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日別アーカイブ: 2013年7月11日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130711/elc13071103340026-n1.htmより、
産経新聞【主張】参院選と拉致 被害者救う気概あるのか
2013.7.11 03:34 (1/2ページ)

 憲法改正や経済再生が大きな争点とされる今回の参院選で、拉致問題解決を求める声が候補者からほとんど聞こえてこないのが気がかりだ。拉致は、日本人の生命と日本の国家主権にかかわる重要課題である。各党、各候補はもっと真剣に論じ合ってほしい。
 自民党の安倍晋三政権が誕生して半年余、膠着(こうちゃく)状態だった拉致問題が解決に向けて少しずつ動き出す気配を見せている。
 3月、国連人権理事会は、拉致問題を含む北朝鮮の人権侵害の実態を調べる調査委員会を設置する決議を、全会一致で採択した。5月には、飯島勲内閣官房参与が訪朝し、拉致被害者の即時帰国や実行犯の引き渡しなど、安倍政権の基本方針を北朝鮮に伝えた。
 一方、拉致問題の早期解決を求める署名数が4月下旬、1千万人を突破した。横田めぐみさんの両親ら被害者家族が16年間、全国各地を奔走した結果である。
 しかし、参院選の各党公約を見ると、自民党以外は拉致問題にあまり触れていない。
 自民党は公約で「対話と圧力」による「拉致問題の完全解決」をうたい、総合政策集でも、政府認定以外の特定失踪者の調査や北朝鮮への全面的な再調査要求などの具体策を掲げた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130711/elc13071103340026-n2.htmより、
2013.7.11 03:34 (2/2ページ)
 これに対し、最大野党の民主党は「主権と人権の重大な侵害である拉致問題の解決に全力をあげます」と書いてあるだけだ。
 他の政党も「6カ国協議を再開し、拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決」(公明党)、「北朝鮮の核やミサイル問題、拉致問題には毅然(きぜん)と対応」(みんなの党)など、民主党と大同小異だ。
 日本維新の会は、党内に拉致議連会長や元拉致問題担当相がいるのに、参院選公約に拉致問題への言及が全くない。維新は昨年暮れの衆院選でも、公約に「拉致」の文言がなく、理解に苦しむ。
 安倍首相は先月、英国で開かれた主要8カ国(G8)首脳会議や東欧4カ国(V4)首脳との会談で、拉致問題解決を訴え、首脳宣言などに「拉致問題」が明記された。先の党首討論でも、安倍氏は「あらゆるチャンスを貪欲につかんでいきたい」と述べた。
 拉致は、安倍政権に任せておけばよいという問題ではない。野党を含めた超党派で知恵を出し合い、力を合わせなければならない国家的課題なのである。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 7月 10 日(水)付
防衛白書―脅威を語るだけでは

 不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾――。
 13年版の防衛白書には、中国の海洋進出について、こんな記述が初めて盛り込まれた。
 言うまでもなく、尖閣諸島をめぐる緊張が背景にある。
 昨年9月の国有化以降、中国公船が尖閣周辺の領海を頻繁に侵犯している。1月には東シナ海で、中国軍艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射する事態も起きた。
 たしかに、中国の挑発行為は目にあまる。このままでは、偶発的な軍事衝突の危険性さえ否定できない。
 白書が強い懸念を示すのも当然だろう。
 では、一触即発の危機をどうしたら回避できるのか。
 白書が指摘するように、日中間では防衛当局間のホットラインを設置することで合意している。ところが、こんな必要最低限の危機回避策さえ、日中関係が滞っている中でいまだに運用に至っていない。
 ましてや、膨張する中国とどう向きあうのかは、簡単に答えの出る話ではない。
 気掛かりなのは、昨年の白書にあった「平和は防衛力とともに外交努力などを総合的に講じることで確保できる」という記述が消え、「外交努力などの非軍事的手段だけでは万一の侵略を排除できない」というくだりだけが残されたことだ。
 もちろん、自衛隊が防衛のために必要な備えをすることは不可欠だ。とはいえ、あまりに軍事に偏っては、そのこと自体が緊張を高め、逆に日本の安全を損なう。ここは粘り強い外交努力とあわせた、冷静で、息の長い取り組みが必要だろう。
 防衛白書には、日本の現状認識や防衛政策の方向性を国内外に示す役割がある。
 東アジア情勢が流動化しているなか、日本の防衛費は11年ぶりに増額に転じた。そんな時だからこそ、日本の方針を明確に示す責任がある。
 その点、今回の白書は実にわかりにくい。
 例えば、集団的自衛権の行使について、「許されない」とする従来の政府見解に沿った記述がある。その一方で、憲法解釈の見直しを進めている懇談会を取りあげ、「議論を待ちたい」とも書いている。
 これでは、政府の意図がわからない。あらぬ疑念を招くのは得策ではあるまい。
 新たな防衛計画の大綱の策定を年末に控え、議論が本格化する。内外への丁寧な説明を怠ってはならない。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130710/plc13071003380006-n1.htmより、
産経新聞【主張】防衛白書 国守る決意実行の議論を
2013.7.10 03:38 (1/2ページ)

