シリア問題 「全面停戦への道を探れ」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013091802000141.htmlより、
東京新聞【社説】シリア条約加盟 内戦停止へつなげたい
2013年9月18日

 シリアの化学兵器禁止条約への加盟は、外交の成果であり、シリア政府は約束通り、毒ガス廃棄を誠実に履行せねばならない。国際社会は、これを機に内戦の停止へとさらに圧力をかけるべきだ。
 今月初旬、ロシアのラブロフ外相が「シリア政府に保有化学兵器を国際管理下に置くように提案した」と発表した時、それがうまくゆくと考えた人はたぶんいなかっただろう。
 だが直後の国連事務総長の賛意、さらに米国の、こぶしを振り上げつつの同意によって事態は急進展した。
 米ロのつくった合意は、こうだ。両国は化学兵器禁止機関(OPCW)に対し、シリアの化学兵器の速やかな廃棄と厳密な検証に向けた原案を提出。その執行を進める国連安保理決議を経て、十一月までに現地査察を終え、毒ガスと生産設備の廃棄を来年半ばまでに完了する。
 理想に過ぎるかもしれないが、やらねばなるまい。
 そのためには、米ロ合意にもあるように、シリアが化学兵器の名称、種類、量、保管場所・状況、また製造機関の所在など一切を出さねばならない。
 それができなければ、アサド政権は武力行使逃れのために時間稼ぎをしたと非難されるのはもちろん、これまで以上の国際不信にさらされるに違いない。そうなれば保証人たるロシアはメンツを失うし、米国は再びこぶしを振り上げよう。
 綱渡りのような過程には、やはり米ロなどの圧力が必要だ。
 シリアの内戦とは、政府側が生き残るか、それとも反政府勢力が生き残るか、というまさに死闘である。
 しかも政府側にも反政府側にも武器弾薬は外部から供給されている。米ロも絡む、いわば代理戦争である。しかし、もし代理戦争であるならば、外から戦争を終わらせることも可能なはずである。
 二年を超す内戦ではそれぞれの支配地域がはっきりしてきた。遅すぎただろうが、それは休戦、停戦の時期が近づいたことを意味してもいる。
 シリア情勢は国内、国外とも複雑である。根深い宗派の対立や、またアルカイダ系の武装組織が入り込んでもいる。
 だが、今もっとも必要なのは市民の犠牲を増やさないことだ。国際的な停戦協議が必要なことは言うまでもないし、今こそ国際的圧力を有効に働かせるべきである。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130917/erp13091703170002-n1.htmより、
産経新聞【主張】化学兵器合意 ロシアは履行に責任持て
2013.9.17 03:16 (1/2ページ)

 米露がシリアの化学兵器全廃を目指す枠組みで合意した。シリアに完全履行させるには、非協力や妨害を許さない国際圧力が不可欠である。
 とりわけ重要なのは、ロシアのプーチン大統領がアサド政権の後ろ盾として、そして今回の合意のそもそもの発案者として、その実現に責任ある行動を取ることだ。
 合意を裏打ちする強力な国連安保理決議の採択を主導するなど、合意がシリアをかばう弥縫(びほう)策でなかったことを見せてほしい。
 もしも、合意通りに1000トン以上とみられる化学兵器を10カ月足らずで廃棄できれば、軍備管理史上、画期的な成果となる。
 実際、1997年発効の化学兵器禁止条約は保有国に原則10年以内の廃棄を求めているのに、大量に持っていた米露両加盟国はなお作業を終えていない。
 だが、シリアでは悠長であってはならない。全廃機運があるうちに決するスピードが勝負だ。
 近く調査のため専門家が現地に派遣される。シリアによる早々の条約加盟も前向きな一歩だ。
 ただし、化学兵器が隠匿されたり査察が妨げられたりすることも想定しておくべきだ。内戦下の査察や廃棄は危険を伴う。護衛の外国部隊が必要となった場合には、政権側の抵抗もあり得る。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130917/erp13091703170002-n2.htmより、
2013.9.17 03:16 (2/2ページ)
 アサド政権に有無を言わせないためにも、強い安保理決議が必要だ。速やかに全会一致かそれに近い形で採択し、国際社会の総意として突きつけるべきだ。
 米露は決議に、平和を脅かす行為への措置を定めた「国連憲章7章に基づく」との文言を含めることで合意した。ロシアは「軍事行動に関するものではない」と言うが、含みを持たせたものだとの認識を米国と共有すべきだ。
 オバマ米大統領は「外交努力が失敗すれば、行動の用意がある」との声明を出した。当然である。米国は、合意不履行などに備え武力行使の構えを崩してはならないと重ねて強調しておきたい。
 米露両外相は、シリアに関する国際会議の準備のため、今月末に再び会談することを決めた。
 化学兵器廃棄が実現したとしても、惨劇は終わらない。近隣諸国も巻き込んだ宗派戦争の様相を強めるシリア内戦は、交渉で停戦させるほかない。廃棄への取り組みが、和平達成への糸口となるよう米露は努力してもらいたい。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59774450W3A910C1PE8000/より、
日経新聞 社説 米ロ合意をシリアの内戦終結につなげよ
2013/9/16付

