員は減少傾向だった。シリアでは11月1日までに全施設の初期査察完了が必要。OPCWは決議で査察官の臨時雇用を求め、退職者の復帰を呼びかける。
 財政面も不安だ。OPCWの年間予算は約7500万ユーロ(約100億円)。推定1000トン超のシリア化学兵器の安全な処理には数千億円が必要。執行理事会は各国に資金拠出を求めた。
 シリアの治安も大きな懸念材料だ。査察官や、化学兵器の集積・移送の護衛に兵力派遣が必要と専門家は指摘する。ロシアは軍・警察を派遣する用意を表明。ロシアなど旧ソ連6カ国でつくる「集団安全保障条約機構」も参加を検討中だ。
 シリア政府は査察に協力する姿勢だが、アサド大統領は25日、「テロリストが調査を妨害する可能性は常にある」と警告。査察団の行動が大幅に制限されるのは確実と見られる。
 「14年半ば」の全廃期限達成には国際支援が不可欠だが、ロシアは自国内での廃棄は拒否。法的制限が公式理由だが、自国分だけで1万トン以上の処理が残り、他国分を受け入れる余裕はないとみられる。米国も2000トン以上を処理中だ。日本は中国での遺棄化学兵器廃棄に移動処理装置を送っており、政府は貢献策の一つとして検討中だ。【ブリュッセル斎藤義彦、モスクワ田中洋之、カイロ秋山信一】

 ◇迷走で米の威信失墜
http://mainichi.jp/opinion/news/20130929ddm003030162000c2.htmlより、
 英誌エコノミストが26日公表したインターネットによる世論調査結果(21〜23日実施)では、米国民の58%が軍事攻撃に反対だが、世論に応えて攻撃を回避したオバマ大統領への評価は低い。「シリア情勢に最も効果的に対処した指導者は?」との質問に対し、49%がロシアのプーチン大統領を挙げ、25%のオバマ大統領を引き離した。米シンクタンク・ヘリテージ財団のジェームズ・フィリップ上級研究員は「オバマ大統領のその場しのぎの対応が、プーチン大統領を操縦席に押し上げた」と指摘する。
 国連安保理決議はアサド政権に化学兵器廃棄を迫りつつ、政権と反体制派が出席する国際会議を開き移行政府を樹立するよう求めた。
 だが、双方が和平に応じる機運は乏しい。ブルッキングス研究所ドーハセンターのサルマン・シェイク部長は最近の報告書で「オバマ政権の外交的解決の追求は、当面は最も反発が少ない道を選んだ結果。シリア危機が続く真実は隠せない」と指摘する。
 さらにシェイク氏は、オバマ大統領が中東の親米諸国に相談せずに、シリアの化学兵器使用への対処方針を軍事介入から外交対処へ二転三転させた点に着目。「オバマ大統領にアサド政権を打倒する決意がない状況で、これらの国々は『我々は米国をアテにできるのか』と問うている」と述べ、米外交への信頼低下が起きていると懸念する。
 オバマ大統領の迷走ぶりが、中国の軍備拡張が進むアジア太平洋地域にも影響を及ぼすとの見方もある。米調査企業ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は英紙に対し、米国との関係強化で中国の海洋進出に対抗してきたインドネシアやフィリピンが、オバマ政権の対応を見て、長期的には中国との関係再構築にかじを切る可能性を指摘した。【ワシントン白戸圭一】

 ◇国連安保理決議 要旨
・化学兵器使用は国際の平和と安全への脅威
・シリアでの化学兵器使用を最も強い言葉で非難
・シリア化学兵器の迅速廃棄と厳格検証の特別手続きを定めた化学兵器禁止機関(OPCW)決定を支持
・シリア政府など全当事者による化学兵器の使用、開発、製造、取得、貯蔵、移転を禁止
・シリア政府のOPCW決定全面順守を義務付け
・シリア政府など全当事者に査察や治安確保で国連・OPCWへの協力義務付け
・シリアでの化学兵器使用者の責任追及が必須
・シリアでの移行政府樹立に向け可及的速やかな国際会議開催を要請
・化学兵器の無許可移転や使用など決議違反には国連憲章7章に基づく措置

