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日別アーカイブ: 2013年7月13日

 

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013071302000156.htmlより、
東京新聞【社説】中学生自殺 “大津の教訓”はどこに
2013年7月13日

 またも中学二年生が自ら命を絶った。同級生に自殺をほのめかしいじめに悩む内容のメモもあった。SOSは見逃されたのか。“大津の教訓”を学校などは真剣に受け止めていたのか。疑問が残る。
 「十一階から飛び降りたら死ねるかな」。名古屋市南区の市立中学二年の男子生徒は、死の一週間前、同級生にそう漏らしていたという。
 亡くなった当日は、教室での帰りの会で、級友に
「死んでみろ」
「死ね」と言われ、
「死ねと言うから死ぬ」と言い返していた。
 名古屋市教委は、生徒が残したメモの存在も含め「いじめがあったと疑わざるをえない」として、徹底調査するという。
 いじめは、一般的には見えにくいものだ。だが、今回のケースは教師や市教委がもっとしっかり男子生徒や級友の言動に目を配っていれば、防げたのではないかと悔やまれてならない。
 帰りの会のやりとりを聞いていた女性担任は「死ぬ気もないのに、そんなことを言うもんじゃない」と話したと、複数の生徒が証言している。
 担任は市教委の調査に「そんな発言はしていない」と否定しているという。
 もしも担任が「死ぬ気もないのに…」などと言っていたなら、悲しむべきことだ。
 それ以上に、「死ね」「死ぬ」という子ども同士のやりとりに対し、教育者として指導はできなかったものか。
 大津市では一昨年十月、いじめを原因に中二の男子生徒が飛び降り自殺した。
 大津市は、子どもをいじめから守る条例をつくり、相談・通報・情報の提供などの徹底をルール化した。
 この自殺を受け、名古屋市教委は各校に全校アンケートを求め、亡くなった生徒が通う学校は「いじめの情報はなかった」と報告したという。もし、形ばかりの調査であったのなら残念というしかない。
 いじめを根絶するのは難しい。だからこそ、学校と親が連携して子どもたちの微妙な変化にきちんと目配りしていくべきなのだ。
 自殺した生徒は、メモの中に「悪いのは自分と一部の人」と自分を責めるような記述も残した。
 学校で一体何が起こっていたのか。市教委や学校は責任回避に走らず、きちんと事実と向き合って調べてほしい。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130708/edc13070803350000-n1.htmより、
産経新聞【主張】いじめ防止法 根絶めざす契機としたい
2013.7.8 03:34 (1/2ページ)

 通常国会で成立した「いじめ防止対策推進法」が今秋にも施行される。平成23年に大津市で中2男子がいじめを苦に自殺した痛ましい事件が、与野党による議員立法につながった。
 法制化は、いじめを許さないという国の意思表示だ。新法制定をいじめ根絶を目指す契機とし、学校でも家庭でも、いじめを絶対許さぬ覚悟を強めてほしい。
 新法は、同じ学校に在籍するなど一定の人間関係にある児童や生徒の行為で、対象者が心身の苦痛を感じている状態を「いじめ」と定義した。
 心身に重い被害を受けたケースなどを「重大事態」として、学校に文部科学省や自治体への報告を義務付けた。重大な被害を及ぼす恐れがある場合は、直ちに警察に通報することを明記し、必要に応じて加害側の子供に出席停止を命じることも求めた。
 いじめ対策では、教職員による早期発見が何よりも重要となる。現実から目をそらし、隠蔽(いんぺい)を図ることは許されない。
 インターネット上の中傷もいじめと定義した。道徳教育の充実を求め、学校に相談窓口の整備や必要に応じて被害者側へ適切な情報提供を行うことも義務づけた。
 すべては、過去の悲痛な事件の教訓を踏まえたものだ。学校や教育委員会の対応が、被害者をさらに傷つけるケースも多かった。対策が法制化されても、運用する側の意識改革が伴わなくては効果は上がらない。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130708/edc13070803350000-n2.htmより、
2013.7.8 03:34 (2/2ページ)
 新法はまた、保護者に対しても「子供の教育について一義的な責任を有する」として、いじめについての理解を深めると同時に、いじめ対策に参加、協力する努力義務を課した。いじめの陰湿さや卑劣さは、家庭でも徹底して教え込まなくてはならない。
 大津市でいじめを受けて自殺した中2男子の父親は、新法成立について「いま生きている子供たちを助けるために、息子が命がけで作った法律だと思っている」と涙ながらに話した。
 「日本の学校はあの時から変わったと実感できるまで、この法律の行方を見守り続けていきたい」という父親の思いに応えるのは、新法に血を通わせ、一人でも多くの子供を救うことだ。
 それは、学校や教育現場だけではなく、社会全体に課せられた責務といえよう。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013062202000139.htmlより、
東京新聞【社説】いじめ防止法 社会全体で見守りたい
2013年6月22日