 米国のケリー国務長官と、ロシアのラブロフ外相が、シリアが保有する化学兵器を廃棄する枠組みで合意した。化学兵器を国際管理下に置き、2014年前半までにすべて廃棄する。
 米国による軍事介入はひとまず回避された。米ロが土壇場で歩み寄り、外交による打開策を見いだしたことは評価したい。国際社会が結束し、アサド政権に合意を確実に履行させることが重要だ。
 アサド政権は1000トン以上の化学兵器を、分散させて持っているとされる。廃棄は政権が正しく情報を申告し、査察に協力することが前提となる。そのためには、合意の履行を義務付ける国連安全保障理事会の決議が欠かせない。
 加えて、内戦下での作業は困難が伴う。関連施設は必ずしも安全な場所にあるとは限らない。査察要員をどう守るのか。化学兵器を安全な場所までどう運び出し、破壊するのか。検討しなければならないことは多い。
 今回の合意がアサド政権の延命を助ける結果になってはいけない。シリアの内戦では10万人以上が死亡し、200万人以上が国を逃れた。軍事介入が回避されたとしても、内戦が続く状況は変わらない。弾圧を続けるアサド政権が責任を免れるわけではない。
 急がなければならないのは、惨状に終止符を打つことである。シリア情勢がここまで混迷したのは、国際社会の足並みがそろわず、有効な手を打ててこなかったためだ。米ロは今回の歩み寄りを、内戦の終結へとつなげてほしい。
 米ロ合意は「世界の警察」を任じてきた米国の影響力の低下を、際立たせる結果にもなった。
 オバマ大統領がいったん軍事介入を決断したのは、アサド政権が化学兵器を使ったことが理由だったはずだ。ところが、いつの間にか争点は化学兵器廃棄にすり替わり、米ロ合意でも使用問題は事実上、不問に付されてる。
 新たな戦争が避けられたのは喜ばしい。ただ、優柔不断なオバマ政権の態度は、長い目で見れば世界の安定を脅かす危うさもはらんでいる。
 世界の安全保障は米国の影響力に頼るところが少なくない。アジア太平洋でも北朝鮮は核とミサイルの開発をやめず、中国は軍拡を加速している。シリア危機をめぐるオバマ政権の迷走によって、アジアなどでも混乱が増すことはあってはならない。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 12 日(木)付
シリア問題―全面停戦への道を探れ

