週のはじめに考える 「不安を乗り越えるには」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013092902000122.htmlより、
東京新聞【社説】週のはじめに考える 不安を乗り越えるには
2013年9月29日
3・11から二年半。誰もが原発災害の再発を恐れています。なのに、なぜ…。私たちの不安と不信は、私たち自身の力で乗り越えるしかありません。
東京・原宿。表参道の交差点に近いオフィスで、安全・安心研究センター長、東京女子大名誉教授の広瀬弘忠さんに、原発のリスクに関する最新の調査結果を聞きました。
専門は災害・リスク心理学。二十年前から、原発や核廃棄物、地震や地球温暖化などに対する意識調査を同じ手法で続けています。
最近の二回、今年三月と八月の調査は特に、福島第一原発事故が一向に収まらない中で、原発推進に積極的な安倍政権がなぜ七月の参院選に大勝したか、その背景を探る意味合いもありました。
大都市、中小都市、農村、漁村など全国二百地点を抽出し、十五歳から七十九歳までの男女約千二百人に質問用紙を直接配って調査した。
米仏と共同で調査を始めた当初、日本では、原発や核廃棄物が社会に対するリスクではあるけれど、個人、すなわち自分自身にとってのリスクという感覚が鈍いのが気がかりでした。
しかし3・11以降、「原発は一つ間違えば、社会的にも個人にとっても、非常に危険なものになるという危機感が定着した」と広瀬さんは考えます。
八月の調査結果は次の通り。三月とほとんど一致します。
◆終息などとんでもない
東日本大震災で最も深刻な被害を与えたものは何か、という質問に、59・9%が原発災害、と回答し、津波や地震を大きく上回っています。
福島第一原発の現状では、全く終息していない、と答えた人が51・3%で前回とぴったり同じ。ほとんど終息していない、を合わせると、95%に上る。
政府が言うコントロールもブロックも、全然信用されていないのが分かります。
各地の原発再稼働で福島第一原発と同じ程度事故が起きる可能性について、起こる、という答えは25・5%と前回よりも3ポイントほど増えています。たぶん起こる、という回答は55・7%で、合わせて八割以上に上っています。
その理由として、地震、津波、テロなどが挙がっています。
国の原子力事故対策は、全くできていない、も33・4%と、前回の27・1%より増えている。あまりできていない、と答えた人を合わせると、九割を上回ります。
原発の未来について、直ちにやめるべき、が31・4%と前回より微増、再稼働を認めながら段階的に縮小すべき、が51・9%という結果です。
大規模な原発災害が発生した場合には、自分自身も深刻な健康被害を受けると答えた人は、七割以上に達しています。
これらの数字はどう見ても、原発に対する人々の依然として強い不信と不安、そして忌避感を示しています。なのにどうして、選挙では原発に積極的な政権が選ばれたのか。
調査結果を続けましょう。
参院選の結果が日本の原発政策に影響を及ぼす、と答えた人は48・5%と半数を割っています。投票をするときに何を最も参考にしたか、では、政党のイメージが25・0%、原発政策は5・1%にすぎません。
はっきりした理由はないけれど、何となく、が11・4%に上っています。
このずれは、何なのか。
読み取れるのは、選挙や政治に対する期待の薄さです。
原発災害は恐ろしい。かといって、選挙や政治は当てにできないし、期待しない。そんなあきらめの深さです。
◆安心安全は自らの手で
私たちは安全よりも原発を、安心よりも経済を、積極的に選んだわけではないようです。
心にたまった不安を自らぬぐい、持続可能な社会へ向かうため、選挙と政治、そして民主主義の価値や力を、見直してみる必要もありそうです。