記者の目:東京五輪招致 竹内良和氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130926k0000m070130000c.htmlより、
記者の目:東京五輪招致=竹内良和(社会部)
毎日新聞 2013年09月26日 00時58分

 ◇社会の質を変える力に
 2020年夏季五輪開催地決定に向け、大詰めの招致レースを取材した。開催地に決まった東京には期間中、延べ約1000万人が訪れ、経済効果は3兆円に及ぶとされる。「世紀の祭典」が子供たちに与える夢も大きいだろう。この国の閉塞(へいそく)状況を打開するチャンスとして期待は高まる。一方で、最後まで開催理念が見えず、「なぜ、東京で開くのか」という疑問をぬぐい切れなかった。五輪を通じ、改めて東京と日本の未来像をしっかり描く必要がある。
 東京のライバルだったトルコ・イスタンブールは「イスラム圏初の開催」という新鮮な理念を掲げたが、反政府デモで失速、スペイン・マドリードも経済不安がつきまとった。東京が大会運営能力の高さのPRで押し切れたのは、多分に幸運だったといえる。
 「交通網が整備され、誰もが時間通りに目的地に到着できる」「昨年、現金3000万ドル以上が落とし物として東京の警察署に届けられた」「フェアプレーを尊ぶ日本のファン」。アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会の最終プレゼンテーション(招致演説)で、東京の登壇者は熱弁を振るった。
 どれもが日本の素晴らしい長所だ。世界各国のIOC委員が東京の演説に聴き入る姿に、日本人の一人として誇らしさも感じた。だがこれらは開催理念にはなり得ない。

 ◇あやふやな理念、総会直前に露呈
 総会直前になり、理念のあやふやさが露呈した。現地の記者会見では、海外メディアから東京電力福島第1原発事故の汚染水漏れ問題に懸念を示す質問が集中した。東京招致委員会の竹田恒和理事長は「福島から250キロ離れており、皆さんが想像する危険性は東京にない」と弁明。福島県民から「東京が安全ならいいのか」と反発を買った。東日本大震災からの「復興五輪」を掲げた東京の本心を疑われかねない一幕だった。
 結局、招致演説ではマイナス印象を与えかねない原発事故や震災の実相にはほとんど触れず、安倍晋三首相も「(第1原発の)状況はコントロールされている」と強弁した。理念が置き去りにされたまま、祝賀ムードに沸く国内の風潮には違和感を抱く。
 20年五輪と、高度経済成長期に開かれた1964年東京五輪を重ね合わせた人も多いはずだ。「アジア初」だった前回は、戦災からの復興を遂げた街に東京タワーや首都高速が姿を現し、東海道新幹線も開通した。カー(自動車)、クーラー、カラーテレビが「新三種の神器」として庶民の憧れだった時代だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130926k0000m070130000c2.htmlより、
 だが、今度は「成長社会」ではなく「成熟社会」で五輪が開かれる。インフラが整う一方、少子高齢化が進み、膨張を続けた東京の人口も、五輪があるころをピークに減少に転じると予測されている。
 五輪を当て込み、都内では早くも鉄道や道路の新たな整備を求める声が上がり始めた。成田と羽田両空港を結ぶ「都心直結線」の構想が注目を集め、競技会場が集中する江東区では地下鉄新線整備への思惑も広がる。だが都心で大型事業が進めば、建築資材や作業員が慢性的に不足する被災地の復興の足を引っ張りかねない。「またも東京の独り勝ちか」。宮城のある経済人は指摘する。これも「復興五輪」の理念のあいまいさが生んだ皮肉の一例だろう。

 ◇スポーツ基盤に地域社会を復活
 成熟社会の下で開かれる東京五輪を通じて、どんな未来を描けばいいのか。被災地の仙台市に本拠を置くJリーグ・ベガルタ仙台の白幡洋一社長は「スポーツをプラットフォーム(基盤)に、コミュニティー(地域社会)とコミュニケーションを復活させたい」と提案する。
 岩手、宮城、福島の3県では今も約23万人が避難生活を強いられ、仮設住宅で孤立している人も多い。その被災地は、五輪の外国人選手団の合宿地やサッカーの予選会場になる。世界のアスリートが集う機会を生かして誰もがスポーツに親しむ土壌をつくり、震災や高齢化で失われてしまった地域や人の絆を取り戻したいとの考えだ。
 大都市での孤立も深刻だ。若者のひきこもりや、高齢者の孤独死が相次いでいる。日本中で、五輪をきっかけに、地域社会を再生する取り組みがあっていい。大手広告代理店の調査によると、スポーツに打ち込む人ほど地域活動に熱心だという。
 スポーツには、人々を結びつけ、社会の質を変える力があるはずだ。ぼんやりした期待感に酔いしれているだけではなく、開催地として成熟社会にふさわしい理念を掲げていきたい。

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