TPP交渉参加表明 「ルール作りを担えるか」

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52904980X10C13A3PE8000/より、
日経新聞 社説 「猫の目農政」の過ちを繰り返すな
2013/3/17付

 これまでの農業政策の問題点は、競争力を高める基本戦略を打ち出してもそれを実現するための政策がちぐはぐだったり、すぐに変更してしまったりすることだ。
 安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決め、コメなどの農業を守れという声がさらに高まるのは確実だ。政府は構造改革を遅らせる横並びの保護に流されず、農業を強くする意志をつらぬいてほしい。

強化戦略をつらぬけ
 ころころ変わる農業政策は「猫の目農政」と呼ばれ、たびたび農家や市場を混乱させてきた。昨年末から深刻になった日本そばの主原料、玄ソバ(ソバの実)の価格急落もその一例だ。
 玄ソバの国内消費量は年10万トンほどで、その7~8割を中国産などの輸入品が占める。政府は国内生産を増やし、自給率を高めようと2011年度からソバを戸別所得補償制度の対象にした。
 思惑通り、ソバの作付面積や生産量は急拡大した。だが、国産が増えればすんなり輸入品から置き換わると考えた政府の読みは甘かった。現実は、国産原料への切り替えをためらう製粉会社が少なくない。一因とされるのが政策への不信感だ。
 民主党政権が導入した戸別所得補償制度は、経営所得安定対策と名称を変えて13年度も継続する。ただ、政府は14年度以降について見直しの方針だけを示し、詳細は決まっていない。
 企業は国産に契約を切り替えても、ソバの優遇策がなくなって供給量が減れば、また品質の違う輸入品に戻さなければならない。市場を見ず、一貫性を欠いた政策運営は、供給過剰による価格急落という農家も戸惑う混乱を招いた。
 政策運営がふらつくのは、政府の意志が弱く、農村票を意識した政党の圧力に揺さぶられるからだ。これでは農家はどちらを向いて進んでいいのか分からず、将来への不安が増す。
 農業政策の基本は農業の競争力や収益性を高め、魅力ある産業にすることだ。農業経営を安定させるための支援策も、意欲のある農家を後押しし、農業の強化につながる設計にすべきだ。
 自民党が戸別所得補償の代替として考えている支援策は、農地を農地として維持することを目的としており、現状以上に横並び保護色の濃い政策になってしまう懸念がある。政府は農業の強化の足を引っ張らない仕組みを工夫してほしい。
 1993年にコメ市場の部分開放が決まった際、政府は6兆円規模の農業対策に踏み切った。その多くは農村整備などの公共事業に向けられ、肝心の農業の強化に結びつかなかった。この過ちも繰り返してはならない。
 TPP交渉で政府はコメ、砂糖などの分野を「聖域」として守り抜く方針だ。米国やオーストラリアに比べコスト競争力で大きく劣るコメなどが、短期間で大きな影響を受けないようにする対策は必要だろう。

消費者利益忘れずに
 だが、忘れてならないのは、農産物を買う消費者の利益だ。政府は関税が撤廃されたら国内農業がこれだけ被害を受けるという試算を示した。コメ、小麦などの高関税を維持し、国内価格が高止まりする場合に、消費者や企業にどれだけ負担がかかるかについても丁寧に説明すべきではないか。
 東京大学の本間正義教授は「先進国では総支出に占める食費の割合が低く、消費者は農業保護のための負担を意識しにくい。その結果、政策は消費者不在の中で、農業団体の声を受けた保護に傾きやすい」と指摘する。
 日本酒の大手は米国での生産量を拡大し、米国やカナダ、南米といった伸びる市場に日本酒を売り込む。原料に使うコメはカリフォルニア産の酒米だ。
 日本の酒米が安ければ国内生産を増やし、輸出を軸に海外市場を開拓する選択もあったはずだ。価格下落を防ぐ農業の保護政策がマーケットを失う典型例といえる。
 強い農産物の代表格である野菜にも中国産は食い込む。食品会社などには、タマネギの皮をむいた状態などでの供給にも対応してくれることが魅力になっている。
 消費者や企業が何を求めているかを探り、売り方を工夫することも付加価値になる。日本の農業が学ぶべきことだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 3月 16 日(土)付
TPP交渉―ルール作りを担うには