 化学兵器疑惑の渦中にある中東のシリアをめぐり、国際的な取り組みが加速している。
 アサド政権が保有している化学兵器を、国際管理のもとに置く。こうした新構想をロシアが示し、シリアは受け入れた。
 これで米国による空爆は、当面先送りされる。大国の性急な軍事行動の余波を心配していた国際社会にとっては、かすかな希望の光が差したといえる。
 だが、アサド政権の出方と、米ロなどの動き次第で、シリア情勢の火だねはいつでも再燃しかねない。
 そもそもシリアの化学兵器を本当に管理下に置けるのか。これまで保有を公式に認めてもいないアサド政権が正直に申告するのか。疑念は尽きない。
 国連安全保障理事会では新たな駆け引きが始まった。シリアが従わない場合の制裁を明示した決議を米国やフランスはめざし、ロシアが抵抗している。
 この2年半、シリア問題に行動を起こせずにきた安保理が初めて機能不全から脱することができるのか。外交的解決を図る最初の関門はそこにある。
 米欧は、人道介入の必要性を訴えて安保理の結束を求めてきた。一方のロシアと中国は、国家主権の尊重を唱え、内政干渉を嫌う主張を続けてきた。
 21世紀の世界の危機管理をめぐる根源的な確執であり、シリア問題の行く末は国連外交の重要な先例となろう。
 いま再び集中論議の舞台となる安保理は今度こそ、足並みをそろえて危機に立ち向かう有効策を編み出さねばならない。
 米国務長官とロシア外相がきょう、ジュネーブで会うほか、米英仏も協議を急ぐ。
 オバマ米大統領はこうした外交調整のかたわら、空爆に踏み切る態勢はゆるめず、圧力をかけ続ける構えを示している。緊迫の度合いは変わっていない。
 当事者のアサド政権は、有言実行するほかない。化学兵器の保管場所を完全公開し、国際監視のもとで放棄すべきだ。時間稼ぎや妨害は許されない。
 忘れてはならないのは、化学兵器がどう使われたかという問題以前に、果てしない内戦で、すでに10万人が殺され、200万人が家を追われ、今も戦火が続いていることである。
 「今世紀の最大の惨劇」(国連難民高等弁務官)といわれながら、シリアの難民たちは「世界は私たちを見捨てた」と訴え続けてきたのだ。
 いまやっと盛り上がった機運を逃すことなく、国際社会は全面的な停戦実現への道こそを模索すべきだろう。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130912/mds13091203240001-n1.htmより、
産経新聞【主張】シリアの化学兵器 武力行使圧力を緩めるな
2013.9.12 03:24

 シリアのアサド政権が化学兵器攻撃を行ったとされる問題への対応は、同国化学兵器を国際管理下に置いて解体するとのロシア提案を軸に当面、動くことになった。
 国際社会は、管理、解体に加えて化学兵器禁止条約加盟をも受け入れるとしたアサド政権の表明を、単なる口約束や、米国などによる懲罰攻撃を回避する時間稼ぎにさせてはならない。
 政権が一連の条件を受諾し化学兵器の保管場所を正直に申告することや、それを査察し破壊する専門家チームを派遣することなどをうたう国連安保理決議を、速やかに採択しなければならない。
 米国などは、ロシアやアサド政権に姿勢転換を促した懲罰攻撃への態勢を維持し、軍事圧力を継続することで、政権側を化学兵器放棄へ追い込んでいくべきだ。
 オバマ米大統領は10日の国民向け演説で、「武力を行使することなく、化学兵器の脅威を除去し得る潜在的可能性がある」と、ロシア提案に一定の評価を与え、それに沿って外交交渉を進めるべく、議会に武力行使容認決議案の採決も延期するよう要請した。
 この構想でシリアから化学兵器が一掃されれば、内戦の混乱下で化学兵器が反政府勢力の一角を占める国際テロ組織、アルカーイダ系の組織の手に落ちてしまったらという悪夢は避けられる。
 そして、化学兵器を含む大量破壊兵器は絶対に使ってはならないとの国際規範が何とか守られる長期的な意義は大きい。
 だが、構想の具体化は困難で長い過程となる。シリアは大量の化学兵器を数十カ所に分散配置し、しかも移動させているという。政権側の申告に従って、それらの所在を確認し、危険な兵器を焼却などして破壊する必要がある。
 そんな膨大な作業は内戦下では容易ではなかろう。政権側や反政府側の妨害も懸念される。
 こうした障害を取り除くためにも、安保理決議は専門家チームに強い権限を与え、国際社会の支援態勢を整える必要がある。
 そのプロセスへの国際社会の関与を停戦交渉へつなげてほしい。アサド政権の後ろ盾のロシアに求められるのは説得役である。
 安倍晋三首相は、ロシア提案を前向きと評価し支持を示した。化学兵器放棄や、内戦終結への外交努力なら、日本にできることもそれなりにあるはずだ。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59602320S3A910C1EA1000/より、
日経新聞 社説 シリアの危機打開へこの機を逃すな
2013/9/12付