  与野党六党が提出したいじめ防止対策推進法が成立した。いじめは子どもの心身をえぐり、自殺にさえ追い込んでしまう。悲劇が繰り返されないよう社会が一丸となって立ち向かう契機としたい。
 いじめは単なる人間関係のトラブルではなく、決して許されない反社会的行為である。この法律の最大の意義は明確にそう位置づけた点にあるだろう。
 つまりいじめを防ぎ、解決する責任は、教育現場のみにとどまらず、行政や地域、家庭の大人全体で共有すべきだという強いメッセージなのだ。
 自殺や大けが、不登校に追いやったような重大ないじめについては、市町村長らへの報告を学校に義務づけたのが大きな特徴だ。
 大津市の男子中学生の自殺事件で見られたように、問題が表面化する度に学校や教育委員会の隠蔽(いんぺい)体質や事なかれ主義が批判される。風通しの良い環境作りに向けて早急な意識改革が迫られる。
 気がかりなのは、いじめに対処する組織の在り方だ。
 学校には教職員に加え、心理や福祉の専門家らの組織の常設が定められた。いじめの相談に乗ったり、事実を確かめたりする。うまく組織を生かせるか学校の力量が試される。
 逆に、重大な事案の真相解明に当たる組織は常設ではない。問題が発覚してから自治体や学校に置かれるのだ。これでは素早く対応できるのか懸念がある。
 いじめ防止条例をすでに制定した岐阜県可児市や大津市では、学校や教委と切り離された第三者組織が市長の下に常設されている。通報や相談の受け皿の役割も果たす。中立性や迅速性を担保する仕組みとして参考にしたい。
 インターネットを使ったいじめへの対策が盛り込まれたのは時宜にかなう。拡散した書き込みや映像の削除は容易ではない。ネットいじめの実態把握は急務だ。
 子どもは、いじめは悪いと知っている。規範意識を養うのも大事かもしれないが、肝心なのは、いかに早くいじめの芽を摘み取り、深刻化を食い止めるかだ。
 相談体制を整備したり、教員研修を充実したりしても、大人が愛情を注ぎ、子どもとの信頼関係を結べなければ機能しない。背後に潜んでいるかもしれない貧困や虐待、障害への目配りも大切だ。
 子どもを監視して被害者を保護し、加害者を隔離しても落着とはなるまい。どちらも同じようにいじめから守り抜くべき存在だ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130622k0000m070119000c.htmlより、
社説:いじめ防止法 学校は真に変われるか
毎日新聞 2013年06月22日 02時32分