 安倍首相が、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加すると表明した。
 TPPでヒト、モノ、カネ、技術、情報の流れを活発にし、アジア太平洋地域のさらなる発展を促す。その活力をわが国も取り込んで、デフレと低成長からの脱却につなげる。
 それが基本戦略だ。
 世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥り、通商交渉の中心は、国同士や地域ごとの経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に移っている。
 世界経済を引っ張るアジア太平洋地域で、どんなルールを設定し、世界に広げていくか。
 それは、世界第2の経済大国となった中国との主導権争いの色彩も帯びる。
 中国は、日本がTPPに関心を示した後、日中韓FTAに前向きな姿勢に転じるなど、TPPに神経をとがらせる。
 自由貿易の原則と相いれない面がまだまだ残る中国に改革を促し、公正な貿易・投資体制に巻き込んでいくうえでも、TPPは大きな武器になる。
 中国を含むFTA、EPA構想とTPPの結節点にある経済大国として、日本はTPP交渉をまとめあげる責任を負う。
 ところが、現状ははなはだこころもとない。
 首相は日米首脳会談で「日米両国とも貿易で一定の配慮が必要なものがある」との共同声明をまとめた。「聖域なき関税撤廃ではない」ことを示し、TPPに猛反対する農業関係者の理解を得る狙いだったが、米国は日本からの輸出の柱である自動車への関税を存続させる意向を示し、逆手に取った。
 自民党内は「聖域」論議一色だ。党の対策委員会による決議づくりでは、農林水産業をはじめ、守るべき分野の議論ばかりが目立った。
 TPP交渉の対象分野は20を超える。当然、日本にとってメリットばかりではなく、特定の産業への打撃が心配なテーマも少なくない。
 全体としての利害得失を分析し、影響が避けられない分野については必要な対策を見極めて実行していく。そうした姿勢こそが必要だ。
 安倍氏は「受け身でなく、ルールをつくる国でありたい」と強調する。
 「聖域ありき」では受け身でしかない。足元を見られて他の分野で不利益を招きかねない。
 TPPを着実に進めるとともに、国内産業の足腰を強くする規制・制度改革を連動させて、日本経済を再生させなければならない。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130316/fnc13031603090000-n1.htmより、
産経新聞【主張】TPP交渉参加 「未来の繁栄」の突破口に 離脱の選択肢はあり得ない
2013.3.16 03:09 (1/3ページ)

 安倍晋三首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明し、「アジア太平洋の未来の繁栄を約束する枠組み」と述べた。TPP参加は、日本が抱える長期デフレ、少子高齢化による内需縮小、国際競争力の低下などの難題を突破する切り札として期待できる。
 まだ、交渉の場に立ったにすぎないとはいえ、大きな一歩を踏み出したことを歓迎する。
 自民党内の反対が強いTPP交渉への参加は、政権発足時に「7月の参院選後」と予想された。それに比べると大幅な前倒しだ。2月の日米首脳会談で「全ての関税撤廃を約束するものではない」との共同声明を発表した後、高い支持率を背景に一気に党内をまとめた首相の決断を評価したい。

規制改革のテコにせよ
 もちろん、楽観は全く許されない。交渉を進める11カ国による承認手続きなどは進んでいる。実際に日本が交渉に加わるのは、早くても7月ごろとみられ、出遅れは覆うべくもない。
 多国間交渉では、先行グループが後から加わった国よりも有利なのは当然だ。日本が出発点から不利な状況にあることは甘受せねばなるまい。首相がいう「民主党政権にはない自民党の交渉力」が試されるのは、これからだ。
 アジア太平洋を舞台に、農産品や工業製品など幅広い分野で関税を撤廃し、サービス、投資などでも共通のルールをつくるのがTPPだ。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130316/fnc13031603090000-n2.htmより、
2013.3.16 03:09 (2/3ページ)
 日本を加えた12カ国の国内総生産(GDP)は約27兆ドル、全世界のGDPの4割を占める。しかも、この巨大な自由貿易圏は今後さらに成長が見込まれる。日本のGDPを3・2兆円押し上げるともいう。
 人口減時代を迎え、国内市場の拡大が難しい日本は、その活力を取り込み、外に向かって経済を開く契機にしなければならない。
 TPPのルールづくりの過程で日本国内に存在するさまざまな無用の規制があぶりだされれば、安倍政権の「脱デフレ3本目の矢」となる規制緩和を中心とした成長戦略のテコにもなるだろう。
 だが、こうした通商政策、経済活性化策としてとらえると同時に、中国をにらんだ戦略的な意味に、目を向けるべきだ。
 首相がTPPを「同盟国である米国とともに新しい経済圏を作る」と位置づけたのは重要だ。
 中国は、その経済力と軍事力を背景に、アジア太平洋地域への影響力を強めている。中国抜き、米国主導のTPPへの参加は、同地域の経済秩序を、中国の覇権ではなく、日米豪などを中心とした自由主義経済の枠組みとし、共有することにほかならない。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130316/fnc13031603090000-n3.htmより、
2013.3.16 03:09 (3/3ページ)
 オバマ政権は中国を見据えたアジア太平洋戦略の中核にTPPを据えている。日本と米国が結束し、TPPの存在感を高めれば中国牽制(けんせい)の効果も持つだろう。