 今年の防衛白書の最大の特徴は「わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜く」との決意を打ち出したことだ。
 尖閣諸島(沖縄県石垣市)を力ずくで奪取しようとする中国は、領海侵入などの挑発行動をやめない。白書はこれを「不測の事態を招きかねない危険な行動」と認定し、強く批判した。
 従来、白書で中国の行動を厳しく書くことには遠慮もあった。だが、「強い日本」を掲げる安倍晋三政権の姿勢を受け、国として当然の主張や国防の重要性を正面から取り上げた点を評価したい。日本の国を守る覚悟を関係国に示すメッセージともなろう。
 課題は、こうした決意を防衛政策の転換や防衛力強化に、いかに結びつけるかである。参院選でも各党に論じ合ってほしい。
 今回、白書は尖閣の国有化以降に激化した領海侵入や領空侵犯などの相次ぐ挑発活動に対し「極めて遺憾」と明確に非難した。中国の出方を「高圧的対応」と批判し、「力による現状変更」を試みているといった分析も加えた。
 北朝鮮の核実験についても白書は「重大な脅威で断じて容認できない」ものと位置付けた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130710/plc13071003380006-n2.htmより、
2013.7.10 03:38 (2/2ページ)
 弾道ミサイルの射程が「米本土の中部や西部に到達する可能性」にも言及し、警戒を強める必要性も訴えた。
 これらの日本を取り巻く安保環境の悪化は明らかであり、日米同盟を基軸に防衛力強化の方向性を示したのは当然である。
 だが、その実効性を高めるためには、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が不可欠となる。白書も首相の下で有識者会議による検討が進んでいることを挙げた。政権として行使に踏み込む決断が求められている。
 白書は、自衛隊に「海兵隊的機能」を持たせる意義に言及した。与那国島に沿岸監視部隊を配備することも急がれる。
 離島奪還能力の向上を含め、南西諸島防衛の強化を通じて、日本は自らの抑止力を高めなければならない。
 それには必要な防衛予算と自衛隊の定員を確保することが欠かせない。平成25年度の防衛費は11年ぶりに増額に転じたが、さらに大幅で継続的な措置が不可欠だ。
 国民の平和と安全をどう確保するか、与野党を挙げてもっと論じる必要がある。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013071002000128.htmlより、
東京新聞【社説】防衛白書と中国 信頼醸成にも力を注げ
2013年7月10日

 二〇一三年版防衛白書は日本領海への侵入を繰り返す中国への警戒感を示す内容となった。毅然(きぜん)とした対応は当然だが、「不測の事態」を招かないためにも、信頼醸成措置に力を注ぐことも必要だ。
 東、南シナ海で海洋権益確保の動きを強める中国の動向がアジア・太平洋地域の不安定要因であるのは関係国の共通認識だ。防衛政策に関する年次報告書の防衛白書が、中国の動向に懸念を示すのは妥当である。
 特に、昨年九月の沖縄県・尖閣諸島の国有化後、中国公船の領海侵入が急増した。白書は「既存の国際法秩序とは相いれない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みを含む高圧的とも指摘される対応」と批判している。
 また今年一月に起きた、中国海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦などへの射撃管制レーダー照射についても「不測の事態を招きかねない危険な行動」と遺憾表明した。
 射撃管制レーダーの照射は武力による威嚇に該当する。白書が指摘するように、中国側に「国際的な規範の共有・順守」を、求め続けることが重要だ。
 白書では、尖閣などを念頭に占領された島嶼(とうしょ)部を奪還するため、優れた機動性を備えた「海兵隊的機能」を持つべきだとの意見や、陸海空三自衛隊が今年六月、島嶼防衛を想定した米軍との統合訓練を米カリフォルニア州で行ったことも紹介している。
 領土、領海、領空を守る強い決意を示す安倍晋三首相の意向を反映したのだろう。
 想定される脅威に対して必要な防衛力を整備し、訓練を積み重ねることは当然だ。しかし、専守防衛の逸脱との誤解を与えると、地域の軍拡競争を促す「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。そうした懸念にも留意すべきだ。
 一方、防衛力強化や対決姿勢を強めるだけでは、緊張緩和が実現しないのも事実である。
 中国の国防政策の透明性向上を図り、不測の事態を回避するには現在途絶えている防衛担当者間の交流を復活させ、信頼醸成への努力を重ねることが必要だ。
 特に、レーダー照射のような事態を衝突につなげないためには、ホットラインの設置や艦艇、航空機間の連絡メカニズム構築を実現に移すことが急務だろう。
 これらは日中間でいったん合意しながら、尖閣国有化を契機に棚上げ状態だ。日本側は早期の運用開始を働き掛けているという。粘り強く説得を続けるべきである。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57182770Q3A710C1EA1000/より、
日経新聞 社説 厳しい安保観に見合う防衛を
2013/7/10付

 難しい問題に取り組むには、現状の正しい分析と、それを踏まえた迅速な行動が欠かせない。日本の防衛にも同じことがいえる。
 政府は閣議で、2013年版防衛白書を了承した。これまで「不透明」などとしてきた日本の安全保障環境について、初めて「厳しさを増している」と表現した。
 中国による軍備の増強や、北朝鮮の核兵器とミサイルの開発だけみても、当然の認識といえよう。大切なのは、年内にまとめる新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)に具体的な対策を盛り込み、早急に実行に移すことだ。
 とりわけ急がなければならないのは、尖閣諸島などへの揺さぶりを強める中国への対応だ。最近、中国は監視船だけでなく、海洋調査船も尖閣沖に送り込んでくる。
 領海警備は一義的には海上保安庁の役目だが、いざという危機にそなえ、海保と自衛隊の連携を強めておくことも大切だ。占拠された島を奪還する能力をもった自衛隊部隊の拡充も急ぐべきだろう。
 防衛白書では日本近海での中国の強硬な行動が、「不測の事態を招きかねない」とも警告した。1月には、中国軍の艦船が自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射する事件が起きており、あながち誇張とはいえない。
 中国に挑発をやめさせるには、米国と結束し、強い抑止力を保つことが重要だ。意図しない衝突を防ぐため、緊急時に連絡をとれる体制をつくるよう、中国に促していくことも忘れてはならない。
 防衛白書では、北朝鮮のミサイル開発について「新しい段階に入った」とも分析した。北朝鮮が核爆弾の小型化に成功すれば、すでにミサイルの射程内にある日本は重大な脅威にさらされる。日本はまず、米国とのミサイル防衛協力を加速することが欠かせない。
 日本への脅威はサイバー空間にも広がっている。有効なサイバー対策を打つためにも、防衛省、警察庁といった関係省庁は縦割りの弊害を排し、緊密に協力してもらいたい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130710k0000m070114000c.htmlより、
社説:防衛白書 「安倍カラー」が満載だ
毎日新聞 2013年07月10日 02時32分

