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日別アーカイブ: 2013年9月21日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130924/biz13092403060000-n1.htmより、
産経新聞【主張】リニア新幹線 新「超特急」に再生託そう
2013.9.24 03:06 (1/2ページ)

 JR東海が平成39年の開業を目指す、東京・品川-名古屋間のリニア中央新幹線の詳細計画が固まった。
 走行ルートや中間駅の具体的な場所が決まり、来年度中の着工を目指す。国鉄時代の昭和48年の基本計画決定から40年を経て、新しい「夢の超特急」はいよいよ開業への具体的一歩を踏み出す。日本経済立て直しの追い風としたい。
 強力な磁力で車両を10センチも浮上させ、時速500キロ以上の超高速で走らせる日本の超電導リニア技術は、世界の最先端に位置する。日本の高い鉄道技術を改めて世界に示す好機ともなろう。
 日本が目指すインフラ輸出の中でも、環境負荷が小さい大量輸送手段の鉄道技術は、アジアを中心に大きな需要がある。深さ40メートル以上の大深度地下の掘削技術とともに、リニア新幹線の成功は、日本が今後、官民一体で海外売り込みを果たす上で大いに役立つ。
 リニア新幹線の建設は、国が巨額の資金を投入する公共事業としてではなく、JR東海が全額自己負担で行う。東京-名古屋間だけで工事費は5兆4千億円とされ、平成57年に予定される東京-大阪間の全線開業までの最終的な総投資額は、10兆円を軽く突破する可能性がある。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130924/biz13092403060000-n2.htmより、
2013.9.24 03:06 (2/2ページ)
 同社が、そうした巨額投資のリスクを背負ってまでリニア建設に挑むのは、東海道新幹線では、今以上のスピードアップや輸送力の増強が望めないからだ。
 高い確率で発生が予想される東海沖地震に備えたバイパス線の建設という狙いもある。JR東海にとってリニアは、さまざまな意味で社の命運が懸かっている。
 最高時速500キロで走行し、東京と名古屋を最短40分で結ぶ。東京-大阪間も1時間強で結ばれる予定だ。その場合、同区間の航空旅客は、ほとんどが新幹線に流れそうだ。リニア新幹線の完成により、二大都市間の輸送は大きく姿を変えることになる。
 中央リニアの建設が順調に進めば、国内での今後の新線建設計画も浮上する可能性がある。羽田、成田の両空港間はその一例だ。
 東京-大阪間が通勤圏となれば、人的往来の活発化を通じて経済圏としての一体化も進む。その時、日本経済はどう変わるのか。国も先を見越した国づくり、都市圏づくりを、しっかりと進めておく必要があるだろう。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130923k0000m070075000c.htmlより、
社説:リニア新幹線 国民的議論が必要だ
毎日新聞 2013年09月23日 02時31分

 夢物語のようだったリニア新幹線が、急に現実味を帯びてきた。2027年に東京・品川−名古屋の開業を目指すJR東海が、環境影響評価準備書を公表し、詳しいルートや駅の位置が明らかになった。必要な手続きや国の認可を経て、来年度には着工したいという。
 沿線では早くも期待が膨らんでいる所もあるようだ。しかし、リニア中央新幹線は何十年に1度という超大型の国家的プロジェクトである。関係する都府県やJR東海という一企業だけの問題ではない。疑問や不安もまだ多く、今こそ徹底した国民的議論が必要である。
 リニアの強さは何といっても最高時速500キロという速さだ。計画では27年に品川−名古屋が最短40分、45年には品川−大阪が1時間強で結ばれる。その経済効果は十数兆円という民間試算もあるようだ。
 一方で、リニアという全く新しい技術を使った交通手段の導入には多くの未知数がある。まず、建設工事に関するものだ。名古屋までの全長286キロのうち約86%が地下やトンネル内の走行となる。中でも南アルプスを貫通する約25キロのトンネルは崩落や異常出水の危険がある地層を横切るため難工事が心配される。
 そして経済的未知数だ。総建設費は在来型の新幹線を大幅に上回る約9兆円と見積もられているが、さらに膨らまない保証はない。人口減少や高齢化が進む中、想定通りの利用者を確保できない恐れもある。大阪までつながるのは、今から32年も先なのだ。東海道新幹線とリニアを両方抱え、利益を維持できるのか。
 リニア中央新幹線の基本計画ができたのは40年前である。この間、日本の経済や社会構造は激変し、在来型新幹線の性能も格段と向上した。特に東日本大震災後、エネルギーをとりまく環境が変わり、大地震のリスクも一層認識されるようになっている。ピーク時の消費電力が新幹線の3倍とも言われ、地中深く走るリニアは本当に望まれる乗り物か。
 建設費は全額JR東海が負担する。しかし、だからといって一民間企業の設備投資と片付けるわけにはいかない。万一事業が失敗しJR東海が経営難に陥った場合、その公共性から国家(国民)が支援を求められる可能性も皆無ではないのだ。
 JR東海には沿線住民はもちろん、国民全体に納得のいく説明をしてほしい。国会で集中的に審議されたことがないが、客観的、中立的データに基づく政策論議が不可欠だ。
 関係者のみの楽観的見通しで突っ走ってはならない−−。福島第1原発事故から日本が学んだ教訓の一つだ。20年の東京五輪に間に合わせようという発想など論外である。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092102000150.htmlより、
東京新聞【社説】リニア新幹線 うまく乗りこなすには
2013年9月21日

