原発稼動ゼロ 「原発依存に逆戻りできない」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130916/trd13091603170003-n1.htmより、
産経新聞【主張】稼働原発ゼロ 長期化回避へ国は決意を
2013.9.16 03:17
またもや「原発ゼロ」である。国内の50基中、唯一稼働していた関西電力の大飯原発4号機が、発電を停止して定期検査に入った。
稼働原発ゼロ状態は、昨年5月に北海道電力の泊原発3号機が定期検査で止まった後、7月に大飯原発3号機が再稼働するまでの2カ月間に続く再来である。国家レベルの異常事態としての認識が必要だ。
2年半前の東日本大震災で、定期検査を終えても再稼働ができない原発が増え続け、政権が民主党から変わった後も、その流れを改めることができないまま現在の状況に立ち至った。
福島事故を受けて原発全廃を宣言したドイツでさえ約半数の9基が稼働している。日本は、近隣国からの電力供給を受けられない。ドイツに比べてエネルギー資源も極めて乏しい。原発ゼロ状態はエネルギー安全保障上も非常に危うい状態だ。
今回の原発ゼロは前回より長引くだろう。7月に施行された原発の新規制基準に照らしての安全審査が、四国電力の伊方原発3号機や九州電力の川内原発1、2号機などで始まっているが、原子力規制委員会の承認が得られても、再稼働には地元の同意が必要だ。
原発の長期停止は、さまざまな問題を引き起こす。その一例が、海外に支払われている火力発電の燃料代だ。年間約4兆円は、消費税率1・5%引き上げに相当する巨費である。国富の流出は、日本の成長戦略を脅かす。
原発停止に対する国民の感覚まひもまた危うい。社会の機能を損なう大停電が起きていないのは、各電力会社が懸命に火力発電を続けている結果だが、設備の耐久力も限界に近い。火力に依存した電力供給の綱渡りだ。その綱もいつ切れるか分からない。
火力依存で、二酸化炭素の排出量も増えている。原発事故から3年目に入ってもこのありさまでは、世界の同情も薄れ、批判の声も起き始めよう。
稼働原発ゼロ状態に、一日も早く終止符を打たねばならない。そのためには原子力規制委の意識改革が必要だ。運転しながらの安全確認も可能なはずだ。
それにもまして国の決意が重要だ。安倍晋三首相は、日本における原発の必要性を国民に丁寧に説明すべきである。エネルギーに事欠く国に発展はあり得ない。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130914k0000m070114000c.htmlより、
社説:原発ゼロ再び エネルギー改革全力で
毎日新聞 2013年09月14日 02時30分
関西電力の大飯原発4号機(福井県)が15日に定期検査で停止し、日本で稼働中の原発が再びゼロになる。前回ゼロになったのは、2012年5〜7月。それから1年以上を経て感じるのは、国のエネルギー政策の見通しが、いまだにはっきりしないもどかしさだ。
汚染水問題をみれば原発事故は収束から程遠い。優先すべきは原発再稼働より福島対応であることは明らかだ。それを認識した上で、2度目の原発稼働ゼロを、日本のエネルギー政策を改めて考え、抜本的な改革を全力で進めるきっかけにしたい。
◇まず脱依存の目標を
私たちはこれまで、なるべく早い時期に恒久的な原発ゼロを実現しようと主張してきた。地震国の日本で原発を動かすことのリスクがあまりに大きいと考えるからだ。
ひとたび原発事故が起きれば、これほどの災害に見舞われる。汚染水対策や除染の問題、家や仕事、農地を奪われた人々の実情を見れば、事故のコストは容認できない大きさだ。原発を動かせば必ず増えていく核のゴミの最終処分のめどもまったく立っていない。このまま原発を動かし続ける選択は、将来世代にツケを回すことにほかならない。
このところ原発が2基しか動いていなかったことを思えば、原発なしでは電力が足りないとの指摘には説得力がない。一方で、再生可能エネルギーの育成には時間がかかり、この間、火力発電のたき増しは避けられない。これが燃料費の負担増大につながり、経済を圧迫するとの懸念を払拭(ふっしょく)するのは難しい。火力発電による二酸化炭素の排出増加にも無関心ではいられない。
こうしたことから、一定の期間、限られた原発を動かさざるを得ない状況はあるだろう。しかし、その場合も、原子力規制委員会の安全審査をよりどころに、漫然と原発を再稼働していくのでは、エネルギー改革を進めることはできない。