 米国によるシリアへの軍事介入が回避される可能性が出てきた。オバマ米大統領は国民向けの演説で、シリアの化学兵器を国際監視下に置いて廃棄するというロシアの提案を評価し、外交努力を優先する方針を表明した。
 米ロの歩み寄りを歓迎したい。国際社会はこの機を逃さず、提案を実行に移さなければならない。
 米国はシリアのアサド政権が化学兵器を使ったと断定し、軍事介入の準備を進めてきた。これに対し、ロシアは国連安全保障理事会の決議なしでの攻撃に反対し、国際社会の亀裂は深まっていた。
 軍事介入を主導してきたオバマ大統領の方針転換は指導力を問われる事態になりかねない。しかし、米国内でも介入への反対論は根強い。米議会での武力行使の承認手続きも行方が見通せない。
 攻撃にシリアが反撃すれば、混乱が周辺地域に拡大する懸念もある。オバマ大統領がロシアの提案を、「武力を使わずに化学兵器の脅威をなくす可能性を秘める」と評価したのは妥当だ。
 問題は実効性だ。シリアのムアレム外相は提案受け入れを表明し、「化学兵器を全廃する」と述べた。化学兵器の保有を認めてこなかったシリアが一転、国際管理の受け入れを認めたのは前進だ。
 ただし、攻撃を回避するための方便に使わせてはならない。国際社会が迅速に動く必要がある。誰がどのように管理や廃棄にあたるのか、国際的な枠組みを早急に整えなければならない。
 化学兵器の保有量や製造・保管施設を正しく公表し、確実に引き渡すよう国連安保理決議で定めることが大切だ。化学兵器禁止条約への加盟も求める必要がある。
 シリア情勢をめぐる安保理決議はアサド政権寄りのロシアや中国が拒否権を行使し、一度も採択されていない。ようやく見えてきた危機打開のチャンスである。常任理事国には駆け引きを繰り返す余裕はない。
 アサド政権による化学兵器の使用を封じることは重要だ。今回の軍事介入の動きは、化学兵器でシリアの多数の市民が死亡したとされる事件がきっかけだ。経緯を調べ、責任を問うことも忘れてはならない。
 シリアの内戦では10万人が死亡し、200万人が難民となった。軍事介入が回避できても、内戦が続く状況は変わらない。その終結こそが国際社会の役目である。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130912k0000m070129000c.htmlより、
社説:シリア情勢 米露協調で打開めざせ
毎日新聞 2013年(最終更新 09月12日 02時32分)

