薄熙来判決 「依法治国」は貫かれたか

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60146490V20C13A9EA1000/より、
日経新聞 社説 政争と絡み合う中国「反腐敗」
2013/9/25付

 収賄などの罪に問われた中国・重慶市の元トップ、薄熙来被告(元重慶市共産党委員会書記)に対して、山東省済南市中級人民法院(地裁)は無期懲役の判決を言い渡した。薄元書記は控訴したが、判決が覆る可能性は小さい。
 中国では司法も共産党の指導を受けている。元書記に対する審判は、習近平国家主席(党総書記)をはじめとする指導部の政治的な意思の表れといえる。
 収賄の規模などから「懲役15年から無期懲役」の範囲内の判決になるとの見方が有力だった。その中で最も重い量刑となったのは、「反腐敗」運動を進める指導部の意欲を内外に印象づける狙いからだとみることができる。
 ライバル視されていた元書記の政治生命を断つことで権力基盤を強める思惑も、習主席にはあるようだ。ただ、元書記を支持する声は国内でなお根強く、政争の火種は尽きていない。
 習主席はじめ指導部は「反腐敗」運動を強める可能性がある。すでに「石油閥」と呼ばれる人脈にメスを入れつつある。最終的に、昨年秋に引退するまで最高指導部の一角を占めていた周永康・前共産党政治局常務委員まで追及が及ぶかどうかが、焦点だ。
 周氏は石油閥の頂点に立っていた実力者で、薄元書記の後ろ盾ともみられてきた。その処遇は習主席の権力基盤の強さを占うバロメーターといえるかもしれない。
 汚職の広がりに対する国民の反発は高まる一方で、「反腐敗」運動は共産党政権の求心力を立て直す効果が期待できる。半面、不透明な側面も目立ってきた。
 たとえば、共産党の高官を追及するのに通常の司法手続きと異なる党内手続きが先行することだ。その進め方が粗暴に過ぎるとの批判も出始めている。
 習主席は「公正な司法」の実現を訴えたことがある。だが「反腐敗」運動は、公正とはいいがたい手続きに頼らざるを得ないのが実情だ。共産党政権の直面する課題の難しさが、うかがえる。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130924/chn13092403070001-n1.htmより、
産経新聞【主張】薄煕来判決 真の法治社会実現は遠い
2013.9.24 03:06 (1/2ページ)

 収賄、職権乱用などの罪に問われた元中国共産党中央政治局員兼重慶市党委書記、薄煕来氏(64)に無期懲役、政治権利の終身剥奪、財産没収の判決が言い渡された。
 だが、結局は、汚職・腐敗の一掃を掲げる習近平体制が薄煕来事件をその見せしめに使うという「政治裁判」に終わった印象が強い。世界第2の経済大国にふさわしい法治社会の構築は、中国にとり急務だ。習指導部はそのことを銘記してもらいたい。
 薄氏は重慶市トップとして、毛沢東の文革的手法で暴力団撲滅運動を大々的に展開し、貧富の格差に憤る大衆や左翼知識人の支持を集めた。最高指導部(政治局常務委)入りも有力視されたが、部下らに巨額の腐敗や民営企業家からの資産強奪など自らの悪行を暴かれ、被告席に座らされた。
 問題は、党政府幹部の裁判が常に「政治裁判」に陥る点だ。
 判決によると、薄氏の収賄額は2045万元(約3億3千万円)、横領額は500万元(約8千万円)とされる。だが、事前の各種情報では、薄一族の蓄財は数十億ドル規模に上っていた。体制へのダメージを恐れ、訴追額をごく一部に限定したとみられる。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130924/chn13092403070001-n2.htmより、
2013.9.24 03:06 (2/2ページ)
 収賄・横領罪を重慶時代前の職にのみ適用したのも妙だ。「多くの有力民営企業家を極刑に処し巨額の資産を没収」(童之偉・華東政法大教授)したのにである。
 習副主席(当時)ら薄氏と同じ太子党(高級幹部子弟)・上海閥幹部が多く現地を訪れ、この大衆運動を称賛していたという不都合な事実があり、その問題に触れるのを避けたからのようだ。
 さらにいえば、薄氏糾弾の口火を切った温家宝前首相や習氏の一族の蓄財ぶりは海外で報じられながら、不問に付されている。
 中国では万事に党の意向が優先する。現在は習氏を総書記とする政治局常務委の決定次第だ。「法治」は名ばかりで実態は「党治」と「人治」にすぎない。
 歴代指導者は政敵の腐敗摘発を権力闘争に利用しつつ、自身と部下や周囲に甘かった。それがまた今の腐敗社会を生んだ。今回、裁かれていたのは、共産党体制そのものでもあったといっていい。
 その中国に真の法治社会を築くには、当面、共産党政権の枠外に権力の乱用や腐敗を監視・摘発する制度を設け、言論・報道の自由を保障することが不可欠だ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 9月 23 日(月)付
薄熙来事件―中国の弱さが見える