安倍晋三首相は原発再稼働に意欲を見せる一方で、2020年夏季五輪の東京開催決定を受けた記者会見では「原子力比率を引き下げる」「今後3年程度の間に再生可能エネルギー普及と省エネルギー推進を最大限加速させる」と表明している。
その実現に大事なのが、中期的なエネルギー政策の方針を示す政府の「エネルギー基本計画」だ。ところが、年末までに策定する計画には全電源に占める原発比率などの数値目標は盛り込まれない見通しだ。
自民党は電源構成の目標を「10年以内に確立する」とし、茂木敏充経済産業相は「7年後」という意向を示している。原発の再稼働や再生エネ導入の行方を見てから決めるというが、先に目標を決めるべきだ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130914k0000m070114000c2.htmlより、
首相の発言通り再生エネの導入を最大限加速するには、そのコストの引き下げや、安定性を増すための蓄電技術の開発、電力需要を平準化するためのシステム開発などに官民で取り組む必要がある。しかし、政府の原発政策が定まらなければ、民間は設備投資などをためらうだろう。需要があやふやでは、リスクが大きいからだ。それでは大きな進展は期待できない。
小泉純一郎元首相も、「今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しい。総理が決断すればできる」と毎日新聞の取材に語っているが、その通りではないか。
◇「乾いた雑巾」は誤りだ
実際、具体的目標が決まらないことの弊害は表れている。再生エネの成長を促す「固定価格買い取り制度」が始まって1年になるが、将来の主力電源と期待される風力発電の導入が進まない。環境影響評価(アセスメント)に時間がかかることや、農地法の規制で風車が建てにくいといった要因が背景にある。電力会社も導入に消極的だ。目標を決め、官民が本気で取り組む姿勢がはっきりすれば、合理的な規制緩和や送電網の整備が進むのではないか。
省エネも政策次第でさらに進められる。今夏の日本は1898年以降で4位の暑さだったが、東京都の集計によれば、東京電力管内の日々のピーク電力の平均値(7〜8月)は2010年比で約17%減り、11年、12年と同水準の削減が継続した。照明の照度を落としたりLEDへ転換したりするなど、無理のない節電・省エネが定着したと考えられる。
都は10年度から、大規模なオフィスビルや工場に温室効果ガスの排出総量削減を義務づけ、排出量取引制度を導入した。都内の年間電力消費量は11年度、12年度ともに10年度比で1割削減された。省エネが進んだ日本は「乾いた雑巾」で、もう絞れないという考え方は誤っている。
ビルの断熱性能を高める、ピーク時間帯の電気料金を高くして需要削減を図るなど、まだ打てる対策は多い。エネルギー消費量を減らしつつ、経済発展や生活の質の向上を図ることは十分に可能だ。
福島の原発事故から2年半。多くの人が原発に依存した社会に危機感を抱き、それまでとは違う暮らし方を模索してきた。原発稼働が再びゼロになるのをきっかけに原点に立ち返り、私たち一人一人が原発に頼らない社会を思い描き、その実現に向けて行動する時ではないか。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130914ddn003040027000c.htmlより、
クローズアップ2013:原発なき冬、現実味 福井・大飯4号機あす停止 再稼働時期、見通せず
毎日新聞 2013年09月14日 大阪朝刊
関西電力大飯原発4号機(福井県おおい町)の運転停止で15日、日本は再び「稼働原発ゼロ」になる。電力各社は原発再稼働を目指すが、安全審査のハードルは低くない。関電管内は東日本大震災後、初めて原発ゼロの冬を迎える可能性がある。厳しい電力需給の中、電気料金の再値上げも現実味を帯びている。【江口一、岡田英、鈴木一也】
「事前確認はあくまで事前確認。ゼロからのスタートだ」。17日に再開される大飯原発の安全審査。原子力規制委員会の姿勢を、関係者はこう明かした。
大飯3、4号機は7月の規制基準施行前から稼働していたため、規制委が重要項目に絞った法定外の「事前確認」を4月から実施。7月に「安全上重要な問題はない」として定期検査までの稼働を認められた。
こうした経緯から「再稼働の安全審査は短時間ですむ」との臆測もあったが、規制委の関係者は「一つずつ手順を踏む。省略はしない」と強調する。
今後の審査では「地下構造の把握」が大きな問題になりそうだ。
