悪化する日本の安全保障環境 布施広氏
http://mainichi.jp/opinion/news/20130215k0000m070120000c.htmlより、
記者の目:悪化する日本の安全保障環境=布施広
毎日新聞 2013年02月15日 01時12分
◇イランより北朝鮮こそ脅威だ
尖閣諸島をめぐる中国の挑発に加えて北朝鮮の3度目の核実験。「力」を信奉する前近代的で危険な行為が、日本の平和を揺さぶる。アルジェリアではアラブは親日的という「定説」をあざ笑うように10人の日本人が殺された。改めて思う。私たちは日本と日本人の安全策をとことん考えるべきである。イランより北朝鮮の核が世界の脅威であることも、しっかり訴えたい。
◇学生の約半数が核武装は「必要」
まず次代を担う若者は現状をどうとらえているのか。私が出入りしている国立大の理系学生112人と私立大の文系学生23人のアンケート結果を紹介したい。便宜的に前者の回答者を理系、後者を文系と呼ぶことにしよう。
日本の安全保障に不安を抱く学生は理系で5割、文系で6割に上る。憲法9条改正の賛否の比率は理系で4対3、文系は5対2で、ともに賛成が多数派だ。この辺は想定内ながら、日本の核武装を「必要」「場合によっては必要」と答えた人が理系で5割弱(48%)、文系は52%と半数を超えたのには驚いた。
今後50年の対中関係を問うと、理系の7割弱と文系の9割超が「関係悪化」か「険悪な対立」を予想した。昨年10〜11月の調査で、少々時間がたって恐縮だが、若者の危機意識は非常に強いのだ。
そして残念なことに、日本の危機はさらに深まると思う。北朝鮮の最終的な狙いは米国に届く核ミサイルの完成だろうが、日本を射程に収める核ミサイルを配備した時点で東アジアの戦略環境は大きく変わり、「血で固めた盟約」を持つ中国・北朝鮮の存在感は一層強まるに違いない。
ほぼ半世紀前(62年)、ソ連は友邦キューバに、米国をにらむ核ミサイルを搬入した。北朝鮮の場合は搬入ではなく自前の開発だが、このキューバ危機の東アジア版と言えぬこともない。時のケネディ大統領は核戦争も辞さぬ態度で核ミサイルを撤去させたが、日本にそんな腕力はない。妙案がなければ私たちは早晩、北朝鮮の核ミサイルの脅威の下で暮らすことになる。
「別にかまわんよ」「心配しすぎ」と言ってもらえばいっそ気が楽だが、今日の事態は10年も前から自明であったことを確認しておこう。大きな分かれ道は03年、米ブッシュ政権が大量破壊兵器を理由にイラク戦争を始めた時だ。もう一つの問題国家・北朝鮮は悠々と核開発を進める時間を得た。そして米国がイラクで迷走していた06年に最初の核実験を行うのだ。
◇米国は中東偏重外交から転換を
http://mainichi.jp/opinion/news/20130215k0000m070120000c2.htmlより、
その後も米国の北朝鮮対応は場当たり的だった。最愛の同盟国イスラエルに配慮してイランの核開発に関心が向きがちだった。だが、次期国防長官に指名されたヘーゲル元上院議員は先月、北朝鮮は現実の核保有国になったとの認識を示し、オバマ大統領は一般教書演説で北朝鮮を強く非難した。遅まきながら中東偏重外交を改める潮時だろう。北朝鮮はシリアやイランの核開発を支援している疑いもある。米国は北朝鮮の核にこそ真剣に向き合うべきだ。
私は昨年10月16日の本欄で、尖閣問題とイラクのクウェート侵攻(90年)を比べ、「穏やかでない」などと一部のおしかりを受けた。だが、中国の海洋進出と北朝鮮の核開発に伴う危機の深さは、すでに多くの日本人が認識している。だから憲法改正だと勢い込むのは感心しないが、日本の立場を懸命に発信しないと、この危機は乗り切れまい。
中国は国連安保理常任理事国なのに、領海侵犯やレーダー照射などは「武力による威嚇」を禁じた国連憲章に反する。「反日デモ」も「日本には何をしてもいい」といった東アジア特有の道徳的混とんを感じさせる。北朝鮮の核は言うに及ばず、東アジアの前近代的な部分を変えないと日本の未来は暗いだろう。
それも米国との連携が前提だが、緊密な日米関係がイスラム世界で反日感情を生んでいるとの声がある。元中東特派員の私はこうした意見を尊重したい。ただ、米同時多発テロを実行したアルカイダは10年も前から日本を敵視している。複雑化する国際関係やイスラム過激派の広範な増殖を考えれば、日本人のみテロの例外となるのは至難の業だ。
だからこそ、激変する中東でも日本の意思を発信し続ける必要がある。昨秋、パレスチナの国連参加資格について、米・イスラエルが反対したのに日本は賛成に回り、イスラム諸国に歓迎された。利害は時に相反するにせよ、日本の公正なイメージを長期的に守ることが大事だ。思うに、優柔不断、付和雷同は、イスラム世界で特に嫌われる。筋を通す、したたかな平和主義がいいと思う。