国会議員は「低齢化」しているぞ 岩見隆夫氏

http://mainichi.jp/opinion/news/20130220org00m010003000c.htmlより、
サンデー時評:国会議員は「低齢化」しているぞ
2013年02月20日

 ◇岩見隆夫(いわみ・たかお=毎日新聞客員編集委員)
 先日届いた『国会便覧』の最新号を見ていて気づいたことが一つある。意外にも、世の高齢化が進むのに逆らうように、国会議員は〈低齢化〉に向かっているのだ。これは何かを示唆しているのだろうか。

 昨年暮れの総選挙で当選した衆院議員四百八十人についてみると、最高齢は八〇歳の石原慎太郎日本維新の会共同代表、続いて保利耕輔(七八歳)、亀井静香(七六歳)、伊吹文明(七五歳)、二階俊博(七四歳)、平沼赳夫、保岡興治(七三歳)、麻生太郎、竹本直一、宮路和明(七二歳)、これが高齢ベスト一〇だ。七〇代以上は二十三人である。

 さて、手もとにある古い『便覧』を繰ってみる。十年前の国会は、石原さんより年長が奥野誠亮(九〇歳)、中曽根康弘(八五歳)、相沢英之、宮沢喜一(八四歳)、塩川正十郎、山中貞則(八二歳)と六人もいる。七〇代以上が六十九人。

 二十年前はどうか。石原さんより上が原健三郎(八六歳)、二階堂進(八四歳)、河本敏夫(八二歳)、桜内義雄、長谷川峻(八一歳)と五人で、七〇代以上が六十四人である。

 四十年前にさかのぼると、一九七三(昭和四十八)年だが、最高齢は千葉三郎、島村一郎の七九歳、七〇代以上が五十八人だ。

 以上四十年間の推移を見ると、最高齢者の比較も面白いが、もっとも注目すべきは高齢者の政治活動だろう。国会には老壮青のうち七〇代以上の老がたえず六十人前後、全議員の一割以上を占め、増える傾向にあった。

 ところが、どうしたことか、十年ぐらい前から激減しはじめ、いまではピーク時の三分の一に減っている。老の経験と知恵は生かされているのか、という不安につながるのだ。

 経験は当選回数が一つの目安になる。現在の最多当選は小沢一郎生活の党代表の十五回、次いで野田毅十四回、鳩山邦夫、保利耕輔、保岡興治、亀井静香、中村喜四郎の五人が十二回、麻生太郎ら八人が十一回、甘利明ら八人が十回、合わせて十回当選以上が二十三人である。

 過去はどうか。十回以上が、十年前は二十回の中曽根康弘をはじめ三十二人、二十年前は十八回の原健三郎をはじめ三十六人、四十年前は十四回の船田中、三木武夫をはじめ六十人だった。ここでも減少傾向が顕著である。

 逆に一回当選の新人を見ると、現在が百八十四人、十年前は百八人、二十年前百三十二人、四十年前九十三人、ちなみにこの九十三人のうち、現役で生き残っているのは野田毅、保岡興治の二人だけだ。新人は四十年前にくらべると倍増している。

 ◇内憂外患の安倍首相 長老の助言を大切に
http://mainichi.jp/opinion/news/20130220org00m010003000c2.htmlより、
 数字ばかりあげたが、要するに国会議員の老壮青バランスが崩れてきたと思う。国民の年齢構成に必ずしも比例させる必要はなく、政治家という熟練を要する特異な仕事の性格上からも、老(七〇歳以上)、壮(四〇歳以上)、青(二五歳以上)の比率は二・六・二くらいが好ましいのではないか。

 それを一応の尺度にすると、衆院四百八十人は老九十六人、壮二百八十八人、青九十六人になるが、現状は老二十三人、壮三百八十六人、青七十一人という構成だ。青はまあこの程度でいいとして、老が四分の一しかなく不足している。なぜこんなことになるのか。

 二〇〇三年十一月の総選挙の前、自民党で起きた中曽根・宮沢切り捨て事件を思い出す。当時、小泉純一郎首相は比例代表の七三歳定年制を理由に、

「引退してほしい」

 と通告した。両元首相はともに議員継続の強い意欲を持っていたが、小泉さんは押し切り、中曽根さんが、

「まるで政治テロだ」

 と面罵する場面まであった。二人は各国首脳とも昵懇で世界に顔がきく貴重な存在、小泉さんの意図がわからなかった。長老排除によって党のイメージアップをはかり選挙を有利にしようとしたのではないか、などと言われたが、この時の選挙で自民党は負けている。また、

「定年制の例外を認めると歯止めがきかなくなり、政界は老人だらけになる」

 と小泉さんに賛同する声も聞かれた。この時、小泉さんは六一歳の壮年、八五歳の中曽根さん、八四歳の宮沢さんの両長老を国会から強引に追放したのだが、私には浅慮と思われた。

 世代交代とか指導者若返りはいつも唱えられてきたスローガンで、それはそれでいいが、老人排除ということではない。排除すれば政界は確実に薄っぺらになる。

 なんとなく老人は居づらいような空気が、最近の政界には広がっているのかもしれない。昨年暮れの総選挙前にも、森喜朗元首相(七五歳)、福田康夫元首相(七六歳)、藤井裕久元財務相(八〇歳)、渡部恒三民主党最高顧問(八〇歳)、武部勤(七一歳)、古賀誠(七二歳)、中川秀直(六八歳)の三元自民党幹事長らが、余力を残しながら去っていった。このうちの一人に、私は、

「なぜ辞め急ぐのか」

 と問うたことがある。

「いや、いや、まあ、引き際も大事なんで」

 と意味不明瞭だった。

 日ごろは壮青でやれるが、いざという時には老の長年の経験による洞察、深い知恵が求められる。ことに年明け以来、日本を取り巻く国際環境はキナ臭く、半月ごとに事件が起きているのだ。

http://mainichi.jp/opinion/news/20130220org00m010003000c3.htmlより、
 アルジェリアの過激勢力による人質事件で十人の日本人が犠牲になった(一月十六日)かと思えば、尖閣諸島沖では中国軍艦から日本の自衛艦に射撃用レーダーが照射され(一月三十日)、対応に追われているうちに、今度は北朝鮮が三回目の地下核実験を強行した(二月十二日)。来週ごろ、次の事件が起きそうな予感がして不安である。

 日本だけが狙われているわけではない。しかし、気がついてみたら狙いやすい国になっている。三・一一東日本大震災以来、この国は内から外から攻め立てられ、あえいでいる。普通ではない。

 安倍晋三首相はこんな時、長老のアドバイスに耳を傾けたほうがいい。

<今週のひと言>
 きのう何が起きたか、忘れそう。
(サンデー毎日2013年3月3日号)

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