政労使協議 「雇用全般を語る場に」

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 24 日(火)付
政労使会議―賃金デフレの根を絶て

 安倍首相の音頭取りで、政府と経営者団体、労働団体の代表からなる政労使会議がスタートした。
 来年4月の消費税増税までに賃上げ機運を盛り上げ、経済全体の好循環を促すのが安倍政権の狙いだ。来年1月ごろまで数回、開催するという。
 首相は今年の春闘で財界に賃上げを要請し、一部の企業が反応した。今度は春闘の仕込みの段階から働きかける。賃上げがアベノミクスの正否を左右すると思い定めているようだ。
 長く続く賃金デフレは労使双方、とりわけ経営側の心理的な惰性にとらわれた結果という面が否定できない。
 業績は改善しているが、賃金は上がらず、企業は内部留保をため込む。ここに政府が割り込み、空気を変えられれば意味があろう。
 好業績企業からは賃上げ容認論も出始めた。ただ、賃金デフレは根深い構造を持っている。しっかり斬り込まなければ、働く人々は将来に明るい展望は持てない。
 春闘の流れに乗るのはひとつの便法だが、その限界に縛られることでもある。今の春闘に非正規労働者や中小企業に賃上げが波及するメカニズムが欠けているなか、どう広がりを確保するのか。雇用の安定をどう実現するのか。そんな課題に政府は向き合ってほしい。
 賃金デフレ構造の根底には、内外市場で商品やサービスが競争力に劣るという経営面での弱みがある。ここから目を背け、人件費などのコスト削減にいそしむことが、要求度の高い株主たちに対する無難な対応とされてきた。
 経団連は人件費削減の「横並び」に余念がないが、そこに安住する危うさを自覚しなければならない。
 労働側も賃金デフレの構造強化に対して非力だった。もともと大企業の正社員が中心の構成で、バブル崩壊後に進んだ非正規雇用の激増に対応できなかった。とくに労働現場の賃金・処遇の実態をつかむ「情報力」を失った。
 これが労組の交渉力、すなわち問題の提起や解決の能力を衰えさせてきたといえる。
 連合は、中小企業や非正規企業への賃上げ波及を図るため、その処遇の実態把握にも努力し始めた。日暮れて道遠しだが、この道を進むほかない。
 労使双方とも政府の「介入」への警戒感がある。だが、労使自治をいうなら、これを機に自らの問題にまずは自らメスを入れることだ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130922/fnc13092203150000-n1.htmより、
産経新聞【主張】政労使協議 脱デフレへ共通認識持て
2013.9.22 03:15 (1/2ページ)

 日本経済再生に向けてデフレからの脱却を果たすには、企業収益の改善を通じた賃上げや雇用創出が欠かせない。それが個人消費を刺激し、ひいては企業収益の一段の拡大につながるからだ。
 こうした好循環を生み出すため、安倍晋三政権は経済界や労働界のトップと意見交換する政労使協議を始めた。官民が脱デフレの目的意識を共有し、建設的な議論を進めることで、自律的な経済成長を実現してほしい。
 安倍首相は初会合で「政府も好循環に向けて思い切った対応を検討する。産業界と労働界も大胆に取り組んでほしい」と、労使双方に賃上げへの協力を求めた。
 企業が従業員に対する賃金配分を増やすには、安定的な収益の向上が必要だ。政府は設備投資や賃上げを実施した企業に対する減税の創設や拡大を検討している。企業活力を引き出す規制緩和などにも積極的に取り組み、企業を後押ししなければならない。
 一方で企業側も業績改善に賃上げで応える姿勢が問われる。日銀統計によると、日本企業が保有する現金と預金は6月末で約220兆円で、この1年で8%近くも増えた。とくにアベノミクスによる円高修正で輸出企業の採算が回復しているのは追い風だ。
 設備投資を控え、人件費を減らす「守りの経営」では成長が見込めない。経済界は固定費上昇につながるベースアップ(ベア)の実施には慎重で「業績改善にはボーナス増で応える」との立場だが、個人消費の活性化には、毎月の手取りが増えるベアが必要だ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130922/fnc13092203150000-n2.htmより、
2013.9.22 03:15 (2/2ページ)
 企業収益の向上には労組の協力も不可欠だ。従業員の生産性を高める上で労働時間や勤務形態など雇用規制の緩和が課題だ。連合は従業員の待遇悪化につながりかねないとして規制緩和に反対している。もっと柔軟な姿勢で労使間で知恵を絞るべきだろう。
 労使の「横並び意識」の打破も賃上げの鍵を握る。春闘は産業別の労使で賃上げ交渉するが、体力のある企業も横並びで賃上げを抑制する傾向がある。支払い能力のある企業はもっと従業員に報いる姿勢を示してもらいたい。
 来年4月には消費税が増税される。家計負担を軽減するためにも官民が賃上げで協調することが求められている。年末まで開かれる政労使協議は、それぞれが役割を積極的に果たす場とすべきだ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092102000151.htmlより、
東京新聞【社説】賃金引き上げ 民の力を束ねるときだ
2013年9月21日