対中戦略の意味大きい
 中国もTPPを警戒しているのは間違いない。それは当初、消極的だった日本、韓国との自由貿易協定(FTA)や東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸とした東アジア包括的経済連携(RCEP)に意欲的になったのが、米国のTPP参加の動きが出てきた後だったことを見ても明らかだ。
 民主党政権の菅直人元首相が参加検討を表明して約2年半、TPP反対論は収まらない。とくに農産品の関税撤廃を警戒する農業団体、国民皆保険制度の崩壊につながりかねないと主張する日本医師会など自民党支持団体の強い抵抗は今後も続くだろう。
 主張すべきは主張し、守るべきは守り、譲るべきは譲る。これは全ての外交交渉に通じる姿勢だ。そのさい常に国益に資する判断を行わなければならない。
 強調しておかねばならないことがある。自民党はTPP交渉参加に関する委員会の決議で、聖域(死活的利益)確保を最優先し、それができないならば離脱も辞さない、としたが、日本にとってTPPに加わらない選択肢はあり得ないということである。
 これまでのTPPをめぐる議論は参加のメリット、デメリットに終始し、貿易立国や対中戦略の観点からほとんど語られなかった。首相が提起した「アジア太平洋の安全への寄与」という視点で国内議論を深めていけば、おのずと「TPP参加」は正しいという結論が導かれよう。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013031602000133.htmlより、
東京新聞【社説】TPP参加表明 公約に違わぬ交渉貫け
2013年3月16日

 安倍晋三首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。日本はコメを含む「聖域なき関税撤廃」という前提をどう突き崩すのか。国民との約束に違(たが)わぬ交渉を貫くよう求める。
 TPP参加に伴い、輸出増などで国内総生産を三・二兆円押し上げる一方で、安い穀物輸入などが増え農林水産業の生産額(現在約八兆円)が三兆円減少する。政府の試算だ。農業団体などの反対を押し切り、首相が交渉参加を決断した理由は何か。
 「この機を逃せば貿易のルールづくりから取り残される」という首相の発言に表れている。TPPは台頭する中国の東南アジア接近を警戒するシンガポールを中心に四カ国が二〇〇六年に締結した。
 ルールづくりは百五十を超える国・地域が加盟する世界貿易機関が担ってきたが、中国などの反対で機能不全に陥った。そこでTPPに合流したのが中国への警戒心を共有する米国だ。現在、十一カ国が交渉を続けており、成長するアジア経済の主導権を中国に渡さないための陣取り合戦でもある。
 米国は欧州連合(EU)と自由貿易協定の交渉開始で合意した。日本-EUも近く交渉入りし、新ルールづくりが一気に加速する。
 オバマ米大統領はTPPについて「アジアへの輸出を増やし、米国の雇用を守る」と語った。中国にはルールづくりに手を触れさせず、人口十三億人の巨大市場には深く食い込んでいく。そして、ゆくゆくは中国をTPPのルールの下に引き入れる思惑も秘める。
 日本もルールづくりに加わると表明した首相は、どう交渉に臨むのか。首相はオバマ氏との先月の首脳会談を「聖域なき関税撤廃が前提でないことが確認された」と評価し、事前協議で米国が日本などからの輸入車に課す関税を当面は据え置くことを受け入れた。
 貿易交渉は自由化が難しい産品の例外を認め合う場でもあるが、高水準の自由化を主張する米国自らが早々と例外扱いの道をこじ開けるようでは不条理に映る。日本は遅れて参加したカナダ、メキシコと同様に、他の交渉参加国から「合意済み条文の原則受け入れ」を迫られかねない。後ずさりせずコメの例外扱いなどを強く求めるべきだ。
 自民党は昨年の衆院選で「(コメなどの)関税撤廃が前提なら交渉には参加しない」などの公約を掲げ政権を奪還した。首相のいう足元の約束がぐらつけば、日本が不利益を被ることになる。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52866740W3A310C1EA1000/より、
日経新聞 社説 TPP交渉 「守る」から「築く」へ
2013/3/16付