原発の規制基準は、地震・津波対策強化のため、敷地内の「未知の地下構造」をあぶり出す調査を義務付けた。関電は、大飯原発の敷地内の地震記録が不足していたため、同じ若狭湾沿岸の高速増殖原型炉「もんじゅ」の調査結果を利用したが、規制委から批判された経緯がある。改めて調査中の関電が規制委を納得させる結果を示せるか、注目される。
また原発周辺には、非常用取水路を横切り、「活断層でない」と判断されたF−6破砕帯とは別に三つの活断層があり、その3連動を前提とした耐震評価も精査が必要だ。
規制委の田中俊一委員長は「クリアすべき課題はたくさんある」と話す。
他原発の安全審査が本格化し、スケジュールが過密になっており、再稼働の時期は見通せないのが現実だ。
◇供給減必至、鍵は節電 規制委「ゼロから安全審査」
東日本大震災後初めて原発ゼロの冬を迎える公算が大きい関電管内は厳しい電力需給が見込まれる。関電は火力発電や他の大手電力からの受け入れを増やして乗り切ろうとするが、燃料費の増加で収益悪化は不可避。数値目標付きの節電要請も視野に入ってくる。
「大飯がなければ大変なことになっていた」。関電の八木誠社長は13日、東京都内の記者会見で今夏の需給を振り返った。冬のピーク時の需要は夏に比べて1、2割程度低いが、昨冬も大飯2基が稼働していたため、最大需要(2432万キロワット)を記録した日も供給力は2656万キロワットで224万キロワットの余裕があった。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130914ddn003040027000c2.htmlより、
今冬は、大飯2基分の出力(計236万キロワット)がなければ、原発の余剰電力で夜間にくみ上げた水を昼間に放流し発電する揚水発電分も減る。関電は以前、大飯2基の停止で揚水が約200万キロワット減ると試算していたが、他社からの電力受け入れを増やすことはできる。それでも「供給力が昨冬より減るのは確実」(同社幹部)という。
鍵を握るのは節電だ。昨冬は余裕があるとして数値目標付き節電を見送ったが、2010年比約6%の節電を達成。今夏も数値目標なしで約10%節電できたが、需要抑制をより強く訴えるため2年ぶりに数値目標を設ける可能性もある。
寒さがピークとなる来年2月までに原発再稼働が期待できる四電や九電から電力を購入すれば、費用増で業績の悪化は避けられず、電気料金の再値上げも現実味を帯びてくる。関西経済連合会の角和夫副会長(阪急阪神ホールディングス社長)は「(再値上げされると)中小企業をはじめ、多くの企業が大変な事態になる」と警戒する。
◇使用率96%記録
関西電力管内の13日の電力使用率(供給力に対する需要の割合)は、午後2時台に96%を記録した。想定以上に気温が上昇し、冷房需要が増えたためとみられる。使用率96%は、7月1日からの政府の節電要請期間中では8月22日に続き2度目の最高値。南港火力発電所2号機(大阪市住之江区、出力60万キロワット)などが点検作業のため停止していたほか、揚水発電も減らしていたため、使用率が高くなった。【鈴木一也】
◇伊方など6基先行 高浜など6基出遅れ
再稼働に向けて安全審査を申請した6原発12基は、6基が先行、6基が出遅れという状況だ。
早期再稼働の「最有力候補」とみられているのが四国電力伊方3号機(愛媛県)。規制基準で義務付けられている事故時の前線基地「緊急時対策所」を唯一完成させた。放射性物質が侵入した場合、除去しきれず、作業員が全面マスクを着用しなければならないことが問題視されたが、四電が今月10日、フィルターを二重化してマスクを不要にする計画を提示すると、規制委の更田豊志(ふけたとよし)委員は「劇的に改善した」と評価。地下構造の調査も「よく把握されている」(規制委の島崎邦彦委員長代理)とされる。
次いで準備が整っているのが九州電力の川内1、2号機(鹿児島県)と玄海3、4号機(佐賀県)、北海道電力泊3号機(北海道)の5基。ただ、いずれも「地下構造調査が不十分」と指摘された。規制委はこれら6基を対象に設備配置状況を現地で確認する。13日に伊方に入ったのをはじめ、20日に川内、27日に玄海、10月に泊を予定している。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130914ddn003040027000c3.htmlより、