 東京と名古屋をわずか四十分で結ぶリニア中央新幹線には、日本の技術力、ものづくり精神が凝縮されている。最新鋭の鉄道をどう乗りこなしたらいいか。利用する私たちも知恵を絞る必要がある。
 移動時間の劇的な短縮によって人々の生活や企業活動が大きく変わるのは間違いない。経済効果は十兆円を超すと見込まれている。
 旧国鉄が中央新幹線の研究を始めたのは一九六二年。東京-大阪間を飛行機並みの一時間で移動できる高速鉄道を目標に掲げた。東海道新幹線が開業する二年前のことで、すでに次の一手を考えていたのは驚きだが、鉄道をつくる者には当然の発想だったのかもしれない。
 世界初の超電導リニア実用化を目指す姿勢は、ものづくりへのこだわりにほかならない。ただ、国鉄民営化、バブル崩壊など時代の流れの影響で、巨額の投資が必要なリニア計画に日が当たらない時期が続いた。
 リニアへの注目を再び集めたのが、二〇〇五年の愛・地球博(愛知万博)だ。JR東海のパビリオンでリニア実験車両の実物を展示し、来場者にアピールした。
 実はこのころ、JR東海の社内でさえも、「営業運転は無理だろう」と冷ややかな意見があった。万博への出展は、経営陣が内外に向けて本気度を示す戦略だったようだ。
 各種の行政手続きを経て今回、路線や駅の最終案がまとまった。半世紀の歴史を振り返ると、関係者の苦労は素直に評価したい。
 とはいえ、大切なのはこれからだ。二七年の開業に向け、建設時には環境への影響を最小限にとどめる必要がある。リニア車両は大量の電力を消費するため、省エネ化の道を探るべきだ。的確な需要動向の調査も欠かせない。
 私たちも、リニアをどうやって乗りこなし、活用するかを考えるときを迎えている。
 東京と名古屋の所要時間は新幹線「のぞみ」より一時間も縮まるが、試算では料金は七百円高いだけだ。リニアの利用で生まれる時間の余裕は、ビジネスやレジャーの幅を広げそうだ。
 中間駅の設置が決まった沿線都市周辺でも、新たな街づくりの模索が始まっている。首都圏や中部圏からの観光客が増える可能性もあり、関連業界は活気づく。
 もちろんまだ暮らしや仕事にどれだけの変化が訪れるのか、見通せない部分は多い。想像力を働かせつつ、探っていきたい。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60004160R20C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 リニアの課題を克服できるか
2013/9/21付

 2027年開通予定の東京―名古屋間のリニア中央新幹線について、事業主体の東海旅客鉄道(JR東海)が駅の場所やルートを公表した。同社は国の認可を得て、来年度中にも着工する計画だ。
 南アルプスを貫通して東名間をほぼ直線状に結ぶ中央リニアは、日本という国に、もう一つ新たな背骨を埋め込むような、久々の大型プロジェクトである。
 まず期待したいのは経済効果だ。現在約1時間40分かかる東名間の移動が40分に縮まり、首都圏と中京圏が一体化した新たな経済圏が誕生する可能性がある。
 将来は大阪まで延ばし、東阪を1時間で結ぶ。日本の大動脈である東名阪の往来が増えれば、経済は活性化するだろう。
 地震や津波に強い国づくりにも寄与する。東海道新幹線と中央リニアを並行営業するので、どちらか一方が被災しても、バイパスを確保できる。世界に先駆けて長距離リニアを実用化することで、海外への展開も期待される。
 だが、課題も多い。東名ルートの86%がトンネルであり、南アルプスを貫く難工事も待ち受ける。
 都心部では、地下40メートル以下の「大深度地下」を活用する。地上の用地取得が要らず、建設費や工期を圧縮できる利点があるが、やはり工事はたいへんだ。
 事業の採算確保も、大きな課題である。そもそも中央リニアは、総工費9兆円の巨大インフラを一民間企業のJR東海が独力でつくる異例の計画だ。人口減の進む日本で、リニアと東海道新幹線の両路線を満たす需要をどう生むのか。沿線住民の理解を得つつ、円滑に工事を進め、建設コストや工期を想定の範囲に抑えられるのか。JR東海の底力が問われる。
 夢物語と思われた計画が現実に近づき、政財界などから「20年の東京五輪に間に合わせてほしい」「名阪ルートは奈良経由でなく、京都経由で」と様々な声が上がり始めた。だが、最後は投資リスクを取るJR東海の判断を優先すべきなのは言うまでもない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130919ddn003020024000c.htmlより、
クローズアップ2013:夢、不安、リニア始動 27年東京・名古屋、経済効果10.7兆円
毎日新聞 2013年09月19日 大阪朝刊