 沖縄県・尖閣諸島周辺の中国の海洋活動や、北朝鮮による核実験、事実上の弾道ミサイル発射により、日本を取り巻く安全保障環境は、この1年で格段に厳しさを増した。「戦後最悪」との指摘もあるほどだ。
 2013年版の防衛白書は、こうした現実を反映し、中国、北朝鮮などの動向に強い懸念を示した。そのうえで、南西諸島や弾道ミサイル防衛の重要性を強調し、日米安保体制や日本独自の防衛力強化を訴えた。
 中国については、領海侵入、領空侵犯、海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦への射撃用火器管制レーダー照射などを挙げ、中国軍が海上戦力だけでなく、航空戦力による海洋活動を活発化させていると指摘。「不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾」と批判した。
 北朝鮮については、弾道ミサイル開発が「新たな段階に入った」と分析し、核開発問題とあいまって「現実的で差し迫った問題」と強い懸念を示した。
 中国、北朝鮮いずれに対してもこれまでにない厳しい表現が目立つ。
 また白書は、集団的自衛権見直しの検討状況や、自衛隊に海兵隊的機能や敵基地攻撃能力を持たせる議論について、安倍晋三首相の意欲的な国会答弁を交えてコラムで紹介した。「安倍カラー」満載の感がある。
 背景には、参院選後に控える集団的自衛権の行使容認を巡る議論や、年末の新たな「防衛計画の大綱」策定、来年度予算編成での防衛関係費の確保につなげようとする首相官邸と防衛省の狙いがうかがえる。
 厳しい安全保障環境に対応するため、いま日本がやるべきことは何だろう。防衛力強化は必要だ。だが、それだけでは十分とはいえない。
 例えば多国間・2国間での安全保障対話や防衛交流を、お互いの信頼醸成や不測の事態を回避するために、もっと進める必要がある。
 日中間では防衛当局間のホットライン設置など海上連絡メカニズムの構築が合意されたが、運用が開始できないでいる。日韓間では、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が、韓国世論の反発で締結が見送られたままだ。白書はこうした防衛交流・協力にも触れているが、あっさり説明しているに過ぎない。
 米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの沖縄配備についても、人口密集地域上空の飛行を避けるなど日米が合意した運用ルールに違反した飛行が報告されているにもかかわらず、「引き続き合意が実施されるよう米側への働きかけを行っている」と冷淡な記述にとどまったのは残念だ。
 防衛力強化に前のめりなだけでは、国民の理解は得られない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130709k0000m070106000c.htmlより、
社説:視点 対外情報発信・米「疑日派」なくそう=布施広
毎日新聞 2013年07月09日 02時31分

 最近の米国には「疑日派」が目立つそうだ。日本となじみの深い米国にはもちろん親日派も知日派もいるし、時に反日、嫌日派もいるが、ある米国ウオッチャーによると、安倍晋三首相の政治姿勢に漠たる疑問や危うさを覚える人も少なくない。これを疑日派と呼ぶわけだ。
 たとえば彼らは麻生太郎副総理の靖国参拝や歴史認識をめぐる安倍首相の発言に加え、首相の「ムキになりやすい」姿勢にも首をかしげる。安倍氏が最初に首相になった時に唱えた「戦後レジームからの脱却」も、米国人の目には米国主導の戦後秩序への挑戦と映りかねない。
 米国から常に真意を、時には痛くもない腹を探られる傾向があるのは安倍氏の宿命のように思える。と同時に、終戦から70年近くが過ぎて中国や韓国との関係が冷え込む今、多くの国民の胸に浮かぶのは、果たして日本の平和外交は国際社会に正しく理解され共感を得てきたか、という問いではなかろうか。
 たとえば尖閣問題に関する中国側の振る舞い、特にレーダー照射や度重なる領海侵犯は国連憲章の精神に反しているが、では日本への国際的な同情や支援が強まったかといえば、そうでもない。欧米などのメディアの論調は時に日本に冷淡だ。
 東京財団の渡部恒雄・上席研究員は「広報外交の不足」を指摘する。その象徴として渡部氏が挙げるのは、1957年に外務省の財政支援でワシントンに設置された日本経済研究所(JEI)が2001年、予算カットにより活動を休止したことだ。韓国が創設した同様のシンクタンクは米政府の元高官らを運営メンバーとして今もワシントンで活動を続けている。
 これは氷山の一角で、日本は情報発信に関連する予算を削り続けてきたと渡部氏は言う。経団連も09年、ワシントン事務所を閉鎖した。尖閣をめぐる宣伝戦で日本が中国や台湾の後塵(こうじん)を拝しても不思議ではない。米国では韓国もロビー活動に必死だ。自国が正しくても、その主張を正しく理解してもらうには広報活動が不可欠、という意識が日本には薄かったようだ。
 参院選の公約(領土・主権)で自民は「国内外に対する積極的な普及・啓発・広報」、民主も「積極的な対外発信」に言及するなど各党の関心は低くない。問題は、いかに長期的かつ多角的に実践するかだ。日本への理解が進めば、あるいは疑日派も雲散霧消しよう。だが、一時しのぎで終われば、国を挙げて「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を推進する中国に煮え湯を飲まされるかもしれない。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130703k0000m070143000c.htmlより、
社説:参院選 問われるもの…歴史認識
毎日新聞 2013年07月03日 02時31分