 中国を揺るがせた一大政治事件にひとまず区切りがついた。内陸の中心都市、重慶市のトップだった薄熙来被告がきのう、無期懲役の判決を受けた。
 問われた罪は収賄などで、一見、汚職事件ではあるが、その本質は荒々しい権力闘争にほかならなかった。
 市の共産党委員会書記だった薄被告がめざしたのは、党中央最高指導部への昇進だった。
 貧困層のための住宅建設や、毛沢東時代のような革命歌の運動。そうした異色の施策は、党幹部の腐敗に怒る多くの庶民を味方につけるためだった。
 そのうえで、経済成長を優先して格差拡大を放置した党中央に挑戦する手法をとった。
 そこで党中央は追い落としに奔走した。元書記自らも腐敗し蓄財していたのだから、刑事訴追の理由はこと欠かない。
 だが、立件した収賄額や横領額はごく一部に絞り込まれた。すべて掘り起こせば他の指導者に累が及び、党の権威が失われかねないからだ。
 党中央は裁判の正しさを演出するため、中国版ツイッターの中継で公開した。ところが元書記はそれを逆手にとり、裁判の政治性を公に訴えかけた。
 元書記のしたたかさがあぶり出したものは、中国政治の仕組みが抱える弱さではないか。
 毛沢東時代からトウ小平が1997年に死去するまで、国の中枢には建国神話にからむ人物がいた。前総書記の胡錦濤氏まではトウ小平の息がかかっていた。
 だが、そんな鶴のひと声は、もはや存在しない。新体制づくりの昨年の党大会に向けて、一介の地方指導者が中央昇進の野心に燃え挑んだことは、旧来の密室政治のほころびを露呈したといえる。
 中国共産党は、これまでのように水面下で権力の継承を決めようとしても、複雑に絡む争いや妥協を闇にとどめておくことは難しくなるかもしれない。
 ましてや、民衆の目は厳しさを増している。
 今も元書記を支持する人々は、重慶からはるか遠い山東省の裁判所周辺にまで現れた。89年の天安門事件以降、指導者に共鳴して民衆が声を上げることは久しくなかった。
 外から見る中国は富国強兵の道をひた走る大国と映るが、内なる中国はカリスマ不在の国家統治をめぐる底知れぬ難問に悩んでいる。権力の多極化と経済格差がもたらす不安は、これからもずっとぬぐえない。
 そんな中国の脆弱(ぜいじゃく)さをのぞかせる第二の薄熙来事件が、またいつ、起きるとも知れない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092302000124.htmlより、
東京新聞【社説】薄元書記判決 「法治」は貫かれたか
2013年9月23日