残る6基は対策の遅れや準備不足で後回しにされた。泊1、2号機は重大事故時の解析で構造の異なる3号機のデータを流用、規制委は審査を保留した。関電高浜3、4号機(福井県)は敷地の高さ(3・5メートル)を超える津波が来るとする福井県の試算(約3・7メートル)を反映しておらず、設備面の審査が停止。規制委の田中委員長は「規制委はそんなに甘ちゃんじゃない」と訴えた。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130908/dst13090803180002-n1.htmより、
産経新聞【主張】大飯原発 再稼働に向け審査を急げ
2013.9.8 03:17 (1/2ページ)
原子力規制委員会が関西電力大飯原発3、4号機の安全審査に入ることを決めた。敷地下の地層は「活断層ではない」との判断をようやく下したためだ。
調査開始から判定まで10カ月もかかった規制委の姿勢には問題がある。今後は迅速な審査に努めてもらいたい。
すでに大飯3号機は定期検査のために稼働を停止し、4号機も15日には運転を止める。これによって日本は、再び「原発ゼロ」という異常事態を迎える。残暑が続く中での原発停止で電力危機が再燃する懸念もある。
この払拭には、原発の早期再稼働が欠かせない。規制委が安全性を確認した原発は、ただちに運転を再開する必要がある。政府は地元に対する説明を含めて万全の体制であたってほしい。
規制委が昨年11月に調査を始めた大飯原発では、重要施設の「非常用取水路」の真下を横切る断層の評価が焦点だった。規制委は活断層のリスクを重視する調査メンバーの意見に左右され、幅広い科学的な知見を求めなかった。専門家でさえ首をかしげるほど大がかりな掘削調査をしたことも判定まで時間を要した原因の一つだ。
敦賀原発や東通原発などでも活断層の評価が進められている。規制委は今回の判定を機に科学的な議論に徹するように改め、評価作業の合理化を進めるべきだ。
関電管内では8月下旬、気温上昇に伴う電力需要増と発電所トラブルで供給予備率が急低下し、他電力からの緊急融通で乗り切ったばかりだ。大飯原発の稼働停止で合計200万キロワット以上の供給能力が失われる。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130908/dst13090803180002-n2.htmより、
2013.9.8 03:17 (2/2ページ)
7月に施行された新安全基準に基づき、四国電力の伊方原発や九州電力の川内原発なども規制委に安全審査を申請している。伊方では近く、現地調査も始まる。規制委は迅速に審査を進め、原発の早期再稼働で安定的な電力供給を確保しなければならない。
ほとんどの原発が運転を停止する中で、火力発電所向けの輸入燃料の価格が上昇し、今月からは北海道と東北、四国の3電力が家庭用電気料金を引き上げるなど、値上げの動きが広がっている。
再稼働が遅れれば追加値上げも予想される。料金引き上げは国際競争力を低下させ、回復傾向にある日本経済にも悪影響を与えることを忘れてはならない。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130908k0000m070103000c.htmlより、
社説:大飯原発 引き続き厳格な評価を
毎日新聞 2013年09月08日 02時30分
関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の重要施設を横切る断層について、原子力規制委員会の有識者調査団は「活断層ではない」との見解で一致した。活断層であれば廃炉にもつながりかねず、関電は胸をなで下ろしているかもしれない。
だが、これで大飯原発の安全性にお墨付きが与えられたわけではない。関電も規制委も引き続きリスクの判断を慎重に行ってもらいたい。
大飯原発は3号機が今月3日に停止、4号機も15日に停止し、日本で稼働中の原発は再びゼロになる。関電は早期再稼働を目指し7月に安全審査を申請したが、原子炉冷却に必要な施設の直下を断層が横切っているため、審査は中断されていた。
規制委は有識者調査団の見解を受け、定期検査後の再稼働に向けた安全審査を再開することを決めたが、重要な課題は残されている。
ひとつは、原発敷地内の「未知の地下構造」だ。その特徴によって、地震動が増幅されるなど予想外のことが起きることがあるため、新規制基準が調査を義務づけた。規制委は関電の分析が不十分だと指摘している。原発周辺には今回の断層とは別に三つの活断層があり、連動を前提とした耐震評価も精査が必要だ。