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014880683000.htmlより、
化学兵器廃棄迫る決議 安保理が採択
9月28日 12時58分

シリアに化学兵器の廃棄を迫る国連安全保障理事会の決議案の採決が行われ、全会一致で採択されました。
これまで対立してきた欧米とロシアが初めて足並みをそろえたことで、激しい内戦が続くシリアの現状の打開につながるのか注目されます。
シリアに化学兵器の廃棄を迫る安全保障理事会の決議案は、27日夜(日本時間の28日午前9時すぎ)、安保理の会合で採決にかけられ、全会一致で採択されました。
採決には、これまで交渉を続けてきたアメリカのケリー国務長官やロシアのラブロフ外相をはじめ、各国の外相が出席し、国際社会の結束を強く印象づけました。
国連のパン・ギムン事務総長は、「この歴史的な決議はシリアにもたらされた最初の希望だ」と述べ、決議の意義を強調しました。
採択された決議には、オランダのハーグにある化学兵器禁止機関が承認した廃棄計画が付属文書として添えられ、シリア政府に対して廃棄計画に従うよう求めていて、違反した場合には制裁措置を定めた国連憲章第7章に基づいて、安保理が必要な措置を講じるとしています。
また、決議は化学兵器の廃棄にとどまらず、内戦の終結に向けて、アサド政権と反政府勢力が参加する国際会議を早急に開き、双方の合意のうえで暫定政権の発足を目指す、としています。
シリア情勢を巡っては、この2年半、欧米とロシアとの対立から、3回にわたって安保理で決議案が否決され、国際社会が一致した対応を取れなかっただけに、安保理各国が初めて足並みをそろえたことで、激しい内戦が続くシリアの現状の打開につながるのか注目されます。

シリア大使「真摯に協力」
安保理決議が採択されたことについて、シリアのジャファリ国連大使は記者団に対し、「シリア政府は、化学兵器禁止機関に真摯(しんし)に協力するつもりだ」などと述べ、化学兵器の廃棄に向けて査察などに協力していく姿勢を示しました。
一方で、内戦の終結に向けて取り組むことが決議に盛り込まれた点については、「シリアは政治的な解決の道を模索してきたが、武装勢力を支援している周辺の国々も決議に従うべきだ」と述べて、反政府勢力を支援している周辺国や欧米諸国をけん制しました。

岸田外相「採択を歓迎」
岸田外務大臣は、シリアに化学兵器の廃棄を迫る国連安全保障理事会の決議案が全会一致で採択されたことを受けて談話を発表しました。
それによりますと、「わが国としても、これまで強力な安保理決議を求めてきたところであり、きょうの決議の採択を歓迎する」としています。
そのうえで、「わが国としては、シリア政府が化学兵器禁止機関の決定と、今回の決議で定められた化学兵器廃棄計画を、誠実かつ完全に実施することを強く求めたい。そして、化学兵器が2度と使用されないよう可能なかぎりの協力を行っていくほか、難民支援や周辺国支援にも積極的に取り組んでいきたい」としています。

http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2013092800120より、
シリア決議を採択=化学兵器廃棄で国連安保理-来月1日までに査察着手