 巨額収賄などの罪に問われた中国・重慶市元トップの薄熙来被告(64)に、山東省の地裁は無期懲役を言い渡した。反腐敗への厳しい判決だが、司法の独立は保たれたとまでいえるだろうか。
 地裁は収賄、横領、職権乱用の罪について、無期懲役の判決を言い渡し、全個人財産の没収、政治権利の終身剥奪を命じた。
 薄被告が法廷で全面否認した起訴内容を、地裁はほぼすべて認めて、無期懲役とした。
 中国は二審制であり、薄被告は上訴する権利がある。だが、党籍はすでに剥奪され、政治権利も奪われた。薄被告の年齢も考えれば、政治生命は完全に失われたといえる。
 この裁判で最も注目すべきは、政争の敗者である被告に対する裁判で、政治色を持ち込まず、法治が貫けるかどうかであった。
 中国憲法は「共産党の指導」をうたい、一党独裁体制であることは言うまでもない。
 だが、一九九九年の憲法改正では、「依法治国」という法治国家の原則が追記されている。
 共産党機関紙、人民日報は結審を受け「法治的な発想で腐敗に反対する」とする社説を掲げた。
 裁判を見る限り、被告の親族や一般市民の傍聴が認められ、メディアへの説明会も開かれた。
 審理の公開性や透明性は一定程度、確保されたといえる。
 だが、公判は異例ともいえる五日連続での集中審理で進められ、結審から一カ月足らずでのスピード判決であった。
 党の重要会議である三中全会を十一月に控え、大衆動員の政治運動で権力闘争をしかけた「薄熙来事件」に、早く幕をひこうとした面はないであろうか。
 中国指導部は「トラもハエもたたく」と、高官であろうと汚職に厳罰でのぞむ姿勢を示した。
 元鉄道相には今年七月、六千四百六十万元(約十億三千万円)の収賄横領で、執行猶予付き死刑判決が言い渡された。
 地裁判決は、薄被告の収賄横領額を約二千六百万元と元鉄道相よりかなり低く認定し、無期懲役を言い渡した。
 いまだに一部国民に人気のある薄被告に死刑判決が出れば、社会の動揺を招きかねない。
 もし死刑を回避しつつ、政争の敗者である薄被告に、近年の政治局員経験者として最も重い見せしめ的な厳罰を科す政治の意志が働いたなら、司法の独立は保たれたといえない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130923ddm003030174000c.htmlより、
クローズアップ2013:薄被告・無期判決 習政権、腐敗撲滅を強調 根強い人気、残る対立
毎日新聞 2013年09月23日 東京朝刊

 中国でかつて共産党の最高指導部入りが有力視されていた薄熙来(はくきらい)被告(64)に無期懲役の判決が言い渡された。薄被告が上訴しても指導部の意向が反映された判決が覆る可能性は低く、習近平(しゅうきんぺい)指導部の最大の政治課題にいったんは区切りがつけられた。ただ、毛沢東(もうたくとう)をまねた手法で大衆を熱狂させた薄被告の政治路線は、保守派や貧困層の心の中に根強く残る。習指導部は薄被告の「幻影」との次なる闘争を迫られているようだ。【北京・石原聖、済南(山東省)工藤哲、上海・隅俊之】
 22日午前、山東省済南市中級人民法院。180センチを超える長身の薄被告は手錠をかけられたまま正面を向いた。薄被告を小さく見せる演出なのか、さらに背の高い制服の係官が両脇に立つ。「無期懲役」と聞いた際、薄被告はかすかな笑みを浮かべた。この様子は中国メディアを通して全国に放映された。
 「唱紅、打黒」(赤い歌を歌い、黒社会を一掃する)を掲げ、毛沢東をまねた手法でカリスマ政治指導者を目指した薄被告。当局が厳刑を言い渡した背景には、胡錦濤(こきんとう)指導部の時代からの課題に区切りをつけつつ、習近平現指導部が反腐敗への確固たる姿勢を訴えることで、権力基盤を強化する狙いがある。
 当局は、裁判を中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で中継して公正さと透明性を強調する一方、薄被告を「汚職まみれの政治家」と印象づけた。習氏が共産党総書記就任時に掲げた「虎もハエも一網打尽にする」という腐敗撲滅の立場をアピールした形だ。
 一方、裁判で問題視したのは、大連市や遼寧省時代の不正が中心で、重慶時代については職権乱用だけだった。薄被告は重慶時代、低所得者に配慮した政治を進め、庶民から強い支持を集めていただけに、重慶時代を問題視すれば、習指導部との路線対立が浮き彫りになると判断したためとみられる。
 指導部の次の課題は、薄被告を支持してきた「不平等・不公平に怒る市民」とどう向き合うかだ。
 この日、薄被告の支援者らが法廷近くに集まった。ただ、8月の初公判の時とは違い、動きは抑え込まれていた。
 「(経済格差のない社会を目指した)毛沢東を信奉している」「薄熙来は街の治安を良くし、不平等の解消を実践してきた。そういう政治家を厳罰にしていいのか」
 ある支援者はこう記者に訴えた直後、警官に連行された。
 格差や不公平感に不満を持つ人々からの薄被告への根強い支持がうかがえる。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130923ddm003030174000c2.htmlより、
 被告が「私は無実だ。真実はいつの日か明らかになるだろう」と主張したとされる手紙が判決前にインターネット上に出回った。ネット管理部門にも薄被告に同情する幹部がおり、見逃した可能性も否定できない。
 薄被告の呪縛から、習指導部はどう逃れようとしているのか。その一つの手段が「虎(=大物)」の摘発だ。
 習指導部は、腐敗に絡む大物摘発を示唆し続けている。政権は既に腐敗の温床となってきた石油業界にメスを入れた。調査を受けているのは、薄被告の後ろ盾と目されてきた周永康(しゅうえいこう)前常務委員の人脈でもある。「外からは国有企業改革を進めているように見えるが、実際は薄被告につながる人脈を潰すことに主眼が置かれているのではないか」。日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の佐々木智弘・副主任研究員はこう分析する。
 11月には共産党の第18期中央委員会第3回総会(3中全会)が開かれる。ここで、習指導部は反腐敗と経済改革の深化を打ち出し、求心力を高める構えとみられる。事件が残した後遺症をどう拭い去るか、その結果が明らかにされる。