 いじめ防止対策推進法が成立した。いじめは個別の特異な現象ではない。誰にでも、どこにでも起きることと改めて肝に銘じ、取り組みを学校教育の活性化にも生かしたい。
 大津市の男子中学生の自殺など、学校現場で深刻ないじめと、その救済機能が十分働かない実態が相次いで明らかになり、対策が法制化されることになった。
 重大ないじめは学校から自治体首長らへの報告を義務づける。学校は調査組織や相談体制を整え、法務局や警察とも連携する。調査には第三者の目を入れる。いじめた子には必要に応じて出席停止処分もする。
 こうしたことなどを挙げ、被害者の救済と教育を受ける権利の保障の視点から、学校、教育委員会、自治体、国などの責任の明確化と速やかな対処を強調する。
 ただ、いうまでもないが、この法がなかったから過去いじめ問題が相次いだというわけではない。
 これまでのいじめ、あるいは体罰問題では、見て見ぬふりや、悪ふざけ程度にしかとらえない安易なきめつけ、あるいはマイナス評価を恐れての隠蔽(いんぺい)など、制度以前に問われる過ちが各地で表面化した。
 一方、懸命に取り組む教員が要員不足や多忙事務にもはさまれて、孤立無援の状況に陥ることもある。
 隠蔽の場合、よく指摘されるのは「物言えぬ風土」という背景だ。
 法は学校に遅滞ない報告を義務づけるほか、いじめが起きても後の対処を「適正に評価」するとして報告を促す。
 だが、隠蔽的な体質はいじめに限定されて出るものではない。
 それは、学校運営のさまざまな面で、コミュニケーションや連携がうまくとれていないことの表れではないか。そうした視点も持ちたい。
 いじめ問題に取り組み、改善していくことは、学校教育全体のありようを考えさせることにもなる。
 たとえば信頼関係だ。被害に苦しんでいたり、傍観者である自分に悩んでいたりする児童・生徒。その様子を見抜き、相談を受けてきちんと実情を聞き取るには、制度の前にふだんの信頼関係が必要だ。被害、加害双方の側の保護者との関係でも同様だろう。
 こうした法や制度の本来の主眼は、総がかりで問題に当たる姿勢や仕組みでいじめを未然に防ぎ、初期に芽をつむことにある。
 文部科学省は今後、法に基づき「いじめ防止基本方針」を定め、地方自治体はこれを参考に「地方いじめ防止基本方針」を定める。
 細々とした規定より、取り組みやすい現場の態勢づくり、協力や情報共有の仕組みづくりにまず力点を置くべきではないか。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013071302000145.htmlより、
東京新聞【社説】<2013岐路>雇用政策 流動化よりも安定だ
2013年7月13日

 安定雇用か、労働移動しやすい働き方か。「雇用流動化」の是非も争点の一つだ。働き手からすれば「流動化イコール不安定化」では生活の安定は望めない。
 雇用の現状は、雇用保障が手厚い正社員と、不安定雇用・低賃金の非正規労働とに二極分化している。非正規は全雇用者の38%に達し、家計の担い手にまで広がる。結婚や子育ても難しく、少子化や消費停滞を招いている。
 これまでの選挙で各党は、非正規の待遇改善や正社員化を掲げた。今回の焦点は成長戦略の一環として浮上した雇用の流動化、大胆にいえば正社員改革である。過剰に抱えた労働者を移動しやすくすることで企業の生産性を高めようという経営者寄りの論理である。
 自民党は「成熟分野から成長分野への失業なき円滑な労働移動を進める」、公明党は「短時間正社員制度を拡充」と、どちらも「流動化」派だ。日本維新の会とみんなの党も考えを同じくする。反対に雇用安定に重きを置くのは民主、社民、生活の党といえる。
 本来、成長分野などへの労働移動は働き手が自由意思で決めるべきものではないか。政府の規制改革会議では、解雇の金銭解決などが議論されたが、具体的に打ち出されたのは勤務地や職種を限定した「限定正社員」という雇用形態である。福利厚生などは正社員と同等だが、業務縮小などで職務や職場がなくなれば解雇される。
 確かに、現状の正社員の働き方には問題もあり、子育てや介護などで転勤や長時間労働が難しい人にとって限定正社員はメリットとなり得る。しかし、その便益を確実なものにするためには、安易な解雇や賃金カットを防ぐルールが欠かせない。「解雇しやすい正社員」となっては元も子もない。
 さらにいえば、限定正社員が非正規労働からの受け皿になるのであれば歓迎だが、それより人件費削減のために正社員に置き換わる危惧をぬぐいされないのである。
 振り返ってみると、雇用流動化の原点といえるのは、一九九五年に日経連がまとめた報告書「新時代の『日本的経営』」だ。企業が総額人件費を抑えられるとして非正規雇用を広めるきっかけとなった経営指針である。
 今回が「解雇しやすい正社員」解禁の分水嶺(れい)にならないとも限らない。普通の人々が望んでいるのは安定した雇用である。企業の論理だけで決めていいはずがない。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130712/elc13071203160022-n1.htmより、
産経新聞【主張】参院選と復興 即効性ある施策で論争を
2013.7.12 03:16 (1/2ページ)