 安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。国内にくすぶる保護主義の声を抑えて、日本経済の開放と改革にカジを切った首相の決断を評価したい。
 人口が減る日本が将来にわたり経済成長を続けるためには、世界に打って出なければならない。米国と連携を深め、世界の成長の中心となった東アジアと結合を強めてこそ、日本は本来の力を発揮できるようになる。

日本の国益とは何か
 TPPは、そのための最も強力な枠組みである。もちろん制度や商慣行がバラバラの国々を束ねて共通の通商秩序を描く交渉は、簡単ではない。各国の複雑な利害を乗り越えて協定をつくる強い意志と実行力が要る。
 米国の推進力は欠かせない。だが、米国の腕力だけで成し遂げられる仕事でもない。巨大な米国が東南アジアや中南米の小国に対して一方的に要求を突きつけるだけでは、信頼に基づく連携の輪は広がっていかないだろう。
 高い水準の自由化を目指すTPPの理念を日米が共有し、新興国に働きかけなければ、各国の歩みは加速しない。アジアの一員である日本が加わり、はじめてTPPは21世紀型の新しい貿易・投資ルールの「ひな型」となる。日米が同盟の絆を強めて足並みをそろえ、TPPを動かす双発エンジンとなるべきだ。
 安倍首相は記者会見で、その覚悟を示した。だが自民党内の動きを見るかぎり不安も残る。国益という大義名分の下で、関税撤廃を免れる「聖域」の議論ばかり目立つからだ。内向きの発想で、競争力が弱いまま農業を保護し続けるのが国益ではないはずだ。
 日本経済の発展を真剣に考えるなら、外に向かい目を開かなければならない。工業製品だけでなく農産物を含む日本の産品と、日本の人材、投資資金が自由に動ける舞台をつくることこそが国益である。発想を「守る」から「築く」に切り替えるときではないか。
 遅れて交渉に加わる日本が不利な条件を課されると心配する声がある。日本の参加で合意が遅れるとの見方もある。安倍首相は万全の交渉体制を整え、各国との意思疎通を密にして、これらの疑問にこたえる必要がある。
 交渉の焦点は、モノの関税撤廃だけではない。知的財産権、技術の基準・認証、投資、国有企業の改革、サービス貿易、競争政策、環境、労働など、さまざまな分野がある。いずれも、現在の通商秩序の土台である世界貿易機関(WTO)の協定に、十分に盛り込まれていない領域だ。
 日本は駆け足で追いつき、これらのルール策定の作業に一日も早く参画しなければならない。日本にとって関税撤廃による輸出拡大の経済効果は大きいが、新領域のルールづくりには、それ以上の大局的な意味があるからだ。
 TPPへの取り組みで、安倍政権が念頭に置くべき国際情勢は、中国の台頭である。中国は経済と軍事の両面で膨張を続け、東アジア各国への影響力を強めている。国有企業による市場支配や、レアアースをはじめとする資源の輸出規制など、他国との共存共栄よりも自国の利益を優先する「国家資本主義」が際立っている。

ルール大競争時代に
 中国を代表格とする新興国の独自路線は、日米欧の先進国が築いてきた自由貿易体制を乱しかねない。だが、18年前に発効した現行のWTO協定では、こうした身勝手な政策を縛ることができない。
 有志国が高い水準の通商秩序を築き、そのルールの枠組みに、将来的に中国も招き入れるのが、TPPの大きな目標である。何よりも日本の活躍の舞台である東アジア地域の安定と秩序を築かなければ、日本の国益は守れない。
 日本の動きがテコとなり、欧州連合(EU)は6月に米国と経済連携交渉に入る。日本とEUの交渉も4月中に始まる見通しだ。同時期に始まる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)には、中国が熱意をあらわにしている。
 21カ国・地域によるサービス交渉も始動が近い。東南アジア諸国連合(ASEAN)は2年後の域内統合に向け、共通市場の設計を加速し、そのASEANに米国、EU、中国が急接近している。
 いま世界は、ルールづくりの大競争時代に突入しつつある。「今がラストチャンス」と語った安倍首相の認識は正しい。出遅れた日本は、通商秩序の建設に貢献できるか。TPP交渉を前進させるためにも、安倍政権は国内改革に果敢に挑まなければならない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130316k0000m070125000c.htmlより、
社説:TPP交渉参加表明 自由化の先導役を担え
毎日新聞 2013年03月16日 02時30分