 ◇極刑回避 政治的思惑か
 判決は2044万7376元の収賄罪と500万元の横領罪を認定した。妻谷開来(こくかいらい)服役囚の英国人実業家殺害への捜査阻止や、元腹心の王立軍(おうりつぐん)元重慶市副市長による米総領事館駆け込み事件に絡む職権乱用罪についても、薄被告に「重要な原因がある」と責任を認めた。
 法院は量刑を▽収賄罪=無期懲役・政治権利の終身剥奪・全財産の没収▽横領罪=懲役15年・個人財産100万元没収▽職権乱用罪=懲役7年とし、これらを合わせて無期懲役・政治権利の終身剥奪・全財産の没収とした。
 司法の独立がない中国では、権力闘争に絡んだ政治案件に対する量刑は共産党指導部が決めるとされる。
 薄被告は審査段階で認めた罪を公判では一転して否認。国家権力と全面対決する姿勢を鮮明にしていたが、法院は「証拠は確実・十分」と有罪を認定した。政治局委員経験者に対する判決としては、2008年の陳良宇(ちんりょうう)元上海市党委書記(懲役18年)よりも重くなった。
 一方、薄被告の収賄・横領の合計額は2544万元強で、その額は、死刑判決を受けた劉志軍(りゅうしぐん)元鉄道相(6460万元)や成克傑(せいこくけつ)元全国人民代表大会副委員長(4109万元)に続く。「収賄額が大きく死刑に相当するのに軽い判決となった。政治的な要素が考慮された」。徐湘林・北京大学政府管理学院副院長はこう指摘する。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130923ddm003030174000c3.htmlより、
 薄被告の今後について、華東政法大の童之偉教授は「上訴しても1審で認定された内容を否定する新たな材料を提出するのは難しく、判決を覆すのは難しいだろう」と分析する。
 今回の判決について、国内では中国版ツイッター「微博」を通して、さまざまな声が上がっている。
 「公正な法治を反映したものだ」「まだ摘発されていない汚職官僚たちは覚悟すべきだ」「何年かすれば減刑される」
 一方で、薄被告を支持する書き込みが削除されたとの情報もある。
 市民の間には、一連の裁判に対して「見せ物に過ぎない」と冷めた意見が目立つ。「判決は党が決める。薄被告の判決も、(決めたのは)裁判所ではなく政治局常務委員だ」と皮肉る意見も記されていた。

 ◇「日中改善に寄与」 全国研究者の会発足
 中国研究に取り組む日本人研究者らが日中関係の対立緩和に寄与することを目指す「新しい日中関係を考える研究者の会」(代表幹事=毛里和子・早稲田大名誉教授)が22日発足し、東京都内で初会合が開かれた。毛里氏は同日、「尖閣諸島を巡る衝突をきっかけとした対立に研究者たちが強い懸念を抱いている」と述べ、昨年来滞りがちな日中間の学術交流の正常化などを呼び掛けた。
 会には全国の大学や研究機関の研究者など約150人が参加。学術的知見の提供を通して、両国政府・国民の信頼関係の構築を進め、和解への道を探る活動などに取り組む。研究会の開催や文書・書籍の出版などを想定している。【林哲平】

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