 【ニューヨーク、ハーグ時事】国連安全保障理事会は27日夜(日本時間28日午前)、シリアに化学兵器廃棄を義務付ける決議案を全会一致で採択した。オランダ・ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)が同日招集した加盟国会合で廃棄計画を決定したのを受け、採択された。OPCWは10月1日までに化学兵器の査察に着手し、2014年前半の全廃を目指す。
 シリアは神経ガスのサリンなど推定約1000トンの化学兵器を国内約50カ所で分散管理しているとみられている。廃棄計画は、シリアの化学兵器に対する即時・無制限の査察権を明記したほか、化学兵器の製造設備を11月1日までに全廃すると定めた。
 これを受け、安保理決議はシリア政府に対し、OPCWの決定に全面的に従うよう要求、シリアに明確な法的義務を負わせた。シリア内戦の勃発以来、同国に対する拘束力のある安保理決議が採択されたのは初めて。
 決議は、化学兵器の使用や無許可での移動といった決議不履行があれば、強制措置を可能にする国連憲章第7章の下で「措置を科す」と明記。第7章下の措置には経済制裁や軍事行動があるが、決議に措置の内容は盛り込まれていない。不履行が認定された場合、制裁の決定と発動には新たな安保理決議が必要になる。
 ケリー米国務長官は採択後に議場で、シリアのアサド政権が決議履行を怠れば「結果が伴う」と述べ、制裁措置を取ると警告した。
 OPCWからは査察準備のため、6人程度の先遣隊が30日にも現地に向けて出発する。査察は計画決定から30日以内に完了させる。(2013/09/28-11:47)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013092801001354.htmlより、
安保理、シリア化学兵器全廃決議 来年半ば期限
2013年9月28日 10時17分

 【ニューヨーク、ハーグ共同】国連安全保障理事会は27日夜(日本時間28日午前)、シリアの化学兵器全廃を義務付ける決議案を全会一致で採択した。化学兵器禁止機関(OPCW、オランダ)もこれに先立ち、来年半ばまでの化学兵器全廃を柱にした廃棄計画を決定した。安保理決議は廃棄計画に強制力を与える。
 10月1日までに査察が始まり、30日以内に最初の査察が完了する。米欧が軍事介入を検討した後、外交解決に転じたシリアの化学兵器問題は、安保理とOPCWが連動した国際管理下での廃棄作業に移行する。米ロの枠組み合意から10日余りで全廃プロセスが本格的に動きだした。

http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2013092800083より、
廃棄計画を決定=シリア化学兵器-国際機関

 【ハーグ時事】オランダ・ハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)は27日夜(日本時間28日午前)から28日未明(同)にかけて加盟国による会合を開き、米ロ合意に基づくシリアの化学兵器廃棄計画を採択した。10月1日までに化学兵器の査察に着手し、2014年前半の全廃を目指す。
 シリアは神経ガスのサリンなど推定約1000トンの化学兵器を国内約50カ所で分散管理しているとみられている。廃棄計画は、シリアの化学兵器に対する即時・無制限の査察権を明記したほか、化学兵器の製造設備を11月1日までに全廃すると定めた。
 査察準備のため、6人程度の先遣隊が30日にも現地に向けて出発する。査察は計画採択から30日以内に完了させる。(2013/09/28-09:26)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014880211000.htmlより、
化学兵器廃棄迫る 安保理決議採択へ
9月28日 7時30分

シリアに化学兵器の廃棄を迫る国連安全保障理事会の決議案の採決が、日本時間の28日にも行われ、決議は全会一致で採択される見通しで、これまで対立してきた欧米とロシアが初めて足並みをそろえることで、シリア情勢の改善につながるのか注目されます。
シリアに化学兵器の廃棄を迫る安保理の決議案を巡っては、ニューヨークで開かれている国連総会に出席している安保理常任理事国の外相が協議を続けた結果、26日、合意に達し、安保理に提出されました。
決議案は、化学兵器禁止機関が承認する廃棄計画を付属文書にして、日本時間の28日にも開かれる安保理で採決にかけられ決議は全会一致で採択される見通しですが、28日早く開かれる予定だった化学兵器禁止機関の緊急理事会は開会が遅れていて採択の時間は決まっていません。
決議案は、シリアに対し化学兵器禁止機関の廃棄計画に従うことを求め、違反があった場合は、制裁措置を定めた国連憲章第7章に基づいて、安保理が必要な措置を講じるとしています。
また、シリアの内戦の終結に向け、早急にアサド政権と反政府勢力が参加する国際会議を開き、双方の合意のうえで暫定政権の発足を目指すとしています。
採決には、各国の外相も出席し、国際社会の結束を強く印象づけるものになるとみられます。
シリア情勢を巡っては、この2年半、欧米とロシアとの対立から、3回にわたって安保理決議案が否決され、国際社会が一致した対応を取れなかっただけに、安保理各国が初めて足並みをそろえることで、事態の打開につながるのか注目されます。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014879821000.htmlより、
シリア化学兵器 廃棄計画決定
9月28日 6時31分