 東日本大震災の被災地では、いまだに約30万人が避難生活を余儀なくされている。3度目の夏を迎え、いらだちは募るばかりだ。
 各党ともに参院選では「早期復興」を掲げ、足並みをそろえている。しかし、その前には深刻な人手や建設資材の不足という問題が立ちはだかっており、復興事業の遅れは解消されていない。
 この現実を変えられなければ、公約はかけ声倒れに終わる。被災者の立場を理解し、復興を進捗(しんちょく)させる実効性ある施策を各党は競い合ってほしい。
 岩手、宮城、福島の東北3県の被災地では、復興の本格化に向けて防潮堤など大型工事の計画がめじろ押しだ。だが、宮城県では昨年度に発注した復興事業の約3割で応札者がいないなどの「入札不調」が続いている。建設作業員や生コンクリートなど資材の不足が響いているからだ。
 被災3県では、ようやく370地区で住宅の高台移転などの計画がまとまった。それでも、着工にこぎ着けたのは4割に満たない水準にとどまっている。公営復興住宅の建設は、計画数の1割程度にすぎない。これでは被災者の生活再建には程遠い。
 自民、公明両党は昨年12月の政権復帰後、復興予算を19兆円から25兆円に引き上げた。両党は被災した自治体に配分する復興交付金の対象を拡大することを、参院選公約に盛り込んだ。民主党も「人材や資材不足への対応に万全を期す」としている。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130712/elc13071203160022-n2.htmより、
2013.7.12 03:16 (2/2ページ)
 問題意識は正しい。復興事業の早期着工完了にどうつなげるかの具体論について、もっと踏み込んだ議論を聞きたい。
 みんなの党や日本維新の会は、地元の自治体に権限を与えて復興を促進すべきだという。被災地では複数の復興事業の設計や工事を一括発注し、コストを引き下げる試みも始まった。地域の実情に適した公共事業のあり方も問われている。
 被災3県のうち原発事故の影響が大きかった福島県の復興の遅れが懸念される。震災がれきの処理も宮城、岩手に比べて遅れ、避難者の半数が福島に集中する。効率的な除染方法の検討が必要だ。
 被災者が地元で働ける場所の確保も不可欠といえる。各党はいかに企業誘致を図るかのアイデアも出してほしい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130711k0000m070111000c.htmlより、
社説:視点・参院選 雇用=論説委員・野沢和弘
毎日新聞 2013年07月11日 02時30分

 ◇流動と安定のねじれ
 「流動」か「安定」かという明確な対立軸があるのが雇用だ。解雇の金銭解決や限定正社員など政府の規制改革会議で注目された政策を大胆に進め、雇用を流動化して成長につなげようというのが日本維新の会とみんなの党。真っ向から反対し雇用の安定を求めるのが民主党、共産党、社民党、生活の党だ。
 与党側は自民党が「失業なき円滑な労働移動を進める」、公明党が「短時間正社員制度を拡充」と慎重な言い方だが「流動」に軸足を置く。
 企業に内部留保を吐き出させ賃金アップや雇用の確保を求める安定派は労働者にやさしいと思われそうだが、そう単純な話でもない。コスト削減のため海外に移転する企業、従業員を酷使して使い捨てる「ブラック企業」が増殖する恐れがないと言い切れるだろうか。苦しい現実に直面している非正規雇用の若者には安定派が正社員の既得権を固守する勢力に見えるかもしれない。一方の流動派も労働者の暮らしを守るための社会保障の拡充とセットでなければ不安を増幅するだけだ。
 雇用は社会保障や家族のあり方と密接に絡まり合って変わってきた。大家族での暮らしが当たり前だった時代にはお年寄りや子どもは家族内で扶養されていた。正社員の夫が一家の家計を支え、専業主婦の妻が家族の世話をする家族モデルだ。年金や介護や保育など公的な社会保障の必要性が高まるのは、大家族が核家族へ変わり、さらに独居や夫婦のみ世帯が増え、家族内扶養が崩壊する過程においてである。
 同時に、家族全体の暮らしを賄える収入がある正社員は減り続け、社会で働く女性が増えた結果「正社員の夫・専業主婦の妻」は少数派に転じ、「夫婦共働き」が主流になった。
 家族と社会保障の変遷を眺望すると、「家族の尊重、家族は互いに支え合う」と独自の憲法改正草案でうたう自民党は旧来の家族内扶養を重んじる思想を大事にしていることがよくわかる。逆に子育ての社会化や年金の拡充など「夫婦共働き」モデルを前提とした政策を打ち出してきたのは民主党だ。
 ところが、雇用政策になると自民党は流動性を模索し、女性の社会参加や起業も進めるという。逆に民主党は安定を求めて保守的になる。この「ねじれ」は何なのか。支持母体の要求や有権者に受けそうなことを場当たり的にのみ込むところからくるものなのか。考え抜いた理念と政策の整合性がないと、どのような社会を目指そうとしているのかよくわからない。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57182740Q3A710C1EA1000/より、
日経新聞 社説 公共事業で優先すべきは被災地復興だ
2013/7/10付