 ◇建設費9兆円、JR負担
 JR東海が18日、来年度着工予定のリニア中央新幹線の詳細ルートと駅の場所を発表し、日本の新たな大動脈が全容を見せ始めた。大阪までの全線が開業すれば、日本の3大都市が1時間で結ばれ、巨大経済圏が生まれる。神奈川、山梨、長野、岐阜県の中間駅周辺でも活性化への期待が高まる一方、「通り過ぎるだけ」との冷めた見方も。期待と不安を乗せ、リニア計画がいよいよ動き出す。
 「夢の超高速鉄道」は日本経済に大きなインパクトをもたらしそうだ。ヒト・モノ・カネが巨大都市圏を効率的に移動することで生産コストの減少や観光振興に伴う消費の拡大が見込まれ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングはその経済効果を東京−名古屋間の開業で10・7兆円、大阪延伸で16・8兆円と試算する。
 リニアの最高速度は時速500キロ。400キロ台の上海リニアをしのぎ、陸上の移動交通手段としては世界最速になる。2027年開業予定の東京−名古屋間は最速で40分。政府は「日本のインフラ輸出の大きな武器」(菅義偉官房長官)として米国など海外への高速鉄道輸出に弾みをつけたい考えだ。東海地震が発生した際の迂回(うかい)路として、防災面での役割も期待される。
 一方、「夢の超高速」には課題も山積している。リニアは、国が巨額資金を投じる従来の新幹線とは異なり、建設費約9兆円をJR東海が全額負担する。国の財源に頼ると、ほかの整備新幹線計画とのかねあいで工事が遅れかねないためだ。ただ、南アルプスなどの山岳地帯を貫く名古屋までのルートは、8割以上がトンネル内となる。山田佳臣社長は「現実に掘り出すと、いつ何が出るか分からないが、最新の技術で乗り越える」と説明するが「難工事で建設費が膨らまないか心配だ」(国土交通省幹部)との声は少なくない。
 JR東海の累積債務は2・6兆円。リニアの建設費はもうけのほか借金でも賄う予定で、全線開業時の債務は5兆円程度に膨らむ見通しだ。
 リニアの開通で大きな影響を受けるのが航空業界だ。国交省の11年度の調査によると、東京−大阪間の移動手段はJRが71%、航空機が26%。東京−広島間はJR56%、航空機43%だった。日本人の場合、移動時間が4時間を切ると、飛行機ではなく鉄道を選ぶ傾向にあるといわれるが、リニアの全線開業後は、新幹線などの乗り継ぎで東京から山陰地方や福岡まで4時間圏内に入る。空の需要が大量に鉄道に流出すれば地方空港や地方路線の縮小、撤退につながる可能性もある。【三沢耕平】

 ◇以西ルート未定 当初計画は奈良、逆転狙う京都 同時開業求める大阪
http://mainichi.jp/opinion/news/20130919ddn003020024000c2.htmlより、
 リニア中央新幹線は、名古屋以西の具体的ルートや中間駅の位置は示されておらず、当初の計画に盛り込まれた奈良と逆転を狙う京都が熱い誘致の声を上げている。
 奈良県は「決めるのはJR東海」としながらも「(経由地を)『奈良市付近』とした1973年の国の基本計画通りに進められるはず」と「三重・奈良ルート」に期待する。さらに「周辺のまちづくりに着手しなければならず、駅の位置は早く決めてほしい」と要望。県内では奈良、天理、大和郡山、生駒4市が誘致の意向を表明し、奈良市は、市長をトップに推進本部を発足させた。さらに同県は、市町村などとつくる「リニア中央新幹線建設促進県期成同盟会」(会長・荒井正吾知事)が全線同時開業の要望を続けている。
 一方、京都の政財界からは「京都を通る方が経済効果が高い」との声が上がる。京都市の門川大作市長は18日、報道陣に「40年前に決めたことを踏襲するのではなく、国家戦略として検討してほしい。日本の精神文化の拠点である京都を外すことがどれほど損失になるか」と述べた。京都誘致をめぐっては、京都府や同市が設置した有識者委員会が2012年2月、経済効果などの観点から京都駅をルートにすべきだと提言。これを受けて府と市は国やJR東海への要望活動を本格化させている。
 大阪府は11年度から毎年、名古屋開業の27年に大阪までの全線を同時開業するよう政府に求めている。府企画室の担当者は取材に「国土構造を東京と大阪でデュアル化(双眼化)していくには、リニア中央新幹線は不可欠」と話している。【釣田祐喜、花澤茂人、土本匡孝、堀文彦】

 ◇大阪延伸18年遅れ
 関西経済界は、大阪延伸が東京−名古屋間の開業から18年遅れることに「関西や西日本の地盤沈下につながる」との危機感を抱く。関西経済連合会は、国交相がJR東海にリニア新幹線の建設を指示した11年に研究会を発足させ、経済効果や建設資金の調達方法などを検討してきた。
 自前で資金調達するJR東海が、同時開業に方針転換する可能性は見込めないため、政府・与党に対して、リニア新幹線を国が財政支援するように求めている。【久田宏】

 ◇「通り過ぎるだけ」
 JR東海はリニア利用客数を10年に試算した際、東京−名古屋ノンストップを1時間4本、各駅停車を同1本と想定。だが開業時、中間駅にどの程度の頻度で停車するかは未定だ。中間駅立地自治体には「ほぼ通り過ぎる」との見方もある。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130919ddn003020024000c3.htmlより、
 山梨県は、甲府市大津町のリニア新駅の新規利用者について1日当たり観光1930人、ビジネス800人、通勤通学30人と控えめに見積もる。期待するのは観光資源としてのリニアそのものだ。山梨実験線(42・8キロ)のある県立リニア見学センター(同県都留市)には年間10万人以上が訪れており、リニアは既に有力な観光資源として定着している。
 甲府盆地の地上区間は約19キロある。しかし、JR東海は騒音対策などからコンクリート製の覆いを設置する方針を示しており、リニア見物客の来訪に期待する県は、同社に配慮を求めていく考えだ。
 岐阜県中津川市の中間駅は長野県境に近く、岐阜市からは約70キロに位置する。県職員からは「上京するなら名古屋に出た方が便利」との声も出る。県幹部も「中間駅はほぼ通り過ぎるのと同じ」と話すが、経済効果には大きな期待を寄せる。県はリニア建設予定期間(13年間)の県内への経済効果を1兆9110億円(年1470億円)と試算。開業後は観光客増で年218億円の効果を見込む。【春増翔太、横井信洋、加藤沙波】

 ◇20年東京五輪 一部前倒し期待
 菅義偉官房長官は18日の記者会見で、「東京五輪で海外から多くのお客が来る時に、我が国を代表する技術のリニアに部分的にでも乗ってもらえればいい」と、一部区間の前倒し開業に期待を寄せた。20年の東京五輪に合わせた開業を求める声は経済界の一部からも上がっているが、JR東海の山田佳臣社長は同日の会見で「急げと言われて急げるものではない。工事は丁寧に安全性を確かめないといけない」と否定的な見解を示した。