  政府と経済界、労働界による初の政労使協議が行われた。勤労者所得を増やしてデフレから抜け出す-が目的だ。経済界はやみくもな人件費削減を自戒し「民」の力を束ねて日本再生を担うべきだ。
 安倍政権は二〇一四年度に東日本大震災の復興特別法人税を一年前倒しで廃止し、法人税の実効税率も引き下げの検討を進める方針を打ち出した。しかし、企業優遇への慎重論は自民、公明の与党内でも根強い。
 中でも、高村正彦自民党副総裁は「法人税の実効税率引き下げは企業の内部留保を増やすだけ」と牽制(けんせい)している。復興税廃止は企業に九千億円の減税をもたらす一方で、同じ復興財源である所得税増税は二十五年間続く。いくら法人税減税を賃上げにつなげると説明しても、理解は得にくい。高村氏は国民の反発を警戒したようだ。
 確かに企業はリーマン・ショックのような有事に怯(おび)え、内部留保を二百兆円以上ため込んできた。従業員の人件費を削るなどして積み上げた資金であり、それを支えているのが低賃金で雇う派遣労働など、複数の働き方を組み合わせた「雇用のポートフォリオ」だ。 非正規雇用は一二年に初めて二千万人を突破し、雇用者全体の38・2%に達した。年収二百万円以下の勤労者も一千万人に上る。
 安倍晋三首相は二十日の政労使協議で「デフレ脱却への動きを賃金や雇用の拡大を伴う好循環につなげられるかが勝負どころ」と、来春闘を視野に米倉弘昌経団連会長らに賃上げを求めたが、企業側は「政府の介入は排すべき」と総じて冷ややかだ。賃上げを政府に委ねては労使間の秩序が崩れると、距離を置いているのだろう。
 しかし、労働力を必要に応じて調達する商品のように扱う現実を見過ごすわけにはいかない。経団連は「従業員が働きやすい環境を確保し、豊かさを実現する」と宣言している。いわば企業の社会的責任であり、それを貫く覚悟こそが求められるというべきだ。
 経営者は、折々に「経済の主役は民間」と胸を張る。ならば、安倍政権の異次元の金融緩和や財政政策に続いて、日本の成長を促す国内設備投資などの「第三の矢」は民間の出番のはずだ。行きすぎた円高は修正され、輸出関連企業などは収益を大きく改善しつつある。
 支払い能力のある企業は誠実に賃上げに応じ、勤労者を安心感で包む。経済の主役を任ずるなら、政府に頼らず隗(かい)より始めよ、だ。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60004130R20C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 持続的に賃金を上げていく道を考えよう
2013/9/21付

 政府と経営者、労働界の代表が景気回復への課題を話し合う政労使協議が始まった。安倍晋三首相はデフレ脱却には企業収益が家計に及んで所得が増えることが欠かせないとして、経営側に賃金引き上げへの協力を求めた。
 デフレ脱却へ賃金上昇が必要との認識はその通りだろう。ただ大事なのは、それが一過性に終わらず、持続的に所得が増えていくことだ。それには企業が生産性や成長力を高めなくてはならない。規制改革など企業が活動しやすい環境整備こそ政府の役割だ。
 政労使協議は首相や経団連の米倉弘昌会長、連合の古賀伸明会長らが参加し、20日に初会合が開かれた。賃金増を伴う経済の好循環をつくっていくための意見交換の場とするという。
 2012年の1人あたりの現金給与総額はピークの1997年に比べ1割以上減っている。賃金をいかに増やしていくかが大きな課題であることは確かだ。
 押さえなければならないのは、賃金増は企業が競争力のある製品やサービスを生みだすことが前提になり、民間企業自身で実現するものという点だ。政府は賃金を増やす企業の法人減税拡充も考えているが、企業の付加価値を生む力が高まり収益が伸びなければ、安定的な賃金増は見込めない。
 肝心なのは企業の行動だ。新しいビジネスモデルの創造など競争力強化へ手を打ってもらいたい。思い切ったM&A(合併・買収)も求められる。3月期決算の上場企業の手元資金は3月末で過去最高の66兆円に積み上がった。成長への投資に踏み出すときだ。
 経営者が企業家精神を発揮しやすくなるよう政府はやるべきことが多い。エネルギーや医療、農業分野などは規制の大胆な見直しが必要だ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では企業の海外直接投資などを促す自由度の高い協定づくりをめざしてほしい。
 賃金引き上げはその原資が企業によって異なり、各企業が労使の話し合いで決めている。政労使協議で賃金水準をめぐる論議をするのは現実的でない。
 政労使協議に求めたいのは職業訓練の充実など、成長分野へ人材が移りやすくしたり、職のない若者の就業を促したりするための議論だ。人が力をつけ、発揮できる社会にするにはどうしたらいいか。それを考え実行することが賃金を持続的に増やす確かな道だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921k0000m070132000c.htmlより、
社説:政労使会議 雇用全般を語る場に
毎日新聞 2013年09月21日 02時30分