 東日本大震災の被災地があの地震から3度目の夏を迎えている。今も30万人近い人々が避難生活を続けている。生活の再建も産業再生もこれからが本番だ。
 岩手、宮城、福島の3県では現在、約370地区で高台などへの住宅移転や地盤のかさ上げ事業を予定している。工事が始まったのは4割に満たない。災害公営住宅の着工は必要数の1割だ。
 福島では放射性物質を取り除く除染作業が遅れている。原子力発電所の事故で立ち入りが禁止されていた「警戒区域」の再編が終わり、これから生活インフラの復旧に取り組む段階だ。
 被災地の復興が思うように進んでいない背景には、深刻な人手不足がある。生コンクリートなどの建設資材も足りない。被災地再建に必要な予算を確保しても、これでは計画通りに進まない。
 安倍晋三政権はアベノミクスの柱のひとつに財政出動を掲げ、2013年度の公共事業予算は前年度に比べて約15%増えた。全国的な公共事業の増加は景気面ではプラスだろうが、被災地の人手不足をさらに悪化させている。
 これでは自民党が参院選の公約の最初に掲げる「復興の加速」が看板倒れになりかねない。被災地で様々な事業に取り組む人材を確保する新たな仕組みが必要だ。
 公共事業の内容も気になる。自民党と公明党は先の通常国会に国土強じん化基本法案を提出した。南海トラフ地震や首都直下地震に備えて避難路を確保したり、住宅の耐震化に取り組んだりするのは確かに必要だ。老朽化が著しい橋などの補修も緊急の課題だろう。
 しかし、自民党の総合政策集には「日本海国土軸など多軸型国土を形成する」といった旧来型の発想の事業がちりばめられている。一部の道路は「従来の事業評価にとらわれずに積極的に整備する」とまで書いている。
 防災に名を借りた新たな公共事業のばらまきになりはしないか心配だ。震災復興の予算が被災地に関係ない事業に流用されている問題も解決していない。
 自民や公明に対して民主党は対立軸を示せていない。「コンクリートから人へ」という看板を下ろしてしまったためだろうか。
 防災や減災対策は必要だが、まず優先すべきは被災地の復興だ。この点を再確認したい。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130710k0000m070113000c.htmlより、
社説:視点・参院選 女性の活用=論説委員・福本容子
毎日新聞 2013年07月10日 02時30分