こうしたリスクの評価で気になるのは関電の消極的な姿勢だ。活断層の3連動については、規制委から再三、試算するよう求められながら、「連動しない」との主張にこだわってきた。関電は高浜原発でも津波高の想定不足を規制委から指摘され、上方修正している。危険性の軽減に電力会社自らが積極的に取り組む姿勢がなければ、信頼は得られない。
有識者調査団の評価では、リスク認定の難しさも改めて浮き彫りになった。原発の建設工事で地層の一部が削り取られており、断層の活動年代を知ることを難しくしていた。また、専門家同士の間で見方に食い違いも生じた。検討対象となった断層が敷地内をどう走っているかについても最終合意されていない。
関電が当初、想定した場所に断層が見つからないなど、建設時の調査がずさんだったことも分かった。
活断層や地震、津波などのリスクを確実に判定することは難しい。再稼働は、「安全か否か」ではなく、「どこまでリスクを受け入れるか」で判断せざるをえない。だからこそ、地元の了解も重要な要素だ。
活断層の調査を誰が実施するのかも今後の課題だ。これまでは電力会社に任されてきたが、調査の客観性を担保するのなら規制委が自ら調査にあたることも考えた方がいい。少なくとも調査計画案は規制委が独自に作るべきで、そのための体制強化も進めてほしい。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59234610T00C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 需給見据え安全確認した原発の再稼働を
2013/9/3付
関西電力の大飯原子力発電所3、4号機が15日までに、定期検査のために運転を停止する。国内で稼働する原発は1年2カ月ぶりにゼロになる。
電力需給はまだ厳しい。原発を代替する火力発電用の燃料費も増え続けている。新規制基準に沿って安全が確認できた原発を着実に再稼働させていく必要がある。
国内の原発は昨年5月、すべて停止した。大飯原発は政府が夏場の電力不足の回避を理由に、暫定基準で再稼働を決め、昨年8月に運転を再開した。
今回の停止は13カ月以内の定期検査を義務付ける規制に沿った措置だ。稼働の基準を定めた新規制基準が施行された以上、大飯原発だけを特別扱いはできない。
福島第1原発の事故から3度目の夏、和らいできたように見えた電力の需給は依然、綱渡りであることを思い知らされた。
全国で猛暑が続き、8月22日には関電の供給区域で、供給力に対する需要の割合を示す電力使用率が96%に上昇した。これは政府が警報を発する一歩手前の水準だ。
関電は中部電力や中国電力など周辺の4電力会社から緊急に電力を送ってもらいしのいだ。同じ日、関電を含め全国6社の使用率が90%を超えた。
電力各社は原発を補うため、火力発電所をフル運転させている。長期間運転を止めていた古い設備を使うケースもあり、酷使でトラブルが頻発した。9月に入ったとはいえ残暑が続く。需給にまだ気を緩めるわけにはいかない。
原油や液化天然ガス(LNG)などの2012年度の輸入費は、事故前より約3兆円増えた。13年度は増加分が3兆8000億円に膨らむ見込みだ。
北海道電力、東北電力、四国電力の3社は1日から家庭向けの電気料金を平均7~8%引き上げた。値上げした電力会社はこれで6社となる。国富の流出と国民負担の増大は、回復の兆しが出てきた景気に水をさしかねない。
福島原発での相次ぐ汚染水問題は国民に強い不安を広げている。国をあげて事故処理に取り組み、信頼を回復させることがなによりも大切だ。
同時に安全が確認できた原発は使わざるをえない。そのための新規制基準だ。すでに4社が計12基の再稼働を申請した。原子力規制委員会の審査も始まった。この作業の円滑な実施が必要だ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130903k0000m070110000c.htmlより、
社説:原発汚染水対策 首相の危機管理を問う
毎日新聞 2013年(最終更新 09月03日 06時18分)
東京電力福島第1原発の放射性汚染水問題が、深刻度を増している。300トンもの汚染水漏れが発覚した地上タンクと同型のタンク周辺で、高い放射線量が検出された。海洋への汚染水流出も続く。海外メディアも、2年半前の事故以来最大の危機として伝えている。事故は収束していないどころか、極めて緊迫した状況にある。国家としての危機管理能力が問われる事態だ。