 ◇参院選 問われるもの…歴史認識 立場をもっと明確に
 歴史認識問題への各党公約での言及は思った以上に少ない。確かに、政策として前向きなものではないし、党内で一致した見解を作るだけでも骨の折れる仕事であろう。
 ただ、この問題はいったん火がつくと国内はもとより、中国、韓国を中心としたアジア、ひいては欧米まで巻き込むグローバルな論戦となり、日本の外交・安保政策に多大な影響を与える。政策選択を問う上で重要な争点の一つに数えたい。
 そもそも歴史認識とは何だろう。あの大戦を歴史的に総括、反省し、その教訓を未来に生かしていくための基本認識ではないか。原点は、1952年4月の講和条約発効(独立)にある。そこで日本は、戦争指導者が処刑された東京裁判の結果を受け入れ、国際協調の道を歩むことを誓ったはずである。従軍慰安婦問題についての見解をまとめた河野談話(93年)、戦後50年の節目に反省と謝罪を発信した村山談話(95年)、それを踏襲し不戦の決意を誓った小泉談話(2005年)もすべてその延長線上に積み上げられてきた。
 その観点からすると、昨今の安倍晋三首相の言動は危うさを感じさせるものがある。村山談話に対して「侵略の定義」部分に異を唱えたと思えば、一転継承すると軌道修正する。または、歴史認識は学者の仕事で政治家は言及すべきではないと突っぱねる。建前と本音を使い分けているようにも見え、不安感が残る。
 党首の立場をはっきり読み取りたい、という目には、自民党公約は物足りない。中韓との関係発展をうたうのみである。ただ、公約を解説する同党総合政策集の中では、領土・主権・歴史問題に関する研究機関を新設し、慰安婦問題で不当な主張には的確な反論を行う、としている。事実関係の研究は否定しないが、重要なのは政治的メッセージである。
 民主党公約も「共生実現に向けたアジア外交」とあるが、歴史認識に踏み込んでいない。領土、慰安婦をめぐり中韓とやり合った政権政党としての体験を昇華した現実的な建策が欲しい。安倍政権に対して大きな論争を挑める分野ではないのか。
 維新は、慰安婦問題について「歴史的事実を明らかにし、国や国民の尊厳と名誉を守る」としている。橋下徹共同代表の一連の発言を受けてのものなのだろうが、とってつけたような印象も受ける。
 いずれにせよ、この問題については、靖国参拝を含めて国民には聞きたいことがたくさんある。先人たちの努力の成果を踏まえ、何をどう引き継ぎいかに発展させていくか。各党首はもっと明確に語ってほしい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130702k0000m070121000c.htmlより、
社説:参院選・外交・安全保障 中韓との関係を語れ
毎日新聞 2013年07月02日 02時33分

 安倍晋三首相は半年間で、米国、ロシア、東南・中央アジア、中東、欧州の計13カ国を訪れた。「世界地図を俯瞰(ふかん)する外交」と首相は自賛する。そこに流れるのは、日米同盟を強化する一方、自由や民主主義などの価値観を共有する他の国々とも連携を深め、日本の外交基盤を固めた上で、中国と向き合う考え方だ。
 領土や歴史を巡る対立で中国、韓国との首脳会談ができない中では、こうして周辺国を固める外交方針をとったことはやむを得ない面があっただろう。ただ、それだけでは中韓両国との関係は改善できない。
 日中関係の行き詰まりは、中国側にも責任がある。日本側が条件なしに首脳会談を開くよう求めているのに対し、中国側は沖縄県・尖閣諸島を巡る領土問題の存在や棚上げを会談の前提条件として認めるよう要求しているようだ。
 だが日本側にも原因がある。首相は先の大戦について侵略行為を否定したと受け取られかねない発言をした。他にも安倍政権の歴史認識について「右傾化」と疑われるような言動が続き、中国側に「安倍首相は、本当に日中関係を改善したいと思っているのか」との疑念を与えている。
 韓国とは日韓外相会談が約9カ月ぶりに開催され、関係改善の兆しが出てきた。とはいえ、朴槿恵(パク・クネ)大統領は日韓よりも中韓関係を優先しているように見える。
 日米関係で首相は、沖縄県・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を推進し、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加を表明し、今年度の政府予算で11年ぶりに防衛費を増額するなど、同盟強化策を次々と打ち出した。だが、このまま中韓との関係改善が遠のけば、東アジアで日本の存在感は低下し、日米同盟にも影を落としかねない。
 参院選で首相と各党は、中韓との関係をどう改善し、再構築していけばいいのか、考え方を示してほしい。
 各党は公約で表現はそれぞれ異なるが、日米同盟の強化、中韓との関係改善、領海警備体制の充実などを掲げた。だがどう実現するかについての議論は低調だ。
 参院選後はさらに難題が待ち受ける。首相は今秋にも集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更に踏み込む構えだ。年末にはこれを反映させた新たな防衛計画の大綱をまとめることにしている。終戦記念日や靖国神社の秋季例大祭に首相や閣僚が靖国参拝するのかどうかという問題もある。
 首相はこれらの課題を国内外の理解を得ながらどう進め、それに各党はどう対応するつもりなのか。今後の論戦に期待したい。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 7月 11 日(木)付
原発論戦―大阪発の知恵を材料に

 参院選で、自民党は公約から「脱原発依存」という言葉を消し去り、原発の再稼働に意欲を示している。
 これに対し、多くの野党は「原発ゼロ」を掲げる。だが、ゼロか否かの主張ばかりでは、必要な判断材料が有権者に示されているとは言い難い。
 選挙戦を前にした朝日新聞社の世論調査では、停止中の原発の運転再開に53%が「反対」と答えている。
 一方で、電気料金の値上げが生活や経済に与える影響を心配する国民も多い。自民党が再稼働に前のめりなのも、そんな空気を読んでのことだろう。
 新しい社会に向けて、どんな道をたどれば生活や経済への打撃を抑えつつ、原発を減らせるのか。野党はゼロへの手立てを具体的に論じ、有権者の声にこたえる必要がある。
 ぜひ、活用してほしいのが、2030年原発ゼロへの道筋をまとめた「大阪府市エネルギー戦略会議」(会長・植田和弘京都大学教授)の提言だ。
 大阪は、電力の半分を原発に依存してきた関西電力の大消費地である。大事故が起きて、水がめの琵琶湖が汚染されれば、「被害地元」ともなりうる。
 そこで橋下徹・大阪市長が脱原発への現実的な政策を示すよう10人の専門家に要請し、1年以上かけて提言をまとめた。ネットでも公開されている。
 ところが、橋下氏が共同代表をつとめる日本維新の会は国政進出後、脱原発の姿勢があいまいになり、公約に提言を反映しきれていない。
 戦略会議は府市の税金でまかなわれた。維新のために活動したわけではない。維新は提言をどう生かすのかを明らかにすべきだが、他の党も公約肉付けの参考にしない手はない。
 提言は、厳格な安全審査で廃炉をすすめる一方、2年以内に発送電分離と電力小売りの完全自由化を実現するよう、国に求める。多様な電源による競争で価格低下を促し、電気料金値上げに歯止めをかける。
 市場原理の重視も提案した。事故時の賠償への備えや廃棄物の処理費などのコストを電力会社に負担させ、普通のビジネスとして成立しなければ原発から撤退するという考え方だ。
 改革に伴う痛みへの手当てでは、立地自治体が原発依存から脱却する自立支援への交付金づくりを進言する。
 安全性や経済性にどう配慮しながら原発を閉じていくか。自民党が答えを示せないこの問題を野党が争点とし、論戦を深めるべきだ。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013070802000128.htmlより、
東京新聞【社説】<2013岐路>原発政策 未来の安心もっと語れ
2013年7月8日