 軍事行動の足音は当面遠のいたようだ。ロシアがシリア・アサド政権の化学兵器を国際管理下で廃棄することを提案し、米国が原則的に受け入れたためだ。オバマ大統領は10日(日本時間11日)の演説で、シリア攻撃の是非を審議している米議会に対し外交交渉中は採決しないよう求めたことを明らかにした。
 とりあえずは朗報である。オバマ大統領によると、アサド政権は化学兵器の保有を公式に認め、今まで参加していなかった化学兵器禁止条約に署名するという。アサド政権は首都ダマスカス近郊で先月21日に使われたという化学兵器への関与は否定しつつ、友好国ロシアの顔を立てて一定の柔軟姿勢を示したのだろう。
 米露の協力を歓迎したい。ロシアと中国はこれまで、シリアに関する国連安保理決議案に拒否権を行使し続けた。プーチン露大統領は米国が国連決議なしに攻撃すれば「シリアを支援する」と明言した。このため米露の軍事衝突さえ懸念されていたが、一転して米露は共同作業の局面に入ったわけだ。
 旧ソ連の衛星国家ともいわれたシリアは歴史的にロシアとの関係が深い。ロシアはシリアへの大口武器供給国であり、地中海に面した同国の港を軍港に使っている。本来ならロシアこそシリア情勢の改善に努めるべきなのに、米国の武力行使の瀬戸際に来てやっと重い腰を上げた印象がある。米露は化学兵器の問題を突破口として協調の分野を広げ、シリアの惨状を改善してほしい。
 同国の人道危機は想像を絶するほど深刻に広がっている。人口2000万人強の国で内戦の死者が11万人に達し、人口の1割に当たる200万人が難民と化している現状は放置できない。人道危機の解決こそ最大の課題だ。アサド政権と反体制派が参加する国際会議構想は宙に浮いたままだが、米露は構想実現に今一度努力してもよかろう。
 対処すべき問題は多い。化学兵器をめぐる安保理決議についてロシアと米英仏の意見対立もあるし、12日の米露外相会談の行方も予断を許さない。どう内戦を終わらせるかという青写真も描けていない。
 オバマ外交の試金石だろう。米国の世論調査ではシリア攻撃への反対が賛成を上回る。上下両院とも軍事行動の承認は容易ではない。見方によっては、「伝家の宝刀」(武力行使)に手をかけたまま動けないオバマ大統領にロシアが「助け舟」を出したともいえる。この機会を生かしオバマ政権は当面、外交解決に全力を挙げるべきだ。
 無論、米露だけの問題ではない。どうすればシリア危機を解決できるのか。もう一度、国際社会が懸命に知恵を絞る時でもあるはずだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130912ddm003030110000c.htmlより、
クローズアップ2013:米、対シリア迷走極め 攻撃回避に方針転換
毎日新聞 2013年09月12日 東京朝刊

 オバマ米大統領は10日、化学兵器使用を理由にシリアのアサド政権を軍事攻撃する方針を一転させ、国連を通じた事態打開を目指す意向を打ち出した。米世論・議会で攻撃反対が強まる中、外交決着に望みをつないだが、その迷走ぶりは、10万人超が死亡したシリア内戦に対する総合的戦略の欠如を際立たせた。一方、アサド政権はロシアの支援で「化学兵器全廃」を約束し当面の攻撃を回避、国際社会も歓迎するが、廃棄の実効性には疑問も根強く「時間稼ぎに過ぎない」との指摘も出ている。