シリアで化学兵器が使われた問題でOPCW=化学兵器禁止機関は、日本時間の28日朝早く、緊急の理事会を招集し、シリアの化学兵器廃棄に向けて来月1日までに査察を開始し、来年前半にすべての化学兵器の廃棄を完了するという計画を決定しました。
オランダ・ハーグにあるOPCWは27日深夜(日本時間28日朝早く)、日本など41か国の大使らによる緊急の理事会を招集し、シリアの化学兵器廃棄に向けた具体的な計画を決定しました。
計画によりますと、来月1日までにシリアで査察活動を開始し、30日以内にすべての関連施設での査察を終え、来年前半にすべての化学兵器の廃棄を完了するとしています。
そのうえで、シリアに対し「あらゆる施設に対し即座に、無条件での査察」を認めるよう求め、シリア側の対応に問題があった場合は、24時間以内にOPCWの理事会を招集し、国連の安保理に報告するかどうかを判断するとしています。
計画の内容は、アメリカとロシアが今月14日、シリアの化学兵器廃棄に向けて取り交わした合意に沿ったものです。
シリアはサリンなどの化学兵器、およそ1000トンを保有しているとみられ、激しい内戦が続くなかでの査察はOPCWにとって初めてとなるだけに、困難が予想されています。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013092701002075.htmlより、
化学兵器「来年半ば全廃」決定へ シリア問題で国際機関
2013年9月27日 22時22分

 【ブリュッセル共同】オランダ・ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)は27日夜(日本時間28日未明)、執行理事会(日本など41カ国)を開く。外交筋によると、米国とロシアの枠組み合意に基づき、来年半ばまでのシリア化学兵器全廃を柱とする廃棄計画を決定する。ロイター通信によると、決定案は10月1日までの査察開始も求めた。
 国連安全保障理事会は9月27日、OPCW決定に強制力を与える決議案を採択する見通しで、双方が連動しながら国際管理下での廃棄作業が進む。米ロ合意は国際社会の目標となり、履行プロセスが本格的に動きだす。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013092701000915.htmlより、
シリア決議案28日にも採択 安保理、化学兵器廃棄へ前進
2013年9月27日 14時53分

 【ニューヨーク共同】国連安全保障理事会の5常任理事国は26日、シリアにおける化学兵器の使用を非難し、廃棄を義務付ける決議案に合意した。安保理は全体の非公開協議を26日夜に開催、早ければ27日午後(日本時間28日午前)にも採決する。採択される見通し。安保理外交筋が共同通信に明らかにした。
 米国が軍事介入から外交的解決の模索に転じたシリアの化学兵器問題は、今回の合意で、米国とロシアによる廃棄枠組みの履行へ大きく前進した。
 オランダ・ハーグの化学兵器禁止機関(OPCW)はシリアから化学兵器の申告を受け、内容の精査を進めている。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60364920Z20C13A9PE8000/より、
日経新聞 社説 日本の安保戦略にどう理解を広げるか
2013/9/29付