 自民は原発推進に舵(かじ)を切り、他は脱原発や脱原発依存を訴える。だがそれで、どんな未来になるのだろうか。私たちのその未来をもっと語ってもらいたい。
 二〇五二年の時点でまだ原子力発電を続けているのは、フランスと中国だけになるだろう-。
 世界自然保護基金(WWF)の副事務局長などを務めた、ヨルゲン・ランダース氏の近著「2052」(日経BP社)に収録された、識者による未来予測の一つである。

◆巨額の費用がかかる
 書いたのは、ジョナサン・ポリット氏。英国緑の党の共同代表などを歴任した人だ。「原子力発電の終焉(しゅうえん)」というタイトルが付いている。
 原発はなぜ消えていくのか。ポリット氏によれば、主な理由は経済だ。
 欧州では環境派と呼ばれる人々にも、原発は一定の支持を受けてきた。石油や石炭などの化石燃料に比べてコストが安く、地球温暖化の原因になる二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないからだ。
 ところがそれも安全あってのことである。フクシマの事故で安全神話のベールがはがれ、原発の隠れたコストが明るみに出た。
 どんなに科学が進んでも、原発事故の確率をゼロにするのは不可能だ。事故を起こせば、その損害は計り知れないものになる。フクシマは原発の経済リスクを世界に知らしめた。廃炉や使用済み核燃料の処理にも、この先巨額の費用がかかる。
 日本最大の東京電力さえ、国有化を余儀なくされた。公的資金が無限に注入されない限り、投資リスクの解消は望めない。投資家は原発という古い船を下り、再生可能エネルギーに乗り換える。市場原理が、原発を追い立てる。

◆世論は消極的なのに
 ポリット氏の予測に沿うかのように、米国ではシェールガスへの転換が急速に進んでおり、デンマークでは原発の予定地に風車を建てた。原発への公的資金投入をいち早く打ち切った英国では、大規模な洋上風力発電施設の建設が盛んに計画されている。西欧で建造中の原発は、フィンランドとフランスのそれぞれ一基だけである。
 二〇年までに五十六基の原発を建設するという中国でさえ、3・11後は住民の不安に配慮して、減速の兆しがあるという。
 エネルギー社会の未来図を、フクシマが塗り替えつつあるのだろう。未来図が示されてこそ、世界は動く。未来図を描くのが政治家の仕事ではなかったか。
 思い出してもらいたい。去年の夏のことである。
 当時の民主党政権は福島の事故を受け、「二〇三〇年に原発比率50%以上」とうたったエネルギー基本計画を白紙に戻し、討論型世論調査で国民の意見を聞いた。
 二日間の議論の結果、政府が示した三〇年に原発比率ゼロ、15%、20~25%の選択肢から、約半数の参加者がゼロを選んだ。
 だが、原発ゼロに至る具体的な未来図や戦略が示されないまま、草創期から原発を推進してきた自民党が、暮れの総選挙では与党民主に圧倒的な大差をつけて政権の座に返り咲いた。
 だからといって、原発ゼロを選んだ有権者の意思が消えてしまったわけではない。本紙の世論調査では、今度の参院選で安倍内閣を支持すると答えた人の半数近くが、原発再稼働には消極的だ。比例の投票先も約半数が未定のまま、選挙戦に入っている。
 放射能は恐ろしい。でも脱原発は暮らしにどんな影響を与えるのか。原発ゼロにするのはいい。でも本当に実現できるのか。アベノミクスに期待しながら原発に不安を覚える人や、脱原発を望みながらも、実現可能な政党を見つけられない人は多いに違いない。
 故郷を追われた十五万人を超える原発被災者の日常に、心を痛めない人はいないだろう。
 そんな有権者に向けて、早期再稼働と輸出をめざす自民は、原発と共存可能な社会の未来図を、脱原発を訴える他の党は、原発なしでも豊かな社会のそれを、具体的に示して信を問うべきだ。
 若い有権者には特に、解禁されたインターネットなどを使って、候補者や政党に、それを求めてもらいたい。

◆大きな転換点だから
 いずれにしてもこの国のエネルギー政策は、大きな転換点にある。原発依存を抜け出すにせよ、使い続けるにせよ、再生可能エネルギーの普及や電力の自由化など、時代の要請は避けられない。
 新しいエネルギー社会を築き上げるには、時間がかかる。その社会を生きるのは若い皆さんと、皆さんの子どもたちなのだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130706k0000m070104000c.htmlより、
社説:視点・参院選 被災地=論説委員 伊藤正志
毎日新聞 2013年07月06日 02時30分