 安倍晋三首相が、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加を表明した。ようやく、アジア太平洋地域の貿易・投資ルールを決める交渉のスタートラインに立つことになる。
 自民党や農業団体からは、関税撤廃の「聖域」確保を求める大合唱が起きている。しかし、国境の壁を引き下げ、この地域の活力を取り込むという本来の目的を忘れてはならない。首相は「国益にとって最善の道を目指す」と表明した。そのためには、高いレベルでの貿易・投資の自由化を先導する役割を担うべきだ。

 ◇アジアの将来像見据え
 参加表明にこぎ着けたのは、先の日米首脳会談で、全ての関税撤廃を前提とするものではないことを確認し、自民党の衆院選公約をクリアしたのに加え、米国との事前協議が大筋で決着したからだ。
 政府は米国との協議で、米国の自動車関税撤廃に例外的な長期間の猶予を認めた。米国の「弱点」である自動車分野で一定の譲歩を示し、その見返りとしてコメなどを関税撤廃の例外として認めてもらおうとの思惑があるはずだ。
 どんな貿易交渉でも国益のために譲れない品目はある。それを守り抜くのも政府の職責といえる。しかし、「聖域」獲得にばかり力を入れて、交渉参加の意味を見失っては元も子もない。
 日本はこれまで13の国・地域と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を結んだ。その中で、貿易品目の1割強に当たる900品目以上を関税撤廃の例外として守り続けてきた。そのうちの800品目余りが農産品で、コメだけでも加工品を含めると50品目を超える。
 米国がこれまでに結んだ他国とのEPAやFTAで関税撤廃の例外にした品目は、最大でも全体の5%に満たない。日本の自由化レベルは、低かったということだ。
 交渉で、農業分野が大きな焦点になるのは間違いない。そこで自民党は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなどの甘味資源作物についてTPPでも例外にするよう求めている。しかし、TPPでは関税撤廃が原則だ。「経済大国」である日本が従来通りの「聖域」維持を要求すれば、交渉に参加している新興国もそれにならって高率関税の温存を主張しかねない。
 結果的に、高いレベルでの自由化を目指すTPPが有名無実化しては、貿易・投資を経済成長につなげるという日本の目的は果たせなくなる。政府が参加表明と合わせて発表した約3兆2000億円という国内総生産(GDP)の押し上げ効果も絵に描いた餅に終わるだろう。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130316k0000m070125000c2.htmlより、
 安倍首相は「米国と共に新しい経済圏をつくる」と交渉に臨む決意を示し、TPPは「アジア太平洋地域の安全保障にも資する」と強調した。日米両国にとってTPPは、自由化のルールをアジア太平洋地域に広げ、中国を巻き込んでいく上でも重要な意味を持つ。
 日本はこれと並行して、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国や中国、韓国、インドなどと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉なども進める。そこで自由化をリードするためにも、保護主義的な主張は慎む必要がある。
 政府は国益のため真に欠かせない重要品目を峻別(しゅんべつ)したうえで、積極的な自由化交渉を進めるべきだ。

 ◇農業強化の具体化急げ
 もちろん、自由化による打撃が避けられない品目に関しては、激変緩和のための支援や競争力強化策を速やかに打ち出すことも必要だ。
 政府は農業を成長産業と位置付け、改革を加速させる考えを示している。高齢化、後継者不足が深刻な農業の改革は、いずれにしても待ったなしといえる。「聖域」化をあてにして、具体策の検討がおろそかになってはならない。
 反省すべき前例もある。90年代に決着した関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドで日本は、関税化の猶予を認めてもらう代償として一定数量の輸入を義務づけるミニマムアクセスを受け入れ、実質的にコメ市場を開放した。
 その際、政府は農業強化策として6兆円余りをつぎ込んだ。しかし、「コメ市場開放を前提とした対策の検討は敗北主義だ」とする強硬派の勢いにおされ、具体的な政策の検討が不十分だった。そのために、農業の競争力強化には結びつかず、「ばらまき」という批判ばかりが残った。その轍(てつ)を踏んではならない。
 今回は麦や乳製品、サトウキビなどでも厳しい交渉が予想される。それらの主産地である北海道、九州・沖縄など地方経済への影響も精査し、対策も検討すべきだろう。
 一方、TPP交渉への参加については、国民の間に根強い慎重論があることも否定できない。とりわけ、企業が投資先国から不利な扱いを受けた場合に、国際仲裁機関に提訴できる「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」や、医療保険制度などをめぐる不安は根強い。
 参加が認められれば、政府は交渉の全体像を詳細に把握できるはずだ。国民の理解を得る努力も忘れてはならない。

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