 日本の安全保障政策は大きな転機を迎えようとしている。なかでもいちばん大きいのは、集団的自衛権の行使に向け、安倍政権が議論を加速していることだ。
 北朝鮮による核開発や中国の軍備増強が進み、アジアの安全保障の環境は厳しくなっている。テロやサイバー攻撃など、国境を越えた脅威も広がっている。自分の国が攻撃されなければ安全という一国平和主義の発想では、日本を守りきれない。
 こうした現実を踏まえれば、日本が集団的自衛権の憲法解釈を見直し、行使に道を開くのは理にかなっている。
 だからといって、日本の意図が誤解され、国際社会の疑心暗鬼を招いたら元も子もない。米政府は日本による集団的自衛権行使の解禁を歓迎する意向を示しているが、アジアの国々からも十分、理解を得ていく必要がある。
 安倍晋三首相は先週訪れたニューヨークでの講演で、日本が集団的自衛権の行使を可能にしようとしていることについて、積極的平和主義の担い手になるためであると説明した。アジアや世界の平和や安定のため、日本としても積極的に貢献していくという意味だ。
 ただ、中国内などには日本の安保戦略について、右傾化や軍国主義復活の兆しではないかと指摘する向きもある。中国は日米同盟の強化を警戒しており、あえてそうした論調を広めようとしているふしもうかがえる。
 安倍首相は講演で、名指しを避けつつ中国の軍拡ぶりにふれ、日本の防衛予算の伸びが比較にならないほど低い事実を説明した。具体的な数字を示し、反論したのはよかった。
 そのうえで、安倍首相は「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたければ、どうぞそうお呼びいただきたい」とも語った。全体の文脈でみれば真意は分かるが、中国はさっそくこの発言を切り取り、日本批判に利用している。冷静な反論に徹するほうが効果的だろう。
 中国の宣伝戦に対抗し、日本の安保戦略への理解を広めるには、歴史認識問題をめぐる各国の疑念を取りのぞく努力も欠かせない。
 安倍首相は国連総会の演説で、女性の人権保護などに取り組む姿勢をみせた。旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐり、日本への批判がくすぶっている現実を意識した発言だろう。安保戦略の見直しと併せ、日本の発信力も問われる。

http://mainichi.jp/select/news/20130928k0000e010161000c.htmlより、
安倍首相訪米:異例3度の熱演 海外知名度アップ狙い
毎日新聞 2013年(最終更新 09月28日 10時43分)

 【ニューヨーク古本陽荘】安倍晋三首相は27日午後(日本時間28日未明)、訪米日程を終え帰国の途につく。米ニューヨーク滞在中には国連総会などで計3回の演説を行った。かつての自民党の首相は国連総会を欠席することも珍しくなく、安倍首相の姿勢は際立っている。国内での高い内閣支持率を背景に長期政権を見据えた首相が、海外での知名度アップも狙った「スピーチの旅」だった。
 「世界経済回復のためには3語で十分。バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)。ウォール街のみなさまは常に世界の半歩先を行く。だから今がチャンスだ」
 首相は25日(日本時間26日)、現職首相として初めて訪れたニューヨーク証券取引所で、アベノミクスを売り込んだ。政府が6月に打ち出した成長戦略は市場の評価が今ひとつで、「次の一手」に国内外の注目が集まる中、首相は演説で「投資を喚起するため、大胆な減税を断行する」と強調。法人減税を巡る与党との調整が続いているにもかかわらず、経済対策のとりまとめに自信を示した。
 こうした手法は「汚染水の影響は港湾内で完全にブロックされている」と言い切った国際オリンピック委員会(IOC)総会での演説とも重なる。首相には「詳細に立ち入るほど、アピール力は落ちる」(政府関係者)という計算があるようだ。会場では、首相の「スピーチライター」とされる谷口智彦内閣審議官が演説を見守った。
 「もしみなさまが私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞそうお呼びいただきたい」
 25日(日本時間26日)に米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」で行った演説では、中国の軍備拡張を暗に批判したうえで、日本の防衛予算の伸び率の低さを説明し、日本の「右傾化」懸念に反論してみせた。挑発的ともとれる発言だが、首相周辺は「他国には安倍政権にレッテルを貼ろうとする動きもある。それを逆手に取った」と、してやったりの表情を浮かべた。
 「国際社会との協調を柱としつつ、新たに『積極的平和主義』の旗を掲げる」
 首相は26日(日本時間27日)、国連演説で積極的平和主義に言及。「PKO(国連平和維持活動)をはじめ国連の集団安全保障措置に対し、一層積極的な参加ができるよう図っていく」と述べたが、集団的自衛権の行使を含め現行の憲法解釈の変更には触れなかった。