 ◇福島の命どう向き合う
 福島県浪江町の海岸沿いにある請戸(うけど)地区を先月、訪れた。東日本大震災の津波で壊滅的な打撃を受けた場所だ。見渡す限りの陸地に漁船や車が転がり、津波に流され原形をとどめない建物もそのままだ。震災直後と変わらぬ光景が、原発事故に見舞われた福島の悲劇を象徴する。
 いまだ15万人を超える人たちが県内外で避難生活を続ける福島県。震災関連死は、全国の半数以上の1400人を超えた。将来、地震や津波による直接の死者1606人を超える恐れは十分にある。時間がたってもなお犠牲者が増え続ける現実。過去に例のない被害の過酷さを私たちは直視すべきだ。
 原発事故による子どもと妊婦の健康不安解消や、避難に伴う被災者の移動や住宅・就業支援について国の実施責務をうたったのが「原発事故子ども・被災者生活支援法」だ。昨年6月、衆参両院で全会一致で可決、成立した。だが、復興庁は1年後の今も支援内容を具体化させるための基本方針さえ示さない。
 ツイッター暴言問題で更迭・処分された復興庁元担当参事官は、法律の骨抜き、課題先送りを示唆した。避難者からは落胆の声が漏れる。昨年12月の政権交代後、支援法への後ろ向きの姿勢を感じずにはいられない。
 各党の参院選公約を比較したい。支援法の活用を具体的に挙げたのは、民主党、みんなの党、社民党、共産党、みどりの風だ。自民、公明両党と日本維新の会、生活の党は、支援法について言及していない。全会一致の旗印はどこにいったのか。
 福島では、避難や賠償をめぐって住民間でさまざまなあつれきが生じ、「心の分断」が進んでいると言われる。中でも、低線量被ばくに対する考え方、対応の違いは大きい。
 支援法は、避難せず地元に住み続ける人や帰還者だけでなく、自主避難者も含めた全ての避難者の支援を約束する。被ばくを避け、福島県外に出て行った人たちの「避難」を恒久化し、分断を決定的にするのではとの懸念が一部にあるのは事実だ。
 それでも、支援の先送りは許されない。東京電力による賠償がなかなか進まない中で、避難により二重三重の生活を余儀なくされ、苦しんでいる人たちが現にいるのだから。
 国土強靱(きょうじん)化の勇ましい掛け声の下、震災からの復興や復旧に目が向きがちだ。だが、優先されるべきは、まず被災者の命、生活支援だ。避難に伴うストレスの軽減は、震災関連死という悲劇を防ぐためにも必要だ。支援法をどう生かすのか、各党の明快な訴えを聞きたい。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013070502000134.htmlより、
東京新聞【社説】<2013岐路> 党首第一声 福島に寄り添う責任
2013年7月5日

 参院選が公示され、各党首らが各地で第一声を上げた。経済政策は大きな争点だが、収束しない原発事故、道半ばの震災復興をどうするのかも、忘れてはならない。
 候補者擁立の状況や選挙戦略によるのだろうが、寂しい気がしないでもない。七カ月前の衆院選公示日、四党首が福島県内に集ったが、きのうは現職首相の安倍晋三自民党総裁と、海江田万里民主党代表だけだった。
 安倍氏は衆院選同様、福島市の中心街を第一声の場に選んだ。長年政権にあった自民党が「原発の安全神話に寄りかかり、原発政策を推進したことを、深刻に反省しなければならない」と述べた。
 いまなお多くの人々が仮設住宅での生活を余儀なくされている現状を見れば、「本当に申し訳ない思い」を表明したのは当然だ。
 しかし、安倍氏は首相として原発再稼働や海外への原発輸出を進める。衆院選第一声では語っていた再生エネルギーの開発促進にはこの日、全く触れなかった。
 県内全原発の廃炉や再生エネルギー研究・開発の推進を求めた福島県連や、普天間飛行場の県外移設を掲げた沖縄県連の地域公約を安倍氏は「県連の願望」と一蹴する。地域重視の自民党が地域に寄り添わないのはどういうことか。
 ただ「復興を加速する」と言うだけでは、原発事故を本当に反省したことにはなるまい。
 海江田氏は第一声を上げた盛岡市から仙台市に入り、その後、福島市では安倍氏と同じ場所で演説した。東日本大震災の被災地から選挙戦を始めたかったのだという。
 震災発生時、原発を所管する経済産業相だった海江田氏は原発事故の避難指示に「至らぬ点があった」と謝罪し、「福島の復興なくして日本の復興はない」と訴えた。
 やり玉に挙げたのが安倍内閣が進める国土強靱(きょうじん)化だ。公共事業のバラマキと批判し、資材高騰で復興に支障が出ていると指摘した。
 政策の誤りを正し、建設的な提言をして実現を迫るのは野党の役割である。政権転落の痛手は深いが、福島をはじめ被災地の復興を加速させるため、政策論争に果敢に挑んでほしい。
 これから福島に入る党首もいるのだろう。選挙区に候補者を擁立しなくても、比例代表で支持を呼び掛ける意味はある。政策を堂々と訴え、いまだ故郷に帰れない被災者、原発事故の影響に苦しむ県民に寄り添う気持ちを表してほしい。それが政治の責任でもある。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130630k0000m070112000c.htmlより、
社説:原発政策 「脱」か「依存」か明確に
毎日新聞 2013年(最終更新 06月30日 23時40分)

 原発に頼らない社会を目指すのか、原発依存に回帰するのか。今度の参院選は、国民がその意思を示す大切な機会になるはずだ。
 福島の事故は、なお収束しない。その中で、政府がなし崩しに依存を強めることがあってはならない。各党・各候補は、有権者がしっかり選択できるよう、自らの原発政策を明確に示すべきだ。
 安倍晋三首相は、原発輸出の「トップセールス」にまい進し、政権の成長戦略には原発再稼働に積極的な姿勢を盛り込んだ。自民党の公約は現政権の姿勢を後追いする内容だ。原発を含むインフラ輸出を進め、原発の再稼働を巡っては、地元自治体の理解を得るよう「国が責任を持って最大限の努力」をするという。
 一方で、昨年の衆院選の公約に掲げていた「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という目標は消えた。衆院選で自民に投票した有権者の中には、「依存しなくてもよい」政策の支持者もいただろう。原発依存にかじを切ったのであれば、はっきり示すべきだ。
 連立政権を組む公明党は公約に、「原発に依存しない社会・原発ゼロを目指す」と明記した。自公の政策は矛盾しないのか。国民が支持不支持を判断できるように、両党はきちんと説明する必要がある。
 一方、民主党は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入」という衆院選の公約を変えていない。脱原発路線を堅持したことは評価できる。
 しかし、実現のための戦略や道筋が分からない。推進をうたうインフラ輸出に原発が含まれるかどうかも明らかにしない。主張に筋を通さなければ、与党に対抗して有権者の理解を得るのは難しいだろう。
 いずれにしても当面、安全を確認できた原発の再稼働はあり得るだろう。今の制度では、電力会社だけが事故の賠償責任を負う。再稼働させるのであれば、原発を推進してきた国の責任分担の是非もはっきりさせる必要がある。国の責任とは、税金による給付を意味する。賠償負担が大きく膨らんだ東京電力への支援の見直しは、その試金石といえる。
 国民負担を伴うだけに、各党は選挙戦でそれぞれの考えを示してほしい。幕引きを急ぐべき核燃料サイクルや使用済み核燃料の処分などについても考えを聞きたい。
 原発の是非は2年前の原発事故以来、国論を二分してきた難しい問題だ。しかし、それを避けて国の将来は描けない。各党・各候補は原発政策をはっきりと争点に掲げ、論議を戦わせるべきだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit1より、
朝日新聞 社説 2013年 6月 29 日(土)付
原発と政治―未来にツケを回すのか