 政府と経済界、労働者の代表が賃上げなど雇用をめぐる問題を話し合う政労使会議の初会合が開かれた。デフレ脱却に向け企業の賃上げが欠かせないとして、安倍政権が経団連や連合に働きかけて開かれた。
 賃金の水準は労使の話し合いで決めるのが基本だ。賃上げという働く者が待望している案件であっても、政府が過度に介入するのは禁じ手と言える。ただ、非正規社員の増加など労使だけで解決できない問題は広がっている。政府はむしろ聞き役に回り、目先の賃金にとどまらず、非正規問題、若者の雇用、女性の活用、中小・零細企業で働く者の格差是正といった雇用全般の将来を話し合う場にしてほしい。
 安倍晋三首相は今春も、経済3団体に賃上げへの協力を要請した。円安、株高を受けて業績好調な企業はボーナスを上積みしたが、首相発言に呼応して春闘で賃金体系を底上げする企業はごく一部にとどまった。
 アベノミクスで消費者物価を年2%引き上げる目標を掲げ、輸入品を中心に物価はじわじわ上がってきた。来年4月の消費税の引き上げも予定されている。給料がそのままなら国民の暮らしは確実に苦しくなる。消費意欲が衰えれば、アベノミクスは行き詰まってしまう。このため、安倍政権は賃上げした企業への減税の拡充など下支え策を検討してきた。さらに、企業収益の改善が着実に賃金や雇用の拡大に結びつくよう、来年の春闘の準備段階であるこの時期に協議の場を設けた。
 経団連は「賃金交渉は企業の支払い能力に応じて行うべきだ」との姿勢で、政府の関与には冷ややかだ。ただ、経営環境が全体として好転しているのも事実だ。経営者からも「業績が上がる見通しがつく企業は賃上げを考えていくことが重要だ」と前向きな発言も出てきた。
 企業規模や業種によって状況はさまざまだが、収益が急速に拡大している業種もある。長く抑えられてきた賃金の改善について、経営者が強く意識することが必要だ。
 労働組合側は賃上げの流れに異論はないだろう。ただ、労使だけで手がつけられない雇用問題にも目を向けることが必要だ。連合は春闘で非正規の正社員化や昇給制度の明確化、社会保険適用拡大などを要求項目に掲げた。こうした課題は政府も交えたルール作りが必要になる。この政労使会議で、雇用をめぐる幅広い課題の取り組みを深めてほしい。
 政府は、短期的な賃金改善を求めるだけでなく、企業が賃上げできる環境作りをさらに進めることが大切だ。大手と中小企業の賃金格差は広がっている。中小・零細企業で働く者への目配りも課題だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921ddm003020144000c.htmlより、
クローズアップ2013:初の政労使会議 「3者協調」狙う首相 賃上げ、成果求め
毎日新聞 2013年09月21日 東京朝刊

 安倍晋三首相は20日、初めての「政労使会議」に臨み、経済成長を軌道に乗せるために協力を呼び掛けた。首相は、来年の春闘での賃上げ要請にまでは踏み込まなかったが、最優先課題のデフレ脱却には国民の所得アップが不可欠なため、経済界のトップに公の場で努力を求めた形だ。ただ、労使双方にはそれぞれ「政治介入」に警戒感がある。首相が唱える「共通認識の醸成」には時間がかかりそうだ。