 ◇「外交解決」も不透明
 「軍事圧力は維持するが、外交解決が圧倒的に望ましい」。オバマ大統領は10日のテレビ演説で、シリア問題への対処における「外交優先」への転換を明言。ロシアが9日に提案した国際管理下でのアサド政権の化学兵器廃棄案を受け、その実現に必要な国連安全保障理事会の決議採択を目指すと表明した。
 オバマ大統領によると、アサド政権の化学兵器を国際管理下に置く構想は、6日にロシアのプーチン大統領との会談で検討した。ケリー国務長官は10日、米露首脳会談を受けロシアのラブロフ外相と協議を深めたと証言。オバマ政権が当面の攻撃回避に向け水面下の外交も進めてきた実態が浮き彫りになった。
 オバマ政権による今回の攻撃計画は、8月21日にシリアの首都ダマスカス郊外で発生した化学兵器によると見られる攻撃を受け浮上。「数百人の子どもを含む1000人以上」(オバマ大統領)が死亡した悲惨な事件だが、米国の対応は当初からぶれ続けた。
 発生直後はオバマ大統領も攻撃には慎重姿勢で23日には「国連の付託なしに攻撃すれば国際法の支持を得られるのかという疑問が生まれる」と発言した。
 だが最大の同盟国・英国やフランスが「アサド政権の犯行」と断定、米国も追従し、8月下旬には急速にシリア攻撃論が強まった。
 しかし、8月29日、大誤算が生じる。英下院が攻撃参加を拒否したのだ。オバマ政権は英国の軍事支援を失った。米国内でも「化学兵器使用が防げるのか」「反体制派内のイスラム過激派勢力を利する」といった攻撃懐疑論、反対論が噴出。このためオバマ大統領は8月31日、攻撃の議会承認を求める異例の方針を表明した。
 しかし、逆風はやまなかった。各種世論調査では米国民の過半数が攻撃反対。上院外交委員会は4日に攻撃承認決議案を採択したが、来年に全議員が選挙を控え世論動向により敏感な下院では6日段階で「通過は困難」(米メディア)だった。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130912ddm003030110000c2.htmlより、
 今後、オバマ政権は安保理を通じてシリアの化学兵器の完全廃棄を目指す。1990年代にイラク・フセイン政権(当時)が大量破壊兵器の査察を妨害した経験から「迅速で検証可能な措置」(ケリー長官)を取るため、査察義務不履行時などの武力行使を容認する安保理決議の獲得を模索する。だが、アサド政権の化学兵器使用すら認めないロシアの反発は必至。オバマ大統領が「まひ状態」と再三切り捨てた安保理で事態打開の保証はない。
 オバマ政権の内幕に詳しい米紙ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者は「大統領はシリアに関して何の計画もない」と酷評。同紙は10日(電子版)の社説で「オバマ氏はシリアと中東地域に関する一貫した政策を明示する必要がある」と訴えた。【ワシントン白戸圭一】

 ◇化学兵器の廃棄、道険しく
 「一極集中主義に対するロシアや中国の勝利が、より公正で繁栄した世界につながる」。国営シリア・アラブ通信によると、シリアのハルキ首相は10日の閣議で米国主導の国際社会に疑問を呈し、露中の役割に期待感を表明。シリアの化学兵器を国際管理し全廃するロシア案にも「戦争の脅威を除くために協力する」と強調した。ロシアとの共闘で、間近に迫っていたと見られた米国などの攻撃を当面回避できたことへの「感謝」の表明ともとれる発言だ。
 アサド政権は旧ソ連時代から武器の輸入などでロシアと関係を築いてきた。2011年3月に民主化要求運動を武力弾圧し、紛争が内戦化して国際社会の批判の矢面に立ってからも、外交、軍事、経済面などで支援を受ける頼れる後ろ盾だ。国連安保理ではシリアに関する決議案が、常任理事国である露中の拒否権行使によって3度否決されている。
 アサド政権は10日に化学兵器全廃案を急きょ受け入れたが、その背景には、ロシアの後押しとともに、戦局が米国などの攻撃で一変し、反体制派の攻勢で政権中枢が脅かされるとの切迫感があったと見られる。
 元エジプト陸将で共和国政治安全保障研究所のサメフ・エルヤザル所長は「周辺海域に展開する米海軍の規模から攻撃が大規模化するのを予想し、政権存続のために妥協を急いだ」と指摘する。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130912ddm003030110000c3.htmlより、
 ただシリア全土では200万人以上の難民、400万人超の避難民を生んだ激しい戦闘が続いており、化学兵器を廃棄する手続きは難航が予想される。仏情報機関やNGO「核脅威イニシアチブ」の推定によると、アサド政権が保有するサリンやVXガスなど化学兵器の保有量は1000トンを超える。生産や保管などの関連施設は少なくとも10カ所あるとされるが、不透明な部分も多い。核兵器とは違って製造も比較的容易で、仮に廃棄しても将来的に再び製造を始める可能性もある。
 反体制派主要組織「シリア国民連合」幹部のアフマド・ラマダン氏は「化学兵器の一部は引き渡すかもしれないが、隠蔽(いんぺい)や時間稼ぎをする恐れがある」と指摘している。【カイロ秋山信一】

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