 あの日。地震と津波の脅威にがく然としていた私たちに追いうちをかけたのが、「福島第一原発で全電源を喪失」「原子炉の冷却不能」というニュースだった。
 爆発で原子炉建屋が吹き飛ばされる映像を目にして、背筋が凍った。
 そのことを、よもや忘れたわけではあるまい。
 安倍政権の原発政策である。
 自民党は参院選の公約で、原発の再稼働について地元の理解を得ることが「国の責任」と明記した。
 「安全性が確認された原発は動かす」が、安倍政権の基本方針だ。首相は国会閉会後の記者会見で「原子力規制委員会の基準を満たさない限り再稼働しない」と言い回しを変えたが、規制委さえクリアすれば、原発というシステムには問題ないという認識のようだ。
 折しも7月8日に、新しい規制基準が施行され、既存の原発が新基準に適合しているかどうかの審査が始まる。
 確かに、新基準はさまざまな点で改善はされている。
 旧来は規制当局が電力会社に取り込まれ、電力側が基準づくりや審査を都合よく誘導していた面があった。
 新基準は、活断層を厳しく吟味するほか、地震・津波対策やケーブルの不燃化、電源・冷却手段の多重化、中央制御室のバックアップ施設などを求める。
 今後も新たな基準を設けた場合、既存原発に例外なく適用することになったのは前進だ。過酷事故が起きることを前提に対策を求めた点も評価する。
 しかし、新しい基準への適合は「安全宣言」ではない。規制委が、「安全基準」から「規制基準」へ名称を変えたのも、そのためだ。安倍政権はそこから目をそらしている。
 なにより、福島の事故があぶり出したのは、安全対策の不備だけではない。
 たとえば、原発から出る危険なゴミの問題である。
 使用済み核燃料や廃炉で生じる高レベルの放射性廃棄物をどこにどうやって処分するか、まったく手つかずのままだ。当座の保管場所さえ確保できていないのが現状である。
 安倍政権は発足当初から、使用済み核燃料を再処理して利用する核燃料サイクル事業の継続を表明した。6月の日仏首脳会談でも、両国が協力して推進していく姿勢を強調した。
 しかし、計画の主役だった高速増殖炉は失敗続きで見通しがつかない。使用済み燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を商業炉で使うプルサーマル発電に頼るしかないが、これまでに取り出したプルトニウムを消化しきるのも難しい。
 ましてや、青森県六ケ所村の再処理工場を動かせば、プルトニウムをさらに増やすことになり、核不拡散を定めた国際公約に違反する。
 こうした負の側面に目をつぶり、課題を先送りするような原発回帰は「政治の無責任」としかいいようがない。
 原発というシステム全体の見直しを怠るなかでの再稼働は、矛盾を拡大させるだけだ。
 規制委の審査も、リスクの高い原発をふるい落とす仕分け作業と位置づけるべきである。「NO」とされた原発は、政府がすみやかに廃炉措置へと導く手立てを講ずる。
 基準への適応が認められた原発も、再稼働するには「本当に必要か」という需給と経済面からの検討が欠かせない。
 事故当時に比べると、節電意識や省エネ投資が進み、少なくとも需給面では乗り切れる情勢になった。
 あとは、原発が動かないことによる電気料金の値上げがどの程度、生活や経済活動の重荷になっているかという問題だ。
 負担感は人や立場によって異なるだろう。議論には根拠のあるデータが欠かせない。
 民主党政権時代に試行したコスト等検証委員会や需給検証委員会のような枠組みをつくり、国民に公開された場で合意を形成しなければならない。
 その際、火力発電の燃料代の増加といった目先の負担や損失だけでなく、放射性廃棄物の処理費用や事故が起きた場合の賠償など中長期に生じうるコストも総合して考える必要がある。 未来世代に確実にツケが回る問題に手を打つことこそ、政治の仕事である。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 6月 29 日(土)付
原発と政治―「地元」をとらえ直そう