http://mainichi.jp/select/news/20130928k0000e010161000c2.htmlより、
 一方、首相は同行記者団に「(憲法解釈変更の)時期を設定するつもりはない」と語った。場面や聴衆に応じて発言内容を抑制することで、「慎重に議論を進めるべきだというわれわれの姿勢と歩調が合っている」(公明党の山口那津男代表)という国内の評価にもつなげている。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 28 日(土)付
首相国連演説―平和主義と言うのなら

 安倍首相がニューヨークでの国連総会の一般討論演説で「新たに積極的平和主義の旗をかかげる」と表明した。国連平和維持活動(PKO)に積極的に参加を図るという。
 首相の掲げた「積極的平和主義」とは何を指すのか。
 念頭にあるのが、国連の「集団安全保障」的な措置ならば、方向性は理解できる。
 その代表的なものがPKOであり、日本も90年代以降、実績を積み重ねてきた。
 国連が十分にその機能を発揮していないという現実はあるにせよ、国際貢献をさらに進める道はあるだろう。
 自衛隊が任務の幅を広げ、より積極的にPKOに参加することはあり得る。戦闘に参加しない方針を明確にしつつ、国連の承認のもと、自衛隊が中立、公平な立場で平和構築にかかわるのは意義深いことだ。
 だが首相の言う積極的平和主義は、そこにとどまるのか。
 気がかりなのは、首相が前日に米国の保守系シンクタンクで講演した際、「集団安全保障」だけでなく「集団的自衛権」にも触れながら、積極的平和主義を唱えていたことだ。
 日本にとって集団的自衛権は、主に日米同盟にかかわる概念である。国際社会が一致して取り組む集団安全保障とは性格が異なる。
 講演で首相が強調したのは、米国主導の安全保障の枠組みの中で、日本が同盟国らしい役割を果たす決意だった。
 安倍政権が集団的自衛権をめぐる憲法解釈の見直しをめざすのは、中国の軍事大国化に対応し、日米同盟の抑止力を強化する狙いがある。世界に展開する米軍と一体化した自衛隊の支援にも道を開く。さらには多国籍軍への参加も視野に入るかもしれない。
 しかし、米国主導の軍事介入に深入りすることが、はたして平和主義と呼べるのか。
 憲法9条のもと、日本は紛争への直接介入とは距離をおく平和主義を掲げてきた。その条件下で自衛隊はPKOに参加し、高い評価を得てきた。
 こうした平和主義と、集団的自衛権の行使を含めた積極的平和主義は、全く別物である。
 いま首相が平和主義という言葉を使うのは、集団的自衛権への理解を求め、憲法解釈の変更を実現するための方便のようにみえる。
 集団的自衛権の行使を容認すれば安全保障政策の大転換になる。その議論を、積極的平和主義という言葉をあいまいに使って進めるべきではない。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130928/plc13092803120001-n1.htmより、
産経新聞【主張】首相NY演説 強い対外発信を継続せよ
2013.9.28 03:12