 ◇なぜ隗より始めない
 「日本女性の労働参加を、あなたは本当に改善できますか」−−。先月、ロンドンで経済政策について講演した安倍晋三首相は英BBCの記者から質問を受けた。首相は、企業が役員の1人を女性にするよう経済界に要請したことや、自民党の幹部三役の二つに女性を充てたことを挙げ、誇らしげだった。
 ただ、女性首相が何人も誕生し、閣僚や企業役員の4割が女性という国もある欧州である。安倍首相の返答はどれくらいインパクトを与えただろうか。
 日本にも、各分野の指導層を30%以上女性にする、という目標がある。10年前に政府が定めたもので、期限は2020年。国会議員も当然、対象だ。
 だが現状は厳しい。女性議員の比率(下院、日本は衆院)で日本は8・1%と世界123位の情けなさだ。列国議会同盟(IPU、本部ジュネーブ)の調査によるものである。
 そのIPUと国連の共同報告によれば、一定数以上の候補者を女性とするよう義務付けるなどしている国では、女性の当選者比率が何もしていない国の2倍あった。日本もこうしたクオータ制の導入を急ぐべきだ。
 議員のクオータ制は法律がなくても、主要政党に意思さえあれば、実現する。まず、隗(かい)より始めよ、だ。そこで各党の女性候補者数を見てみると−−。
 公示前に参院に議席を持つ政党のうち、今回女性候補が10人以上で、かつ党の全候補に占める比率が3割を超えたのは、みんなの党だけだった。参院選公約に、「20年までに30%」を「確実に達成します」と明記した自民は、11.5%(9人)に過ぎず、過去2回の参院選よりむしろ低い。民主(18.2%)の方が高いが、3割には届かない。
 人口の半数以上が女性で、選挙人名簿登録者数は、女性が男性より約350万人も多い。各党とも、選挙の時は公約に女性受けしそうな言葉を並べる。
 その言葉の本気度を知るための材料になるのが、女性候補への各党の姿勢だ。積極的に人材を見いだし、支援し、育てようとしているか、見定めたい。
 もちろん、女性候補にも高い志が求められる。将来、閣僚や首相に就くことも見据えた息の長い政治活動に励んでほしい。
 南米チリ初の女性大統領となり、今年3月まで国連の新組織UNウィメンの初代事務局長を務めたミチェル・バチェレ氏はかつてこう語った。「女性がフルに、対等に、参加することで民主主義は強くなる」。民主化の遅れた途上国を念頭にした言葉かもしれないが、日本にもあてはまるはずだ。

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57075370X00C13A7PE8000/より、
日経新聞 社説 アベノミクスを進化させる論戦を
2013/7/7付

 21日投開票の参院選で真っ先に問われるのは、経済再生の処方箋である。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の評価が最大の争点になるのは間違いない。
 自民、公明両党がアベノミクスの成果ばかりを誇示し、野党が対案なき批判を繰り返すだけでは、建設的な論戦になり得ない。強い経済を取り戻すため、最善の政策を競う場にしてもらいたい。

「岩盤規制」に踏み込め
 日銀の資金供給量を2倍に拡大し、前年比2%の物価上昇率目標をほぼ2年で達成する。事業規模20兆円を超える緊急経済対策で当面の景気を下支えする――。昨年末に発足した安倍政権は直ちに1本目と2本目の矢を放った。
 世界経済の回復や欧州債務危機の一服という下地はあったにせよ、アベノミクスが円安・株高を引き寄せ、家計や企業の心理を好転させたのは確かだ。その功績を過小評価することはできない。
 だが企業収益の改善が設備投資の拡大につながり、雇用の増加や賃金の上昇をもたらすという好循環にはほど遠い。家計は成長の果実をまだ享受できずにいる。
 世界を見渡せば、中国をはじめとする新興国の景気減速が懸念される。米国の量的金融緩和第3弾(QE3)の出口論議が金融市場を混乱させる恐れもある。
 逆風に耐えながらデフレを確実に克服するには、民間の活力を引き出す3本目の矢が決定的に重要だ。金融緩和と財政出動に頼り切るのではなく、効果的な成長戦略を実行しなければならない。
 日本経済の主力エンジンは企業である。ここが力を発揮しない限り、雇用や賃金という恩恵が家計に行き渡らない。企業の活性化を重視する安倍政権の成長戦略や自民党の参院選公約は理にかなう。
 しかし年間の設備投資を63兆円から70兆円に増やすといった数値目標が踊るわりに、肝心の政策手段は迫力を欠く。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加は評価できるものの、法人減税や規制緩和への踏み込みは足りない。
 自民党は「思い切った投資減税を行い、法人税の大胆な引き下げを実行する」というが、時限的な政策減税の効果には限界がある。幅広い国内企業に恩恵が及び、海外企業も呼び込める法人実効税率の引き下げに動くべきだ。
 日本維新の会とみんなの党はアベノミクスの金融緩和に賛同する一方で、力不足の成長戦略を批判する。維新は混合診療の全面解禁、みんなは株式会社の農業参入の原則自由化などを求める。
 いずれも圧力団体の抵抗が強く自民党が踏み込めずにいる「岩盤規制」である。安倍首相が「常に進化していく成長戦略」を標榜するのなら、岩盤を崩すところまで突き進むのか否かが問われる。
 民主党はアベノミクスの「副作用」をやり玉に挙げる。給与や年金が増えていないのに生活必需品などが値上がりし、国民の生活を圧迫しているという理屈だ。急速に進んだ円安が輸入物価を押し上げ、食料やエネルギーの価格に跳ね返っているのは事実である。
 だが、円高やデフレが長期化すれば、企業収益が悪化して雇用や賃金を押し下げる。そんな状態を民主党も容認しているわけではなかろう。アベノミクスの泣きどころを突くのはいいが、それならもっと具体的な対案を示すべきだ。