安倍晋三首相は汚染水対策について「東電任せにせず、国として緊張感を持って対応していく」と述べているが、これまでの対策からは、首相の顔が見えてこない。
国内外の懸念に応えよ
安倍首相は、就任直後から原発再稼働を掲げ、成長戦略の一環として原発輸出の「トップセールス」にまい進してきた。だが、最優先すべき課題は第1原発の事故処理であり、汚染水対策であるはずだ。汚染水問題が解決できなければ、日本の原発技術の安全性をいくら強調しても、絵に描いた餅になる。原子力災害対策本部長として、対策の陣頭に立つことこそ首相の役割だ。
汚染水は毎日、増え続けている。壊れた原子炉建屋に1日400トンの地下水が流れ込み、溶け落ちた核燃料と接触しているためだ。東電は、この高濃度汚染水からセシウムを除去し、敷地内でタンクなどにためている。低レベルの汚染水も含めた貯蔵量は40万トンを超える。一方で、汚染された地下水の一部は海に流出している。
東電は、セシウムを除去した汚染水を62種類の放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS」で再度処理する計画だ。ところが、試運転で設備の水漏れが見つかり、稼働が遅れている。タンクを増設し、増え続ける汚染水をためる自転車操業方式の対応は、破綻寸前にある。
タンクからの汚染水漏れ発覚後、経済産業省は局長級ポストの「汚染水対策監」を新設し、第1原発に駐在する職員を増やすことを決めた。東電も社長直轄の対策本部を設置した。国内外の専門家を招くという。こうした体制強化に一定の効果はあるだろうが、対症療法に過ぎない。汚染水漏れなどのトラブルは、これからも起きることだろう。
政府は近く、汚染水問題の総合的な対策を公表する。ALPSの増設や、地下水を建屋流入前にくみ上げて海に流す「地下水バイパス」の実施が課題となっている。建屋周囲の土を凍らせて地下水を遮る「凍土遮水壁(地下ダム)」は、今年度予算の予備費を投入するという。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130903k0000m070110000c2.htmlより、
地下ダムの必要性は、事故直後から指摘されていた。予算不足や人手不足を理由に、汚染水対策が停滞することは許されない。東電を事実上国有化した政府が、今後は対策の指揮命令系統を握る必要がある。東電に対策を指示するだけでは、問題は解決しないことを認識すべきだ。経産省や原子力規制委員会など関係機関は連携を密にし、目の前の危機に全力で立ち向かってほしい。
国内外で高まる海洋汚染への懸念に対しても、東電に代わり、政府が前面に立って説明を尽くすことが求められる。東電のこれまでの対応を見ると、隠蔽(いんぺい)体質は変わっておらず、社会的な信用は失墜している。
◇国会の早期召集検討を
国家の危機管理に関わるという認識がなお不足している点では、動きがみえない国会も同様である。
事態が底なしの状況をみせつつある中、臨時国会召集が予定される10月までの審議放置など論外だ。次期国会を「汚染水国会」と位置づけるくらいの覚悟で与野党は早期召集も含めた対応に動くべき局面である。
野党側は汚染水問題をテーマに関係閣僚が出席する衆院経済産業委員会の国会会期外の閉会中審査を要求した。だが結局、日程はセットされず近く現地を視察する方向となった。何とも悠長な対応である。
国会質疑は政府に当事者意識を持たせ、とりわけ原発事故に関しては必要な情報を国民に開示する意味がある。汚染水流出を踏まえ監視、点検体制をどう構築し、抜本解決に何が必要かを早急に徹底議論すべきだ。たとえば「地下水バイパス」計画は、多角的に審査したうえで政治が判断を下すべき課題だろう。
気になるのは、ヤマ場を迎える東京五輪招致への影響などを危ぶみ、オープンな議論を手控えるような雰囲気が政界にあることだ。むしろ説明不足が日本への不信を強めかねないという発想に転換すべきだ。参院選の関係で6月に通常国会が延長せず閉幕し、審議空白期が長引きかねないことを考えれば、早急な審議実施は当然である。
野党も与党への追及姿勢や野党間の違いばかり強調するような手法は取るべきでない。むしろ野党間で政策の共通点を探り、建設的な対案を与党に提示するような工夫が必要だ。政党の力量が問われている。
今月15日には、定期検査に入るため、関西電力大飯原発4号機(福井県)が運転を停止する。国内で稼働している原発は昨年7月以来、再びゼロになる。地震国日本で、原発に依存したエネルギー政策に逆戻りはできない。汚染水問題は、その現実を改めて突きつけている。