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http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 24 日(火)付
政労使会議―賃金デフレの根を絶て

 安倍首相の音頭取りで、政府と経営者団体、労働団体の代表からなる政労使会議がスタートした。
 来年4月の消費税増税までに賃上げ機運を盛り上げ、経済全体の好循環を促すのが安倍政権の狙いだ。来年1月ごろまで数回、開催するという。
 首相は今年の春闘で財界に賃上げを要請し、一部の企業が反応した。今度は春闘の仕込みの段階から働きかける。賃上げがアベノミクスの正否を左右すると思い定めているようだ。
 長く続く賃金デフレは労使双方、とりわけ経営側の心理的な惰性にとらわれた結果という面が否定できない。
 業績は改善しているが、賃金は上がらず、企業は内部留保をため込む。ここに政府が割り込み、空気を変えられれば意味があろう。
 好業績企業からは賃上げ容認論も出始めた。ただ、賃金デフレは根深い構造を持っている。しっかり斬り込まなければ、働く人々は将来に明るい展望は持てない。
 春闘の流れに乗るのはひとつの便法だが、その限界に縛られることでもある。今の春闘に非正規労働者や中小企業に賃上げが波及するメカニズムが欠けているなか、どう広がりを確保するのか。雇用の安定をどう実現するのか。そんな課題に政府は向き合ってほしい。
 賃金デフレ構造の根底には、内外市場で商品やサービスが競争力に劣るという経営面での弱みがある。ここから目を背け、人件費などのコスト削減にいそしむことが、要求度の高い株主たちに対する無難な対応とされてきた。
 経団連は人件費削減の「横並び」に余念がないが、そこに安住する危うさを自覚しなければならない。
 労働側も賃金デフレの構造強化に対して非力だった。もともと大企業の正社員が中心の構成で、バブル崩壊後に進んだ非正規雇用の激増に対応できなかった。とくに労働現場の賃金・処遇の実態をつかむ「情報力」を失った。
 これが労組の交渉力、すなわち問題の提起や解決の能力を衰えさせてきたといえる。
 連合は、中小企業や非正規企業への賃上げ波及を図るため、その処遇の実態把握にも努力し始めた。日暮れて道遠しだが、この道を進むほかない。
 労使双方とも政府の「介入」への警戒感がある。だが、労使自治をいうなら、これを機に自らの問題にまずは自らメスを入れることだ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130922/fnc13092203150000-n1.htmより、
産経新聞【主張】政労使協議 脱デフレへ共通認識持て
2013.9.22 03:15 (1/2ページ)

 日本経済再生に向けてデフレからの脱却を果たすには、企業収益の改善を通じた賃上げや雇用創出が欠かせない。それが個人消費を刺激し、ひいては企業収益の一段の拡大につながるからだ。
 こうした好循環を生み出すため、安倍晋三政権は経済界や労働界のトップと意見交換する政労使協議を始めた。官民が脱デフレの目的意識を共有し、建設的な議論を進めることで、自律的な経済成長を実現してほしい。
 安倍首相は初会合で「政府も好循環に向けて思い切った対応を検討する。産業界と労働界も大胆に取り組んでほしい」と、労使双方に賃上げへの協力を求めた。
 企業が従業員に対する賃金配分を増やすには、安定的な収益の向上が必要だ。政府は設備投資や賃上げを実施した企業に対する減税の創設や拡大を検討している。企業活力を引き出す規制緩和などにも積極的に取り組み、企業を後押ししなければならない。
 一方で企業側も業績改善に賃上げで応える姿勢が問われる。日銀統計によると、日本企業が保有する現金と預金は6月末で約220兆円で、この1年で8%近くも増えた。とくにアベノミクスによる円高修正で輸出企業の採算が回復しているのは追い風だ。
 設備投資を控え、人件費を減らす「守りの経営」では成長が見込めない。経済界は固定費上昇につながるベースアップ(ベア)の実施には慎重で「業績改善にはボーナス増で応える」との立場だが、個人消費の活性化には、毎月の手取りが増えるベアが必要だ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130922/fnc13092203150000-n2.htmより、
2013.9.22 03:15 (2/2ページ)
 企業収益の向上には労組の協力も不可欠だ。従業員の生産性を高める上で労働時間や勤務形態など雇用規制の緩和が課題だ。連合は従業員の待遇悪化につながりかねないとして規制緩和に反対している。もっと柔軟な姿勢で労使間で知恵を絞るべきだろう。
 労使の「横並び意識」の打破も賃上げの鍵を握る。春闘は産業別の労使で賃上げ交渉するが、体力のある企業も横並びで賃上げを抑制する傾向がある。支払い能力のある企業はもっと従業員に報いる姿勢を示してもらいたい。
 来年4月には消費税が増税される。家計負担を軽減するためにも官民が賃上げで協調することが求められている。年末まで開かれる政労使協議は、それぞれが役割を積極的に果たす場とすべきだ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092102000151.htmlより、
東京新聞【社説】賃金引き上げ 民の力を束ねるときだ
2013年9月21日