 国連総会演説のため米ニューヨークを訪れた安倍晋三首相が、講演などで精力的に発言した。
 日本経済の秘めた力を米大リーグ投手の決め球にたとえ、中国の軍事費増大のすさまじさを指摘することで右傾化批判に反論するなど、米国民に向けた工夫もみせた。
 首相のこうした発信力を、まず評価したい。領土・領海をめぐる宣伝攻勢では、これまで中国に圧倒されてきたといえる。わが国の主張への理解を世界に広げるため、政府を挙げて対外発信の強化に取り組むべきだ。
 各国首脳が集まる国連総会の「一般討論演説」では、シリア情勢とイランの核問題が中心的なテーマとなった。
 安倍首相は演説の冒頭でシリア情勢に言及し、化学兵器の廃棄に向けて「徹底的な支持とあたう限りの協力」を表明した。
 イランのロウハニ大統領とは個別に会談し、「窓はいつまでも開いているわけではない」と、核問題解決の機会を逃さないよう強く働きかけた。国連の場で米・イランの首脳の接触はかなわず、双方に働きかけることができる日本の役割は重要になる。
 安倍首相は総会演説に先立ち、保守系シンクタンク主催の会合で講演し、「日本を積極的平和主義の国にする」として、自らの安全保障戦略を説明した。中国を名指しこそしなかったものの、「すぐそばの隣国」の軍事費は日本の2倍以上あり、毎年増大させていると警戒感を表明した。
 その上で、日本の防衛予算は11年ぶりの増額だが0・8%にとどまった点に触れ、「私を右翼の軍国主義者と呼びたいなら、どうぞそう呼んでください」と語りかけた。米紙などによる、いわれのない右傾化批判への反論だ。
 ニューヨーク証券取引所での演説では、ヤンキースのリベラ投手を引き合いに出し、「彼のカットボールのように、日本が本来持つ潜在力を発揮すれば復活できる」と、日本経済の力強い回復をアピールした。「バイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは「買い」だ)とも述べ、日本への積極的な投資を呼びかけた。
 首相の発言は国際公約となる。「積極的平和主義」や「バイ・マイ・アベノミクス」を宣伝文句に終わらせてはならないが、首相自らがその発信力で世界に存在感を示した意義は大きい。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130928/k10014874551000.htmlより、
首相「積極的平和主義」決意を発信
9月28日 0時17分

安倍総理大臣は、ニューヨークで記者会見し、国連総会で行った一般討論演説で『積極的平和主義』を掲げ世界に貢献していく決意を発信できたとしたうえで、イランとの伝統的な友好関係を生かして、核開発問題の平和的な解決に向けて積極的に取り組む考えを強調しました。
この中で安倍総理大臣は、日本時間の27日未明に、国連総会で行った一般討論演説について、「わが国の21世紀の看板とも呼ぶべき『積極的平和主義』への決意を示し、シリア問題への新たな貢献やイランの核問題の平和的解決に向けた独自の働きかけなど世界の平和と安定、そして繁栄に、よりいっそう積極的な役割を担っていく決意を発信できた」と述べ、成果を強調しました。
そのうえで、安倍総理大臣は、集団的自衛権の行使を巡る憲法解釈の見直しについて、「有識者懇談会で議論が再開されたばかりだ。どういう議論が行われ、何が課題で、何を目指しているのか、具体的な例に則して国民的な理解が進むよう努力していきたい。同時に公明党の皆さんの理解を得るための努力を進めていきたい」と述べました。
また、安倍総理大臣は、イランの核開発問題に関連し、イランのロウハニ大統領との会談で「率直な印象として、国際社会と協調しようとしているという前向きな姿勢を感じた」と述べたうえで、「今後、イランが具体的な行動で国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)し、信頼を回復していくことを強く期待している。核問題の平和的解決に向けて、日本としてもイランとの伝統的な友好関係を生かして、可能なかぎりの貢献を行っていく考えだ」と述べ、平和的な解決に向けて日本としても積極的に取り組む考えを強調しました。
さらに安倍総理大臣は、日中関係について、「最も重要な2国間関係の1つであり、さまざまな分野において切っても切れない関係と言ってもいい。アジア太平洋地域、また世界の平和と安定、繁栄にともに責任を持っている」と述べました。
そのうえで安倍総理大臣は、「沖縄県の尖閣諸島は、歴史的にも国際法的にもわが国固有の領土であり、現に有効に支配している。中国公船による領海侵入が続いており、遺憾なことだが、領土・主権で日本が妥協することはない」と述べ、領土問題は存在しないという考えを改めて示しました。
その一方で安倍総理大臣は、「戦略的互恵関係の原点に立ち戻って日中関係を発展させていきたい。何か問題があるからと言って対話のドアをすべて閉じてしまうのではなく、課題があるからこそ、首脳レベルも含めて話し合うべきだ。私の対話のドアは常にオープンであり、中国側にも同様の姿勢を期待したい」と述べ、日中首脳会談の実現に意欲を示しました。