対案乏しい野党の公約
 海江田万里代表は「子育て世代の手取り額を増やし、持続的な成長を目指す」と語る。かつての民主党政権は家計の支援を重視し、子ども手当の支給などに踏み切ったが、財源の手当てができずに行き詰まった。その失敗に学び、成長戦略を練り直さなければ、失った信頼を回復できまい。
 社民党や生活の党は賃金の上昇を強く訴える。だが賃上げ目標の設定や企業の内部留保の活用といった抽象論にとどまり、同じく対案を示せずにいる。
 自民党は今後10年間の平均で、3%の名目成長率と2%の実質成長率を実現する目標を掲げた。公明党はデフレ下で失った平均給与10%分を取り戻すという。
 国民は「失われた20年」といわれる日本経済の長期停滞と、今度こそ決別することを望んでいる。アベノミクスの功罪をきちんと検証し、足らざるところを補う論戦を期待しているはずだ。3本の矢をさらに進化させるような実りある参院選であってほしい。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html?ref=com_top_pickup#Edit2より、
朝日新聞 社説 2013年 7月 5 日(金)付
経済論戦―将来世代への責任は

 参院選が公示された。
 論戦の中心は安倍政権の経済政策、アベノミクスだ。
 与党が円高の是正や株価の上昇、企業業績の好転を背景に、その「実績」を強調するのに対し、野党は食料品の値上がりといった国民生活への副作用を批判する。
 こうした舌戦はもちろん大切だ。しかし、私たち有権者は政治家が語りたがらないことに目を向ける必要がある。
 膨らみ続ける借金にどう歯止めをかけ、将来世代へのつけ回しを改めていくか、という問題である。
 財政再建をめぐっては昨年、民主党政権と野党だった自民、公明両党が「社会保障と税の一体改革」を成立させ、2段階の消費増税を決めた。
 だが、国の借金総額は国内総生産(GDP)の2倍、1千兆円を超えて、なお増え続ける。消費増税で事足れりという甘い状況にはない。
 経済成長による税収増に、増税を中心とする負担増と、歳出の削減をあわせた「3本の矢」こそが必要だ。
 そうした苦い薬を示して、初めて責任ある政党と言えるはずだが、安倍政権は、今後の財政収支の見通しや再建計画づくりを参院選後の8月に先送りし、「消費増税の可否は秋に判断する」と繰り返す。
 自民党の公約には、「一体改革」や「消費増税」が出てこない。一方で、国土強靱(きょうじん)化の推進や交通ネットワークの整備、農業分野の公共事業など、歳出増につながる項目が並ぶ。
 アベノミクスも、3本柱のうち「異次元の金融緩和」と大型の財政出動は、痛みを先送りする政策でもある。核となるべき成長戦略が既得権層への切り込み不足のままなら、財政赤字を拡大させただけで終わり、となりかねない。
 負担増に口をつぐむのは、野党も同じだ。民主党は財政健全化責任法の制定をうたったものの、社会保障など個々の政策では「充実」や「引き上げ」が目立ち、本気度に疑問符がつく。
 他の党の大半は消費増税への反対を叫び、どう財政を再建するのか、説得力のある対案を示せていない。
 経済の活性化と負担増の両立は確かに難しい。だが、持続可能な社会をつくるために、ギリギリの経済運営を迫られているのがいまの日本だ。
 負担増を嫌い、給付充実を訴える政党の姿は、私たち自身の写し鏡でもある。
 将来世代への責任という視点を忘れないようにしたい。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130705/elc13070503180076-n1.htmより、
産経新聞【主張】参院選スタート 経済再生への具体策競え 成長戦略の覚悟を聞きたい
2013.7.5 03:18 (1/4ページ)