  政府と経済界、労働界による初の政労使協議が行われた。勤労者所得を増やしてデフレから抜け出す-が目的だ。経済界はやみくもな人件費削減を自戒し「民」の力を束ねて日本再生を担うべきだ。
 安倍政権は二〇一四年度に東日本大震災の復興特別法人税を一年前倒しで廃止し、法人税の実効税率も引き下げの検討を進める方針を打ち出した。しかし、企業優遇への慎重論は自民、公明の与党内でも根強い。
 中でも、高村正彦自民党副総裁は「法人税の実効税率引き下げは企業の内部留保を増やすだけ」と牽制(けんせい)している。復興税廃止は企業に九千億円の減税をもたらす一方で、同じ復興財源である所得税増税は二十五年間続く。いくら法人税減税を賃上げにつなげると説明しても、理解は得にくい。高村氏は国民の反発を警戒したようだ。
 確かに企業はリーマン・ショックのような有事に怯(おび)え、内部留保を二百兆円以上ため込んできた。従業員の人件費を削るなどして積み上げた資金であり、それを支えているのが低賃金で雇う派遣労働など、複数の働き方を組み合わせた「雇用のポートフォリオ」だ。 非正規雇用は一二年に初めて二千万人を突破し、雇用者全体の38・2%に達した。年収二百万円以下の勤労者も一千万人に上る。
 安倍晋三首相は二十日の政労使協議で「デフレ脱却への動きを賃金や雇用の拡大を伴う好循環につなげられるかが勝負どころ」と、来春闘を視野に米倉弘昌経団連会長らに賃上げを求めたが、企業側は「政府の介入は排すべき」と総じて冷ややかだ。賃上げを政府に委ねては労使間の秩序が崩れると、距離を置いているのだろう。
 しかし、労働力を必要に応じて調達する商品のように扱う現実を見過ごすわけにはいかない。経団連は「従業員が働きやすい環境を確保し、豊かさを実現する」と宣言している。いわば企業の社会的責任であり、それを貫く覚悟こそが求められるというべきだ。
 経営者は、折々に「経済の主役は民間」と胸を張る。ならば、安倍政権の異次元の金融緩和や財政政策に続いて、日本の成長を促す国内設備投資などの「第三の矢」は民間の出番のはずだ。行きすぎた円高は修正され、輸出関連企業などは収益を大きく改善しつつある。
 支払い能力のある企業は誠実に賃上げに応じ、勤労者を安心感で包む。経済の主役を任ずるなら、政府に頼らず隗(かい)より始めよ、だ。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60004130R20C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 持続的に賃金を上げていく道を考えよう
2013/9/21付

 政府と経営者、労働界の代表が景気回復への課題を話し合う政労使協議が始まった。安倍晋三首相はデフレ脱却には企業収益が家計に及んで所得が増えることが欠かせないとして、経営側に賃金引き上げへの協力を求めた。
 デフレ脱却へ賃金上昇が必要との認識はその通りだろう。ただ大事なのは、それが一過性に終わらず、持続的に所得が増えていくことだ。それには企業が生産性や成長力を高めなくてはならない。規制改革など企業が活動しやすい環境整備こそ政府の役割だ。
 政労使協議は首相や経団連の米倉弘昌会長、連合の古賀伸明会長らが参加し、20日に初会合が開かれた。賃金増を伴う経済の好循環をつくっていくための意見交換の場とするという。
 2012年の1人あたりの現金給与総額はピークの1997年に比べ1割以上減っている。賃金をいかに増やしていくかが大きな課題であることは確かだ。
 押さえなければならないのは、賃金増は企業が競争力のある製品やサービスを生みだすことが前提になり、民間企業自身で実現するものという点だ。政府は賃金を増やす企業の法人減税拡充も考えているが、企業の付加価値を生む力が高まり収益が伸びなければ、安定的な賃金増は見込めない。
 肝心なのは企業の行動だ。新しいビジネスモデルの創造など競争力強化へ手を打ってもらいたい。思い切ったM&A(合併・買収)も求められる。3月期決算の上場企業の手元資金は3月末で過去最高の66兆円に積み上がった。成長への投資に踏み出すときだ。
 経営者が企業家精神を発揮しやすくなるよう政府はやるべきことが多い。エネルギーや医療、農業分野などは規制の大胆な見直しが必要だ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では企業の海外直接投資などを促す自由度の高い協定づくりをめざしてほしい。
 賃金引き上げはその原資が企業によって異なり、各企業が労使の話し合いで決めている。政労使協議で賃金水準をめぐる論議をするのは現実的でない。
 政労使協議に求めたいのは職業訓練の充実など、成長分野へ人材が移りやすくしたり、職のない若者の就業を促したりするための議論だ。人が力をつけ、発揮できる社会にするにはどうしたらいいか。それを考え実行することが賃金を持続的に増やす確かな道だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921k0000m070132000c.htmlより、
社説:政労使会議 雇用全般を語る場に
毎日新聞 2013年09月21日 02時30分