http://mainichi.jp/select/news/20130926k0000e010151000c.htmlより、
安倍首相:「世界平和、積極的に貢献」米で講演
毎日新聞 2013年(最終更新 09月26日 07時50分)

 【ニューヨーク古本陽荘】安倍晋三首相は25日昼(日本時間26日未明)、訪問先のニューヨークのホテルで開かれる保守系シンクタンク「ハドソン研究所」主催の会合で講演する。集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更に意欲を示したうえで「世界の平和と安定に、より積極的に貢献する国になる。積極的平和主義の国にしようと決意している」と表明した。
 首相は公海上で自衛隊艦船と協力する米艦船が攻撃された場合などを例示し、「日本の艦船は能力があっても助けることができない。集団的自衛権の行使となり、違憲になってしまう」などと指摘。「(安全保障の)鎖の強度を左右する弱い一環であることなどできない」と語り、解釈変更について「真剣に検討している」と意欲をにじませる。
 中国の軍事力について「すぐそばの隣国」として名指しを避けつつも「極めて透明性がない」と批判。20年以上、2桁の国防予算増額を続けてきたことと、日本の2013年度の防衛予算の増額が前年度比で0.8%にとどまっていることを比較したうえで「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいならばどうぞ」と語った。
 さらに「日本に再び活力を与えること」を自らの「歴史的使命」と述べ、経済再生への決意をアピールする。成長戦略については「外国からの投資に日本を一層開くもの」と説明し、「皆さんの投資、知見を得て成果を上げなければならない」と協力を呼び掛けた。
 また、安倍首相は25日午後、米金融界の中心であるウォール街を訪れ、ニューヨーク証券取引所で演説。「帰国したら直ちに成長戦略の次なる矢を放つ。投資を喚起するため、大胆な減税を断行する」と明言した。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130926/k10014810571000.htmlより、
首相 「積極的平和主義」で世界に貢献
9月26日 4時59分

アメリカを訪れている安倍総理大臣は、日本時間の26日未明、保守系のシンクタンク「ハドソン研究所」が開いた会合で英語で演説し、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しに理解を求めたうえで「積極的平和主義」の立場からアメリカと連携して世界の平和と安定に貢献していく決意を示しました。
この中で安倍総理大臣は歴代の政府が憲法解釈上認められないとしてきた集団的自衛権について▽国連のPKO=平和維持活動でともに活動している別の国の軍隊が攻撃された場合や▽公海上でアメリカの艦船が攻撃された場合、自衛隊が防護できないことを例に挙げ、憲法解釈の見直しに向けた取り組みに理解を求めました。
そのうえで安倍総理大臣は「日本はアメリカが主たる役割を務める安全保障の枠組みにおいて鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない。積極的平和主義のための旗の誇らしい担い手になる」と述べ、「積極的平和主義」の立場からアメリカと連携して世界の平和と安定に貢献していく決意を示しました。
また安倍総理大臣は「日本のすぐそばに軍事支出が少なくとも日本の2倍で毎年10%以上の伸びを20年以上続けている国がある。日本は11年ぶりに防衛費を増額したが、たった0.8%に過ぎない。私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、そう呼んでいただきたいものだ」と述べ、軍事費を増大させている中国を引き合いに日本が右傾化しているという見方は当たらないという考えを強調しました。