 参院選の本格的な論戦が始まった。デフレ脱却と経済再生を目指す安倍晋三政権の「アベノミクス」が最大の争点だ。
 首相は福島市内での第一声で「覆っていた空気が大きく変わった」と円高是正をはじめ半年間の実績を強調した。一方、民主党の海江田万里代表は輸入品の値上がりなどアベノミクスの「副作用」を批判した。看板政策一点張りの自慢と、それをけなすだけでは、論戦の深まりは望めない。

《目標は脱デフレ実現だ》
 国民がもっと聞きたいのは、脱デフレを確かなものとし、成長戦略が真に効果をもたらすよう、政策をどう肉付けしていくかの具体論だ。与野党には説得力のある国家再生策を競ってほしい。
 金融緩和方針などアベノミクスの方向性を支持したうえで、第3の矢となる成長戦略について「もっと規制改革に踏み込むべきだ」と厳しい注文をつける日本維新の会やみんなの党に注目したい。
 アベノミクスは、すでに放たれた2本の矢により一定の成果を上げている。2%の物価上昇目標を掲げた日銀による大規模な金融緩和と、公共事業を中心にした10兆円規模の大型補正予算だ。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130705/elc13070503180076-n2.htmより、
2013.7.5 03:18 (2/4ページ)
 日経平均株価は昨年11月に総選挙が決まってから6割上がった。1ドル80円程度という歴史的な円高も是正され、輸出企業の採算は大きく改善した。金融市場で見られた混乱も収束しつつある。
 維新などはこれらの一定の成果は認めたうえで、政府の成長戦略について新市場の開拓につながる規制改革の不十分さを指摘する。実際、維新は医療、福祉分野の規制緩和を公約で強く打ち出し、自民党との違いを強調している。
 自民党は農業など、既存の支持団体との関係を重視して改革に踏み切れないとの指摘にはうなずける点も多い。
 企業活力を引き出し、成長を促す規制緩和の実現は欠かせない。安倍首相の改革への覚悟が問われる点といえるだろう。
 民主党は脱デフレの代案を示さず、雇用や賃金引き上げを重視するとしながら具体論を出していない。企業収益が安定して増えなければ従業員に配分する賃金の原資も増加を見込めない。
 生活の党や社民党と同様に「国民生活の破壊」などと政権批判ばかりを展開しているのは、受け皿を目指す責任ある政党の姿勢といえるだろうか。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130705/elc13070503180076-n3.htmより、
2013.7.5 03:18 (3/4ページ)
 各党は原発・エネルギー政策も主要な争点と位置付けている。何よりも具体的に論じなければならないのは電力供給だ。生活と産業を守るには、安価で安定的な電力供給が欠かせない。
 自民党を除く各党は「脱原発」の姿勢を示すが、その代替電源を確保する道筋を示さなければ具体的な政策とは言いがたい。
 来年4月に税率を5%から8%に引き上げる消費税増税も正面から論じねばならない。安倍首相は3日の9党首討論会で「税収が伸びなければ元も子もない」として、4~6月期の国内総生産(GDP)などの経済指標をみながら慎重に判断する考えを示した。

《国の将来像を説明せよ》
 消費税増税は、社会保障と税の一体改革を目的として自民、公明、民主の3党が主導した。安定した財源の確保が狙いだが、社会保障制度の見直しが前提だ。
 みんなや生活などは増税反対を唱えるが、安定財源をどう確保するのか。財政再建に道筋をつけ、増加の一途をたどる社会保障費をどう抑制するのかなどについて、論戦を通じて国民に将来像をわかりやすく説明する必要がある。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130705/elc13070503180076-n4.htmより、
2013.7.5 03:18 (4/4ページ)
 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐっては、維新やみんなも「国益を勝ち取る交渉を目指す」と参加を前提とした主張を掲げる。自民、民主には交渉脱退に余地を残し、支持団体に配慮する姿勢もうかがえる。
 通商自由化を通じた成長力確保は不可欠だ。農業改革も待ったなしの課題だ。農地集約化など競争力のある農業を構築するための議論を望みたい。
 経団連の米倉弘昌会長は「政策を迅速かつ着実に実行できる環境」を政治に求めた。第1次安倍内閣以降、毎年首相が交代してきた。政治の混乱が日本経済の信認を損ねてきた。
 安定した政権を築き、本格的に経済を再生させるために何が必要か。有権者も重い判断を迫られている。