 政府と経済界、労働者の代表が賃上げなど雇用をめぐる問題を話し合う政労使会議の初会合が開かれた。デフレ脱却に向け企業の賃上げが欠かせないとして、安倍政権が経団連や連合に働きかけて開かれた。
 賃金の水準は労使の話し合いで決めるのが基本だ。賃上げという働く者が待望している案件であっても、政府が過度に介入するのは禁じ手と言える。ただ、非正規社員の増加など労使だけで解決できない問題は広がっている。政府はむしろ聞き役に回り、目先の賃金にとどまらず、非正規問題、若者の雇用、女性の活用、中小・零細企業で働く者の格差是正といった雇用全般の将来を話し合う場にしてほしい。
 安倍晋三首相は今春も、経済3団体に賃上げへの協力を要請した。円安、株高を受けて業績好調な企業はボーナスを上積みしたが、首相発言に呼応して春闘で賃金体系を底上げする企業はごく一部にとどまった。
 アベノミクスで消費者物価を年2%引き上げる目標を掲げ、輸入品を中心に物価はじわじわ上がってきた。来年4月の消費税の引き上げも予定されている。給料がそのままなら国民の暮らしは確実に苦しくなる。消費意欲が衰えれば、アベノミクスは行き詰まってしまう。このため、安倍政権は賃上げした企業への減税の拡充など下支え策を検討してきた。さらに、企業収益の改善が着実に賃金や雇用の拡大に結びつくよう、来年の春闘の準備段階であるこの時期に協議の場を設けた。
 経団連は「賃金交渉は企業の支払い能力に応じて行うべきだ」との姿勢で、政府の関与には冷ややかだ。ただ、経営環境が全体として好転しているのも事実だ。経営者からも「業績が上がる見通しがつく企業は賃上げを考えていくことが重要だ」と前向きな発言も出てきた。
 企業規模や業種によって状況はさまざまだが、収益が急速に拡大している業種もある。長く抑えられてきた賃金の改善について、経営者が強く意識することが必要だ。
 労働組合側は賃上げの流れに異論はないだろう。ただ、労使だけで手がつけられない雇用問題にも目を向けることが必要だ。連合は春闘で非正規の正社員化や昇給制度の明確化、社会保険適用拡大などを要求項目に掲げた。こうした課題は政府も交えたルール作りが必要になる。この政労使会議で、雇用をめぐる幅広い課題の取り組みを深めてほしい。
 政府は、短期的な賃金改善を求めるだけでなく、企業が賃上げできる環境作りをさらに進めることが大切だ。大手と中小企業の賃金格差は広がっている。中小・零細企業で働く者への目配りも課題だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921ddm003020144000c.htmlより、
クローズアップ2013:初の政労使会議 「3者協調」狙う首相 賃上げ、成果求め
毎日新聞 2013年09月21日 東京朝刊

 安倍晋三首相は20日、初めての「政労使会議」に臨み、経済成長を軌道に乗せるために協力を呼び掛けた。首相は、来年の春闘での賃上げ要請にまでは踏み込まなかったが、最優先課題のデフレ脱却には国民の所得アップが不可欠なため、経済界のトップに公の場で努力を求めた形だ。ただ、労使双方にはそれぞれ「政治介入」に警戒感がある。首相が唱える「共通認識の醸成」には時間がかかりそうだ。

 ◇連合、雇用見直し警戒
 「政労使の3者が胸襟を開いて議論を交わし、ともに成長の好循環を作っていきたい」。安倍首相は「胸襟を開いて」を2回繰り返し、会議を締めくくった。
 来年4月から消費税率を8%に引き上げる意向を固めた首相だが、景気の腰折れに、なお不安がある。消費増税に備えた経済対策を麻生太郎副総理兼財務相らと詰める一方、初の政労使会議を開いたのは賃上げを経済界に促す狙いがあった。
 首相は今年2月の経済3団体との意見交換会で「業績が改善している企業は報酬の引き上げなどの取り組みをしてほしい」と明言した。しかし、この日の会議は「具体的な賃金制度に関する課題はテーマにしない」と、甘利明経済再生担当相がまず断るところから始まった。政労使会議の開催を今春から探ってきた政府には「連合をテーブルに着けることに意味があった」(内閣官房幹部)ためだ。
 それでも、賃上げに直接言及するのを避けた首相の意向を代弁するかのように、経団連の米倉弘昌会長が「順次、報酬の改善に取り組んでいきたい」と表明。日本商工会議所の岡村正会頭も「中小企業へのアンケートによると、賃金を今期上げたところ、これから上げるつもりのところを合わせると60%を超す」と後押しした。
 「デフレ脱却には賃金を上げることも大事」。菅義偉官房長官は会議後の記者会見で、政府の意図を隠そうとしなかった。加えて、安倍政権には、賃上げの対価として、労働者派遣法の再改正や、一定の勤務地や職種で働く「限定正社員」の拡大、解雇の金銭解決など、企業側が求める規制緩和を進めたい思惑がうかがえる。民主党の支持母体である連合への揺さぶりだ。
 対する連合は、安倍政権との間合いを計りかねている。賃上げする企業が増えても安倍政権の得点とみなされる可能性が高いうえ、雇用ルールの見直しを安易に受け入れれば、組織率がさらに低下する恐れがある。それでも政労使会議に参加したのは、昨年の衆院選と7月の参院選で民主党が惨敗した今、要求を政策に反映させるには「政権との対話のチャンネルが必要」(連合幹部)だからだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921ddm003020144000c2.htmlより、
 連合の古賀伸明会長は20日、政労使会議に先立ち、東京都内のホテルで民主党の海江田万里代表らと会談、「労働分野の規制緩和が本格的に議論の場に上ってきた。雇用をしっかりすることが社会の基盤だという思いは民主党とも共通している」と、配慮をみせた。【東海林智、宮島寛】