 ◇連合、雇用見直し警戒
 「政労使の3者が胸襟を開いて議論を交わし、ともに成長の好循環を作っていきたい」。安倍首相は「胸襟を開いて」を2回繰り返し、会議を締めくくった。
 来年4月から消費税率を8%に引き上げる意向を固めた首相だが、景気の腰折れに、なお不安がある。消費増税に備えた経済対策を麻生太郎副総理兼財務相らと詰める一方、初の政労使会議を開いたのは賃上げを経済界に促す狙いがあった。
 首相は今年2月の経済3団体との意見交換会で「業績が改善している企業は報酬の引き上げなどの取り組みをしてほしい」と明言した。しかし、この日の会議は「具体的な賃金制度に関する課題はテーマにしない」と、甘利明経済再生担当相がまず断るところから始まった。政労使会議の開催を今春から探ってきた政府には「連合をテーブルに着けることに意味があった」(内閣官房幹部)ためだ。
 それでも、賃上げに直接言及するのを避けた首相の意向を代弁するかのように、経団連の米倉弘昌会長が「順次、報酬の改善に取り組んでいきたい」と表明。日本商工会議所の岡村正会頭も「中小企業へのアンケートによると、賃金を今期上げたところ、これから上げるつもりのところを合わせると60%を超す」と後押しした。
 「デフレ脱却には賃金を上げることも大事」。菅義偉官房長官は会議後の記者会見で、政府の意図を隠そうとしなかった。加えて、安倍政権には、賃上げの対価として、労働者派遣法の再改正や、一定の勤務地や職種で働く「限定正社員」の拡大、解雇の金銭解決など、企業側が求める規制緩和を進めたい思惑がうかがえる。民主党の支持母体である連合への揺さぶりだ。
 対する連合は、安倍政権との間合いを計りかねている。賃上げする企業が増えても安倍政権の得点とみなされる可能性が高いうえ、雇用ルールの見直しを安易に受け入れれば、組織率がさらに低下する恐れがある。それでも政労使会議に参加したのは、昨年の衆院選と7月の参院選で民主党が惨敗した今、要求を政策に反映させるには「政権との対話のチャンネルが必要」(連合幹部)だからだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130921ddm003020144000c2.htmlより、
 連合の古賀伸明会長は20日、政労使会議に先立ち、東京都内のホテルで民主党の海江田万里代表らと会談、「労働分野の規制緩和が本格的に議論の場に上ってきた。雇用をしっかりすることが社会の基盤だという思いは民主党とも共通している」と、配慮をみせた。【東海林智、宮島寛】

 ◇経済界、過剰な期待にクギ
 「(政府が検討を進めている法人税減税が実現すれば)賃金が増えると思う」(米倉経団連会長)
 「成長戦略の早期実行が雇用や賃金アップにつながっていく」(岡村日商会頭)
 20日の会議後、経済界トップ2人は安倍政権との協調姿勢を強調した。
 経済界は従来「賃金水準は個々の企業の支払い能力に応じ、労使間で決めるもの」(米倉会長)と国の介入を警戒してきた。にもかかわらず、会議に協力姿勢を示した背景には「アベノミクス」による円高是正や株高が大企業を中心に業績改善につながっている上、法人税引き下げに動くなど企業支援に熱心な首相を「袖にはできない」(大手メーカー幹部)事情がある。
 一方で、経済界は首相の狙いがアベノミクスの成否を左右する賃上げ実現にあることも熟知。岡村会頭は会議終了後「経済成長し、企業収益が増えて初めて賃金が上がる」と、過剰な賃上げ期待にクギを刺すのを忘れなかった。
 労働者の賃金水準はバブル崩壊やデフレもあり、1990年代半ば以降、長期低落傾向をたどってきた。さらに、2000年代初め以降は国際競争力低下を嫌う企業の間で、賃金水準全体を底上げする「ベースアップ(ベア)」を行わない流れが定着。個別社員の仕事の成果に応じて給与を増減する能力給が普及し、企業業績が上向いた場合も社員全体への還元は一時金(ボーナス)増額にとどめる流れとなっている。首相は今春闘でも経済界に賃上げを呼び掛けた。しかし、トヨタ自動車が年間一時金要求に満額回答するなどボーナス増額は相次いだものの、ベアを実施したのはイトーヨーカ堂など大手流通業の一部にとどまった。
 日銀の異次元緩和に伴う円安で輸入に頼る食品、電気やガソリンは値上げが相次ぐ。来年4月には消費税率(現行5%)の8%への引き上げが予定され、「増税で生活必需品が値上がりする一方、賃金が十分に上がらなければ、中間所得層も苦境に陥る」(生活アナリスト)。政府は今後、賃上げ圧力を強めると見られるが、企業側は本格的な人件費アップに極めて慎重だ。【大塚卓也】

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