記者の目:オバマ政権とシリア情勢 布施広氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130906k0000m070121000c.htmlより、
記者の目:オバマ政権とシリア情勢=布施広(論説室)
毎日新聞 2013年09月06日 00時35分

 ◇攻撃するなら積極関与を
 シリア情勢を眺めながらイラクのフセイン元大統領を思い出した。1990年春のことだ。宿敵イランとの戦争を押し気味に終わらせ絶頂期にあった元大統領は「化学兵器でイスラエルの半分を焼き尽くしてやる」と発言した。
 イスラエルが核で攻撃してくればという前提だが、ここから独裁者の運命は暗転する。同年夏に隣国クウェートに侵攻したイラクを米国は91年の湾岸戦争でたたきのめし、2003年のイラク戦争で元大統領を失脚させた。
 化学兵器に言及したから元大統領は消されたのだとは言わないが、脅威がイスラエルに向けられる時、同盟国の米国は容赦しない。オバマ米大統領がシリア攻撃を言い出したのは、イスラエルに「貧者の核兵器」(化学兵器)が使われる恐れを否定できなくなったのが一因だろう。
 もう一人思い出した。「強い米国」を掲げたレーガン元大統領だ。シリアとイスラエルにはさまれたレバノンで83年、米海兵隊司令部などが爆破され約300人の兵士が死亡した時、レーガン氏は同国撤退を決断した。イスラエルへの配慮もあり「しっぽを巻いて逃げるのは嫌だ」と思ったが、少年たちが喜んで「殉教」する「中東政治の非合理性(irrationality)」を考慮したと自伝に書いている。

 ◇米国の強さと美徳 過信すると傲慢に
 今のオバマ大統領にも共通する心境だろう。世界一の軍事大国として、人権重視の国として、アサド政権の化学兵器使用は見過ごせないが、攻撃が逆効果になってはと迷い続けているだろう。
 オバマ氏が敬愛する学者としてよく紹介されるラインホールド・ニーバーは、古代国家の消長を踏まえて米国の特質を分析する。強さと美徳をあわせ持つ米国は、時にその二つを過信し傲慢になって道を誤りかねない。つまり二つの長所は皮肉なことに、米国に内在する二重の危険性でもあるというのだ(「アメリカ史のアイロニー」)。
 「米国の力を世界の変革に使え」とイラク戦争を鼓舞したネオコン(新保守主義派)にはあまり見られない謙虚さと思慮深さである。思うにオバマ氏の中東対応が時に歯がゆいほど慎重なのは、米国に内在する「二重の危険性」を認識しているからだろう。
 そう前置きしたうえで大統領に申し上げたい。迷うようならシリア攻撃はおやめなさい。威信にこだわるべきではありません。その代わり、シリアやパレスチナの問題も含めて、中東への政治的関与を強めてはいかがですか、と。

 ◇泥かぶる覚悟で中東和平実現を
http://mainichi.jp/opinion/news/20130906k0000m070121000c2.htmlより、
 私はオバマ大統領の聡明(そうめい)さと倫理観を疑わないが、こと中東に関しては「不作為と不決断の間を逍遥(しょうよう)している」と思ってきた。軍隊用語で「無断離隊者」(AWOL)と皮肉られるほど軍事行動に消極的だったオバマ氏の“ひょう変”には、多くの米国民が戸惑っているだろう。
 また大統領は09年、米国とイスラム世界の融和をめざす感動的な演説をしたが、理念実現に奮闘したとは言いがたい。中東和平の仲介もケリー国務長官に任せている。イスラエルとパレスチナの指導者を別荘に呼び、膝詰めで長期会談をしたクリントン元大統領のように泥をかぶる姿勢が見られないのは残念だ。
 米国の中東離れもあるだろう。政治学者のA・ベースビッチ氏のように、東西冷戦期(47〜89年)は米国にとって第三次世界大戦、同時多発テロが起きた01年以降は第四次大戦と分類する米国人もいるし(「米国の新ミリタリズム」)、ブッシュ前大統領は「テロとの戦争」(Waronterror)と言った。日本には「テロとの戦い」と穏やかに翻訳する人もいるが、米国はまさに「大戦」を戦って疲れ果て、今は中東への嫌悪感にひたっているように見える。
 思えばイラクの首都に星条旗を立てたブッシュ政権の「アラブの中心地から民主化」というもくろみは外れ、米国の価値観はなかなかイスラム圏に浸透しない。逆に反米主義が高まって米兵が命を落とし、テロも続くという中東の「非合理性」を米国は克服することができないのだから。
 だが、中東への関与をやめては困る。オバマ大統領の任期は3年以上ある。中東和平はオバマ氏が頑張らなくて誰がやるのか。信じるところを実行し、中東の状況を改善してほしい。シリアを攻撃するならなおさらだ。1度の限定攻撃で劇的な変化は見られまい。長期的な関与が必要だ。人道上許されないから軍事力で懲罰し、後は知らないというのでは、ニーバーの言う「強さ」と「美徳」のワナに落ち込むことになりはしないか。

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