 ◇経済界、過剰な期待にクギ
 「(政府が検討を進めている法人税減税が実現すれば)賃金が増えると思う」(米倉経団連会長)
 「成長戦略の早期実行が雇用や賃金アップにつながっていく」(岡村日商会頭)
 20日の会議後、経済界トップ2人は安倍政権との協調姿勢を強調した。
 経済界は従来「賃金水準は個々の企業の支払い能力に応じ、労使間で決めるもの」(米倉会長)と国の介入を警戒してきた。にもかかわらず、会議に協力姿勢を示した背景には「アベノミクス」による円高是正や株高が大企業を中心に業績改善につながっている上、法人税引き下げに動くなど企業支援に熱心な首相を「袖にはできない」(大手メーカー幹部)事情がある。
 一方で、経済界は首相の狙いがアベノミクスの成否を左右する賃上げ実現にあることも熟知。岡村会頭は会議終了後「経済成長し、企業収益が増えて初めて賃金が上がる」と、過剰な賃上げ期待にクギを刺すのを忘れなかった。
 労働者の賃金水準はバブル崩壊やデフレもあり、1990年代半ば以降、長期低落傾向をたどってきた。さらに、2000年代初め以降は国際競争力低下を嫌う企業の間で、賃金水準全体を底上げする「ベースアップ(ベア)」を行わない流れが定着。個別社員の仕事の成果に応じて給与を増減する能力給が普及し、企業業績が上向いた場合も社員全体への還元は一時金(ボーナス)増額にとどめる流れとなっている。首相は今春闘でも経済界に賃上げを呼び掛けた。しかし、トヨタ自動車が年間一時金要求に満額回答するなどボーナス増額は相次いだものの、ベアを実施したのはイトーヨーカ堂など大手流通業の一部にとどまった。
 日銀の異次元緩和に伴う円安で輸入に頼る食品、電気やガソリンは値上げが相次ぐ。来年4月には消費税率(現行5%)の8%への引き上げが予定され、「増税で生活必需品が値上がりする一方、賃金が十分に上がらなければ、中間所得層も苦境に陥る」(生活アナリスト)。政府は今後、賃上げ圧力を強めると見られるが、企業側は本格的な人件費アップに極めて慎重だ。【大塚卓也】

http://mainichi.jp/opinion/news/20130922k0000m070095000c.htmlより、
社説:規制委発足1年 プロとして実力高めよ
毎日新聞 2013年09月22日 02時34分

 原子力規制委員会(委員長以下5人)が発足してまる1年を迎えた。原発の新規制基準を策定し、原発敷地内の活断層調査に意欲的に取り組んできたことは評価したい。だが、東京電力福島第1原発(福島県)の汚染水漏れでは、規制委の及び腰な姿勢に批判も出た。原子力安全規制のプロとして、実力の向上と体制の強化に努める必要がある。
 新規制基準では、福島第1原発のような過酷事故対策や地震・津波対策の強化が盛り込まれた。7月の施行後、4電力会社の6原発12基から安全審査の申請があり、事務局の原子力規制庁(定員約530人)は職員約80人を審査にあてている。
 再稼働を急ぐ電力会社は審査の迅速化を訴えているが、厳格な審査が行われてこそ新基準は生きる。
 規制委の能力も問われている。
 規制委は昨年11月、改正原子炉等規制法に基づき福島第1原発の廃炉作業を監視する体制を整えた。しかし、貯水槽やタンクからの汚染水漏れを予測できず、対策指示は後手に回った。規制委のチェック機能に疑問符が付く事態で、田中俊一委員長は「じくじたる思い」と語った。
 汚染水問題は解決しておらず、福島第1原発では今後もトラブルが起きるだろう。廃炉作業を円滑に進めるためにも、規制委には「有事」の積極的な対応を求めたい。
 原発と活断層を巡っては、規制委の有識者調査団が日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)直下を活断層が通るとする報告書を作成。東北電力東通原発(青森県)の敷地内断層群も活断層と判定された。電力会社は反発しているが、規制委が推進側から独立した成果の一つだ。
 調査で有識者の意見が完全に一致するとは限らないものの、安全性を確保する立場から、規制委は「疑わしきはクロ」を貫いてほしい。
 原子力施設の検査や安全性評価を行う独立行政法人「原子力安全基盤機構(JNES)」の規制庁への統合も、規制委の懸案事項だ。政府はそのための関連法案を10月の臨時国会に提出する準備を進めている。
 統合後の規制庁は1000人規模になる。JNESは原子力の専門職員が多く、安全審査体制は強化されるだろう。一方で課題もある。JNESの職員の6割を50歳以上が占めていることだ。規制庁は博士号取得者や現場経験者の中途採用を実施しているが、規制当局としての実力向上には、若手職員の育成が急務だ。
 田中委員長は就任時の記者会見で「原子力の安全行政を立て直す」と述べた。この1年で安全行政の独立性と透明性は高まったと考えるが、まだ道は半ばだ。国民の信頼回復は今後の取り組みにかかっている。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130921/plc13092103060002-n1.htmより、
産経新聞【主張】原子力規制委1年 現実重視し「独尊」捨てよ
2013.9.21 03:06 (1/2ページ)

 原子力規制委員会の発足から1年が過ぎた。
 新設の契機となった東京電力福島第1原子力発電所の事故からは2年半の歳月だ。
 目下、国内に50基ある原発のすべてが停止している。規制委が今年7月にまとめた新規制基準に照らしての安全審査を終えた原発が1基もないためだ。再稼働の見通しが立ちにくい状態が長期化しつつある。
 その結果、火力発電の燃料代が膨張し、国富の流出を招いている。憂うべき状況だ。酷使された火力発電所の故障による電力供給の不安要素が増している。
 規制委設置法第3条では「我が国の安全保障に資する」ことも同委の「任務」のひとつに定められている。原発の安全確保は当然だが、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」(同条)も忘れないでもらいたい。
 原発の停止で電気代は上がり、二酸化炭素の排出が増えている。寒冷地での真冬の大規模停電は人命を脅かす。
 規制における良識が必要だ。規制委は「三条委員会」として高い独立性を保証されているのだが、唯我独尊の姿勢では、安全性と稼働率という、国の発展に必要な2大要素の両立が望めない。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130921/plc13092103060002-n2.htmより、
2013.9.21 03:06 (2/2ページ)
 原発敷地内の活断層調査では、有識者から、過去の安全審査に当たった専門家を排除するなど、著しく中立性を疑わせる事態が続いている。電力会社は“被告”ではない。規制委とともに、原子力利用における安全確保に当たるパートナーととらえるべきだ。
 だが、電力会社を呼んだ評価会合などでは規制委が一段高い所から一方的に宣告する印象だ。日本原子力発電敦賀原発の活断層をめぐる対応などで目についた。これでは説明責任を果たせまい。
 構成員5人の規制委では、有識者会合などの報告を承認するだけの場となりやすく、合議機能が不足しがちだ。原子炉や電気などの専門家を増やし、多角的な議論を深めることが必要だ。
 規制委の健全な発展には、その活動をしっかり監視する機関も不可欠だ。反原発への偏りなどは、あってはならないことである。
 規制委には、過酷事故防止の理想論だけでなく、原発の耐震性の向上などによる工学的な安全強化といった現実的な対応への理解が望まれる。規制至上主義では原子力の安全文化は育たない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092002000160.htmlより、
東京新聞【社説】規制委発足1年 設置の原点を忘れるな
2013年9月20日