 原発が事故を起こせば、極めて広範囲に打撃を与える。
 この最低限の教訓さえ、まだきちんと生かされていない。
 国は福島の事故後、防災対策を準備する「重点区域」を、原発の8~10キロ圏から30キロ圏に広げた。対象の自治体は45市町村から135市町村に増えた。
 原発を再稼働するなら、これら「地元自治体」から同意を得るのが不可欠だろう。
 実際、関係する自治体は電力会社に、再稼働時は同意を条件とする立地自治体並みの協定を結ぶよう求め始めている。
 だが、交渉は難航している。関西電力が早期の再稼働をめざす福井県の高浜原発では、30キロ圏内に入る京都府や滋賀県の自治体が関電と交渉中だが、関電は認めようとしない。
 立地自治体の側にも、被害地域を広く想定する国の方針に反発する動きがある。
 福井県は全国最多の14基の原発が集中立地し、大きな災害が起きれば原発が相次いで事故を起こす心配がある。
 ところが、県は「国の避難基準があいまい」などとして、隣接する他府県の自治体との交渉を後回しにし、避難先を県内に限る計画をつくった。
 その結果、美浜原発の過酷事故を想定した6月の避難訓練では、美浜町民は原発から遠ざかる滋賀県ではなく、県の計画に従い、大飯原発のある県内のおおい町へ逃げた。これが、住民の安全を第一に考えた対応だと言えるだろうか。
 背景には、原発事業者と立地自治体との特別な関係がある。事業者は自治体に寄付金や雇用の場を提供し、自治体は危険な原発を受け入れる。
 「地元」が広がれば、事業者にとっては再稼働のハードルが上がり、立地自治体もこれまで通りの見返りが得られる保証はない。事故の現実を目の当たりにしてもなお、双方に、そんな思惑が見え隠れする。
 こんないびつな関係を続けることは、もう許されない。
 事業者は30キロ圏内の自治体と協定を結び、監視の目を二重三重にする。自治体は広域で協力し、発言力を強める。そして万一の際の避難計画をつくる。
 もたれあいでなく、住民の安全を第一に、緊張感のある関係を築かねばならない。
 しかも、これからは新しい規制基準のもと、再稼働できない原発も出てくる。
 国策に協力してきた自治体にとっては厳しい事態ではある。原発への依存から方向転換するのは容易ではない。
 ただ、福井県も「エネルギー供給源の多角化」を掲げ、液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地の誘致に動き出すなど、脱原発依存に向けた試みが垣間見える。
 安倍政権は、再稼働への理解に努力するのではなく、新たな自立への支援にこそ、力を入れていくべきだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130711k0000m070110000c.htmlより、
記者の目:ブラジルW杯反対デモ=中村有花(大阪運動部)
毎日新聞 2013年07月11日 00時29分

 サッカーのワールドカップ(W杯)で最多の優勝5回を誇る「王国」らしいお祭りムードに包まれた大会だった。来年のW杯のテストを兼ねて、ブラジル各地で6月に開催されたコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)。スタンドは1試合平均5万人超の観客で埋まった。スポーツイベントとしては成功と言えるだろう。だが驚きだったのは「国民の数だけ、サッカー評論家がいる」といわれるブラジルで、W杯開催反対を掲げるデモが吹き荒れたことだ。改めてW杯など巨大スポーツイベント開催の意義を考えさせられた。

 ◇岐路に立つ巨大大会
 6月上旬から約3週間、日本の22倍超の広大な国土を持つブラジル各地を取材し、至る所でデモの生々しい爪痕に出くわした。ルセフ大統領の出身地で、南東部に位置するミナスジェライス州の州都、ベロオリゾンテでは、繁華街の銀行のガラス戸が無残に割られ、建ち並ぶ商店の扉は投石を警戒し、トタン板などで補強されていた。サンパウロの公共交通の運賃値上げに端を発したデモは、コンフェデ杯の開幕とともに全国に飛び火。6月20日には100万人を超える人々が参加した。訴えは、汚職の撲滅、教育や福祉の充実など多岐にわたり、怒りの矛先はこれらの問題を解決できていないのに、W杯などに280億レアル(約1兆2000億円)ともいわれる巨費を投じる政府と、W杯の主催者の国際サッカー連盟(FIFA)に向けられた。

 ◇代表選手にも寛容な意見多く
 意外だったのは、デモについて比較的、寛容な意見が多かったことだ。「W杯を開催するにあたり、政府はいろいろな約束をしたが、何も果たされていない。スタジアムはきれいになったけど、それ以外は何も変わらない」。ベロオリゾンテでプロコーチを務めるラファエル・ピント・ネトさん(30)は政府への怒りを隠さなかった。
 元ブラジル代表で、かつてスペインの名門バルセロナでも活躍した世界的スターのロナウジーニョ選手も暴力や破壊行為は否定した上で、デモについて「国がうまくいくために私は応援する」と支持の立場を示している。このほか大会最優秀選手(MVP)に輝いたネイマール選手らコンフェデ杯を戦ったブラジル代表の選手らにデモを支持する声が多いのも印象的だった。貧しい家庭環境で育ち、サッカーではい上がった選手が多いことと無関係ではないような気がする。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130711k0000m070110000c2.htmlより、
 コンフェデ杯の開幕前、ブラジル人でJ1・セレッソ大阪を率いるレビー・クルピ監督から興味深い話を聞いた。「残念なのは、スタジアム建設に本来必要な額の何倍もの予算が組まれ、使われないままどこかに消えてしまう、というニュース。W杯開催で得た利益を子供の教育に投資してほしい。教育にしっかりお金を掛けないと国は良くならない」。ブラジルは世界の成長を支える新興5カ国(BRICS)の一角を占めながら、公立学校では教員不足が著しい。校舎が老朽化して使えなくなり、近隣の学校へのバス通学を余儀なくされた子供が、そのバス代を払えずにドロップアウトしてしまうケースもあるという。クルピ監督の言葉は、デモ参加者の思いを代弁しているのではないか。

 ◇整備は進んでも庶民貧しいまま
 バイーア州の州都サルバドルでは、4月に完成した巨大スタジアムの目と鼻の先に、ファベーラと呼ばれるスラム街があった。庶民の暮らしと乖離(かいり)したW杯を象徴するような光景だった。西ドイツ大会(1974年)以降、計10回のW杯取材経験があるフリーライターの後藤健生さんは、「どんな場所で開催してもFIFAは同じ基準でスタジアム建設を求めるため、開催国に無理を強いることになる。誰もが楽しめる大会ではなくなってしまった」とFIFAの姿勢に批判的だ。
 コンフェデ杯の観戦チケットは最も安い席で60ドル(約6000円)した。最低賃金が月約600レアル(約2万6000円)といわれるブラジルでは極めて高額だ。「チケットが高く、スタジアムに行けない」と寂しそうに話す現地の子供たちの姿を思い浮かべた。ブラジルで庶民のスポーツの象徴だったサッカーが「富裕層のための娯楽」に変容したこともデモ拡大の遠因だろう。
 2016年、ブラジルはリオデジャネイロ五輪を控える。どのような態度で五輪を迎えるのか。ブラジルでのW杯と五輪は、今後の巨大スポーツイベントのあり方を検証する試金石となるだろう。