英議会のシリア攻撃「否決」 小倉孝保氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130919k0000m070112000c.htmlより、
記者の目:英議会のシリア攻撃「否決」=小倉孝保
毎日新聞 2013年09月19日 00時20分

 ◇軍事大国からの卒業
 シリアへの軍事攻撃はひとまず回避された。最初に軍事攻撃に待ったをかけたのは英議会だった。国連を無視して米英両国が軍事介入に踏み切ったイラク戦争から10年。英国民は独りよがりの軍事介入がいかに高くつくかを思い知っている。政府の攻撃容認動議を否決した先月29日の英議会の決定は、そうした国民の思いを反映したものだった。

 ◇イラクを教訓に 231年ぶり「反対」
 英議会がこれまで、政府の計画した軍事攻撃を止めた例はほとんどなかった。軍の展開に直接影響を与えたのは、米国独立戦争(1775〜1783年)終盤の1782年、議会が首相に対する不信任決議案を可決して停戦を決めて以来、231年ぶりだ。今回の決定はまさに英議会史における歴史的出来事だった。
 8時間の討論をみると▽「(イラク戦争参戦は)秘密情報活動の失敗。結果的に中東全域、英国政治に悪影響を与えた」(労働党のストロー元外相)▽「国民はもはや政府を信用しない」(労働党のフリン議員)▽「求められてもいないのに英国は国際警察のように振る舞い、世界に感謝されなかった」(保守党のアーバスノット議員)−−など与野党から、「イラク戦争の教訓」を理由にシリア攻撃反対の意見が続いた。
 米英両国は2003年3月、フセイン政権の大量破壊兵器所持疑惑を理由にイラクを軍事攻撃した。露仏などの反対で国連安保理決議は採択されなかった。結果的に大量破壊兵器は見つからず戦闘は泥沼化した。テロは世界に拡散し、ロンドンでも大規模テロが発生した。しかも地域は不安定なままだ。
 イラク戦争でブレア英首相(当時)は、単独行動主義のブッシュ米大統領(同)に追従し一部から、「米国のポチ(犬)」と呼ばれた。英国民対象の世論調査では、イラクへの軍事介入について開戦当時は39%が支持、55%が不支持だったが、今年3月には不支持(70%)が支持(24%)の3倍近くになった。また、イラク戦争で英国の国際的評価が「落ちた」とする国民は52%で、「上がった」は9%。この戦争で90億ポンド(約1兆4000億円)以上の税金を使い兵士179人を犠牲にした。国際的評価を落としたのでは割に合わない。
 そのため国民は今、他国への軍事介入に極めて後ろ向きだ。3月の世論調査で英国の武力行使の条件として、44%が「国益が直接脅威にさらされたとき」、21%が「領土防衛のとき」と答えた。「他国民の自由や権利を守るとき」とするのは31%。6割以上の国民は自国のためにのみ軍事力を使うべきだと考えている。

 ◇平和への存在感望む民意の表れ
http://mainichi.jp/opinion/news/20130919k0000m070112000c2.htmlより、
 先日、ロンドンで英国と欧州との関係を考えるシンポジウムがあった。パネリスト(英国人4人)や会場からの意見を聞いて意外だったのは、米露など軍事大国はもちろん、仏独など地域大国への言及がほとんどなく、スイスやノルウェーを意識した発言が多かったことだ。両国への評価は、軍事力以外の分野で平和に貢献して存在感を示し、多角的な外交・貿易で国民が豊かな生活を享受していることに向けられていた。
 19世紀に海洋覇権国家になって以来、英国は世界をけん引してきた。20世紀の2度の大戦で戦勝国となり、戦後の国際的枠組み作りでも中心的な役割を果たした。一方、個人としての英国人には素朴な人が多い。公園の小道を静かに歩いたり、庭の花を楽しむことに喜びを見いだしたりしている。英国の人口は約6200万人で日本のほぼ半分。国内総生産(GDP、12年)は約2兆4300億ドル(約241兆円)で日本の半分以下。国防費(12年)は日本(593億ドル)とほぼ同じ608億ドル(約6兆円)で米国(6820億ドル)の10分の1以下だ。スイスやノルウェーへの思いは、身の丈を超えて世界をけん引することに疲れた国民の意識の表れではないかと思う。
 軍事介入を断念したことで英国は今後、国連安保理決議のないケースで武力行使することは難しくなった。軍事力による国際政治のパワーゲームにおいて英国はメインプレーヤーではなくなるはずだ。
 しかし、英国の力は軍事力だけではない。英語は世界共通語といえるほど力を持っているし、世界各地の文化や習慣を深く理解する人も多い。国内政治は安定し、さまざまな問題に現実的で柔軟に対応する力もある。超大国ではない国が軍事以外の分野でどう国際貢献し、どのような影響を世界に与えていくか。英国への私の期待はむしろ高まっている。

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