 原子力規制委員会が発足して十九日で一年となったが、原点に対する思いが薄らいではいないか。東京電力の福島第一原発事故を教訓に二度と同じような惨劇を起こさないため、という原点を。
 「原子力への確かな規制を通じて、人と環境を守ること」。規制委が高らかに掲げる使命である。だが現実はどうか。フクシマの放射能汚染水漏れ対策は後手後手に回り、人の営みも、安心できる環境も守られてはいない。海外の厳しい視線も強まるばかりである。
 前身の原子力安全・保安院は原発を推進する立場の経済産業省の下に置かれ、「専門性の欠如等から規制する側が事業者の虜(とりこ)となった」(国会事故調査委員会報告書)との反省から、規制委は独立性や中立性、専門性の高い組織を目指したはずだ。七月に施行した原発の新規制基準は、過酷事故対策を義務づけ、地震や津波対策も大幅に強化し、運用次第では確かに世界で最も厳しいといえるかもしれない。
 しかし、断層調査などを見るかぎり、電力会社の調査頼みの部分も目立ち、自らの手で調べる調査能力の不足は否めない。人材や技術の確保は喫緊の課題である。
 自民党や経済界の多くが原発再稼働に前のめりの中、国民が規制委に期待するのは、何ものにも揺るがない「安全にかける厳しさ」だ。二度と郷土を放射能で汚してはならない、今ある危機を一刻も早く収束させて…。そんな切なる願いである。
 現在、稼働原発はゼロだが、すでに四電力会社が六原発計十二基について新規制基準の適合審査を申請中だ。最も危惧するのは、東電が柏崎刈羽原発(新潟県)を申請する構えを見せていることだ。
 東電は、破綻回避のためには柏崎刈羽の再稼働による収益改善が欠かせないとする。規制委は、申請があればあくまで柏崎刈羽の適合性を審査する考えだが、これは理解できない。フクシマの原因究明も総括もないまま、しかも汚染水対策ができない東電に原発を稼働させる資格があるか、という問題である。
 汚染水対策で国費四百七十億円が投入される。東電と何ら関係ない国民に負担を強いるのである。十九日に現地を訪れた安倍晋三首相は、あらためて国が前面に出る姿勢を示した。しかし、東電を破綻処理し、株主や金融機関、経営陣や行政の責任を問わなければ、国民の理解は到底得られまい。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO59890110Z10C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 信頼醸成へ原子力規制委はもっと努力を
2013/9/19付

  •  原子力安全の確保という重い責任を肩に原子力規制委員会が発足して1年。少ない陣容で原発の新規制基準の制定など大きな仕事をこなした。しかし福島第1原発事故で損なわれた安全規制の信頼回復はまだ途上だ。改めるべき点がいくつかある。
     規制委をつくる際に最も重要視されたのは独立性だ。旧原子力安全・保安院は原子力推進の経済産業省の傘下にあり、安全最優先の判断ができていなかったとの強い反省があったからだ。
     規制委は権限の強い「三条委員会」として発足、独立性と中立性の確保では前進があった。会議の公開も評価したい。
     ただ独立性を強調するあまり、電力会社や原発立地自治体などとの対話を欠いたのは反省点だ。相手がだれであれ、立場の違いをこえて信頼を得るには、自らの判断をていねいに説き異論にも耳を傾ける姿勢が求められる。信頼こそ安全規制の原点であり、対話抜きでは信頼醸成は望めないだろう。
     活断層評価から過去の安全審査に関わった専門家を排除したのは適切だったろうか。過去との決別を印象付けはしたが、結果として科学的な議論を深めることにつながったとは思えない。作業の進め方も場当たり的だ。活断層評価の基準や手順を整理すべきだ。
     規制委は「高い見識を備えた常識人」の合議が本来の姿だろう。細かすぎる議論は事務方に任せ、委員たちが一段高い総合的な見地から判断を下すのが望ましい。
     ところが、現状は合議制の長所が生きていない。委員が手分けして様々な会議で陣頭指揮をとり、委員会はそれぞれの結論について了解を得る場になりがちだ。田中俊一委員長には委員のありようを再考してもらいたい。
     また、福島原発の汚染水への対処で後れを取ったのは否めない。もっと早い段階で東京電力に強く警告を発していれば、問題の広がりを防げた可能性はある。目配りが足りなかった。
     規制委の課題の多くは事務方である原子力規制庁の人手と能力不足に起因する。独立行政法人の原子力安全基盤機構と規制庁の効果的な統合を急ぎ、内部の人材育成にも力を注ぐ必要がある。
     規制委自身が常に自己改革を続ける努力も必要だが、責任感と専門能力を併せ持ち、国民の信頼に足る組織に育てていくのは政府全体、政治の責任である。